エース水谷隼に13歳・張本智和が挑む 世界の注目を集める「天才対決」

月刊『卓球王国』

水谷は余裕「気楽にやりたい」

2回戦で張本と対戦する水谷(写真)。「気楽にやりたい」と余裕のコメントを残している 【写真は共同】

 5月31日に3日目が終了し、中盤戦に突入する卓球の世界選手権個人戦・デュッセルドルフ大会。4日目を迎える6月1日は混合ダブルスで3回戦、準々決勝が行われ、今大会最初のメダルが確定する。日本の吉村真晴/石川佳純(名古屋ダイハツ/全農)ペア、田添健汰/前田美優(専修大/日本生命)ペアは3回戦でそれぞれ北朝鮮、韓国のペアとの対戦。どちらも簡単に勝たせてくれる相手ではないが、ここで弾みをつけて準々決勝に臨みたいところだ。男女ダブルスも3回戦が行われベスト8が出そろう。日本は男女共に出場2ペアが3回戦へ駒を進めており、メダルラッシュが期待される。

 前日からは男女シングルス決勝トーナメントもスタート。女子シングルスは2回戦までが行われ、伊藤美誠(スターツSC)が1回戦でフルゲームによる逆転勝利と苦戦したが、出場5選手全員が3回戦進出を決めている。一方、男子シングルスでは松平健太(木下グループ)がDa.ハベソーン(オーストリア)に敗れて1回戦で姿を消したが、他の4選手は初戦を突破し2回戦へ。世界戦デビューとなった史上最年少代表の13歳・張本智和(JOCエリートアカデミー)はストレート勝ちで1回戦を突破。出足こそ緊張が見られたが、3ゲーム目からは会心の試合運びでデビュー戦を勝利で飾った。これにより2回戦は水谷隼(木下グループ)との対戦が決まった張本。日本男子のエースに、この大舞台で胸を借りる。

 リオデジャネイロ五輪シングルスで銅メダルを獲得し、日本人初のシングルスメダリストとなった水谷と、昨年、史上最年少で世界ジュニア選手権を制した張本。これまで公式戦での対戦はなく、世界選手権の舞台で初対戦となる。水谷は1回戦終了後「特別なことは何もないし、気楽にやりたい。あんまり相手は関係ない。彼(張本)がこういう舞台で僕を倒したら頼もしいと思いますね」と余裕を感じさせるコメント。一方の張本は「(水谷戦は)試合ができるからうれしいんじゃなくて、ひとりの選手として勝ちにいきたい。勝てる可能性は5パーセントくらいかな。思い切り最初から攻めていきたい」と大先輩に挑む姿勢を見せた。

 2回戦での両者の対戦に関して、日本男子・倉嶋洋介監督は「水谷と張本の対戦は天才同士の対戦。第三者的には楽しみなカードですね」と期待感を口にした。日本男子のエースvs.怪物中学生の対戦は、日本のみならず世界からも注目を集めそうだ。

「良い選手になる」張本へ寄せる期待

 今や押しも押されぬ世界トッププレーヤーの一人である水谷だが、世界選手権に初出場したのは高校1年生で臨んだ2005年の世界選手権・上海大会。その世界戦デビューは圧巻だった。

 中学2年生でドイツに渡り、練習と試合を繰り返すストイックな環境で腕を磨いていた水谷だが、大会当時の世界ランキングは183位(参考:張本は現在69位)。この大会で、予選を勝ち上がり決勝トーナメントに進出した水谷は2回戦で当時世界ランキング8位の荘智淵(チャイニーズタイペイ)と対戦。下馬評を覆し、フルゲームで荘智淵を破る大金星をあげて、世界に衝撃を与えた。

 世界選手権初出場の15歳の少年が世界ランキング8位を破ったインパクトは大きく、ドイツの卓球専門誌記者のネルソン氏は「15歳で世界デビューし、これほどの才能を示した選手が過去にいただろうか。彼は日本の未来そのものだろう」と絶賛。その後、水谷は2005年の世界ジュニア選手権で日本を初の団体優勝に導き、全日本選手権では男子史上最年少の17歳7カ月で王者に輝く。2009年の世界選手権・横浜大会では男子ダブルスで初の個人戦メダルを獲得(銅メダル)と、10代にして日本男子の第一人者、そして世界のトップへと駆け上がっていくこととなる。「彼は日本の未来そのもの」という言葉は現実のものとなった。2005年5月2日の世界選手権男子シングルス2回戦、荘智淵戦は水谷が世界への扉を開けた瞬間だった。

張本(写真)の才能は水谷も認めている。この大舞台で日本のエースを倒すことはできるか 【写真は共同】

 張本との対戦を前に「特別なことは何もない」と語った水谷だが、決して張本の才能を認めていないわけではない。以前、小誌のインタビューで「将来有望だと感じる選手は?」との問いに、真っ先に張本の名前を挙げ、「卓球のスタイルができ上がっているし、今のままレベルを上げていけば良い選手になると思う」と評している。「こういう舞台で僕を倒したら頼もしいと思いますね」という言葉にも、「越えてみろ」という後輩に対するげきと、ライバル不在の日本代表の中において、自分を奮い立たせてくれる選手が現れることへの期待が含まれているのかもしれない。注目の水谷vs.張本は、現地時間1日14時15分(日本時間同21時15分)より開始予定だ。

(文:浅野敬純/卓球王国)
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