ジャパンオープンで苦しんだ萩野公介 向き合った自分の「弱さ」

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ジャパンオープンで苦しんだ萩野公介。弱点と向き合い、世界水泳へ臨む 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 水しぶきを上げながら猛追してくる瀬戸大也(ANA)を振り切り、萩野公介(ブリヂストン)が首位でゴールにタッチすると場内は大きな拍手に包まれた。

 3日間にわたって東京辰巳国際水泳場で行われた競泳のジャパンオープンが21日に閉幕した。最終日に行われた男子200メートル個人メドレー決勝で、萩野はライバル瀬戸に1秒以上も差を付け1分56秒3で優勝。出場5種目でようやく表彰台の最上段に立ち、日本代表キャプテンとしての面目をたもった。

今も尾を引く2年前の骨折

 今大会には世界選手権(以下、世界水泳。7月14日開幕、ハンガリー・ブダペスト)日本代表の全18人中17人が「チームJAPAN」として参加。入江陵介(イトマン東進)のみが、米国での調整に専念しているため参加を見送った。

 今夏の本番に向け、ジャパンオープンは日本代表が「チーム」として一致団結して臨む唯一の大きな大会である。例年とは異なり、イギリス、オーストラリア、中国、台湾などの海外選手も多数エントリーしており、緊張感ある中でレースが行われ、世界水泳に照準を合わせる「チームJAPAN」としては重要な“最終調整の場”でもあった。

初日の200メートル自由形で敗れると、その後もリズムに乗れず。萩野の苦悩は深まった 【奥井隆史】

 そんな重要な大会で日本代表のキャプテンは苦しんだ。初日の200メートル自由形で江原騎士(自衛隊)に0.06秒差で敗れ優勝を逃すと、五輪の金メダリストとして臨んだ2日目の男子400メートル個人メドレーでは瀬戸大也(ANA)と藤森丈晴(ミキハウス)に敗れ3位。ライバル瀬戸には1秒35差を付けられての大敗だった。直後に臨んだ100メートル自由形でも5位と惨敗した。

「うーん。うーん……うーんって感じですね」

 2日目を終えた時点で、あまりの不調に言葉が出なかった。昨年9月に行った右ひじの手術の影響で冬場の追い込みができておらず、それぞれの種目で泳ぎが固まっていないことも不安要素ではあった。萩野のコーチでもある日本代表の平井伯昌監督も、先月の日本選手権後に「この2年間で十分な練習ができておらず土台が崩れてしまったかな」と15年7月の右ひじ骨折とそれによる今回の手術の影響を心配していた。

 萩野はこの懸念を払しょくするためにも、5月初旬に10日間ほどの集中した強化を行った。「100パーセントとはいわないまでも、調子はだいぶ戻ってきている」(平井監督)と泳ぎ自体は復調の兆しを見せ、本人も「日本選手権の自分とは違った泳ぎができると思いますし、自分自身わくわくしています。あのときよりも速く泳ぐことはもちろんです」と大会前に好調をアピールしていた。

自覚するウィークポイント「僕は弱い人間」

男子400メートル個人メドレーで3位に終わり、さえない表情で引き揚げる萩野公介=東京辰巳国際水泳場 【共同】

 では、ここまで苦しむことになった原因はどこにあったのだろうか。それには萩野の弱点が関係していた。

 2日目を無冠で終え、「悪いところをわざと見つけてきて、それを言いわけにしているところが少なからずある。僕は弱い人間なので、そういうところばかり気にしてしまう」と振り返った萩野。試合前に悪い部分ばかりを考え過ぎてしまい、自信を持ってレースに臨むことができていなかった。

 初日の200メートル自由形を落としたことで、悪循環にハマった。少しだったはずの不安が膨れ上がり、試合前から“気持ち”で負ける。レースを重ねるごとに、はたから見ても明らかなほど自信を失っていった。

 本人もメンタルが課題であることを自覚していた。「(メンタル面は)平井先生とも話していて、僕が勝手に考え過ぎてつまづいて転んでしまっている。そういうところは僕の悪いところです。調子いい時は何も気にしなくていいんですけれどね。こういう時こそどうやって頑張るかということだと思う」。こう再起をかけて臨んだ最終日、ようやく気持ちが吹っ切れた。

「うだうだしていてもしょうがない。もうやるしかない。100パーセント出し切るのみ」

 午前の予選後にこう話すと、結果は冒頭の通り200メートル個人メドレーで優勝。直後の100メートルバタフライでは4位に終わるものの、最終日に結果を残すことに成功した。本人も「今日は意地を出した」と“気持ち”で奪った勝利だった。

「身体も“気持ち”も鍛え直しかな」

最終日、200メートル個人メドレーで優勝した萩野。その目には輝きが戻っていた 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 苦しむ愛弟子に「ずっと面倒を見ているのはよくないと思う」と愛のムチを送る平井監督。しかし、「ちゃんとつかまえていないと力が出ない」と大会を通じていつも以上にコミュニケーションをとることも忘れなかった。

 全種目を終えた萩野は今大会をこう振り返る。「自分の一番弱いポイントの“気持ち”を見つめ直すきっかけになった。夏はこんなことできない。水泳の神様はちゃんと見ている。身体も“気持ち”も鍛え直しかな」。

 世界水泳開幕まで、あと2カ月。萩野の目には、大会前の輝きが戻っていた。

(取材・文:澤田和輝)
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