ナダルに敗れた次代の「赤土の王」 23歳ティエム、真のトップへの階段

内田暁

準々決勝ではジョコビッチに完勝

2年連続で全仏ベスト4に進出したティエム。“期待の若手”がいよいよ、真のトップへステップアップする 【写真:ロイター/アフロ】

 その日のコート、スザンヌ・ランランは、窮地に追い込また選手に向ける、観客からの激励の声援と同情のため息に包まれていた。

 全仏オープン準々決勝の、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)対ドミニク・ティエム(オーストリア)戦――。普段はそれら観客たちのエールは、ジョコビッチの対戦相手に送られるものだ。だがこの日、相手のショットを見送るしかなく、うなだれていたのはジョコビッチである。うなり声を上げて放たれるティエムの強打は、時にジョコビッチのラケットを弾き、時に赤土をえぐり高く跳ねると、そのままフェンスへと到達した。結果は7−6、6−3、そして第3セットは6−0のスコアライン。23歳の新鋭が6度目の対戦で初めてジョコビッチを破り、同時に、2年連続となる全仏オープンベスト4進出を決めた。

 ティエムが“次代のテニス界を担う若手”として注目されるようになったのは、2014年のことだ。この年を139位で迎えた20歳の若者は、3月のインディアンウェルズ・マスターズで23位のジル・シモン(フランス)を破り、5月のマドリード・マスターズでは3位のスタン・ワウリンカ(スイス)をも撃破。1年でランキングを100位も上昇させると、翌年にはツアー3大会で優勝し、高まる注視と期待に応えてみせる。そうして昨年は4大会で優勝し、年間上位8選手のみが参戦できる“ATPツアーファイナルズ”デビューを果たしてみせた。

小柄だった少年時代に身に付けた武器

豪快なバックハンドがティエムの魅力だ 【写真:アフロ】

 ティエムのプレーを見た多くの人が最初に目を惹かれるのが、腕が引きちぎれんばかりのスイングスピードで振り抜かれる、豪快で雄大な片手打ちのバックハンドだろう。
「片手バックは、スピンとスライスの打ち分けができるし、リーチも長いのが良いところ」と本人も認める武器。以前は、高く弾まされたボールの処理に苦しんだが、最近ではその弱点も克服しつつある。

 そんなティエムのトレードマークにもなっているバックハンドだが、片手で打ち始めたのは12歳のころだったという。
「子供のころの僕は小柄で、両手じゃないとバックハンドを打つのは難しかったんだ」

 その小柄な男の子が成長期を迎え、時機よくコーチのアドバイスを受け片手打ちに変えたことで、キャリアの最初の転換期を迎える。両親ともにテニスコーチで「子供のころからテニスコートで育ったようなもの」という少年は、第三者の声を聞き入れ、躍進の足がかりを築いていった。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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