VVVの1部昇格で実感した日本との縁 本田加入からの濃密な10年間
5シーズンぶりに1部リーグ昇格
VVVは5シーズンぶりのオランダ1部リーグ昇格を決めた 【Getty Images】
勝てば昇格だったが、試合は終盤まで1−1のまま。前半はVVVのペースだったが、シーズンを通じて攻撃を引っ張ったビト・ファン・クローイのコンディションが万全でなく、ハーフタイムでベンチに退き、68分にはFWトリノ・フンテが相手GKと激突して負傷交代するアクシデントもあった。
後半のVVVのリズムは決してよくなく「これはもう、次節に昇格は持ち越しだな……」という空気がスタジアムに漂い始めた最中の90分、MFクリント・レーマンスの左足が火を噴き、FKが直接ゴール右隅に決まった。VVVの選手も、コーチングスタッフも、サポーターも、さらには番記者たちも喜びが爆発した。
その後、7分間という長いアディショナルタイムを経てタイムアップ。ゴール裏に集まった選手たちがサポーターとともに「カンピオーレ! カンピオーレ! オーレ、オーレ、オーレー!」と凱歌(がいか)をあげた。
VVVが前回、2部リーグで優勝して昇格を決めた2008−09シーズンは、1部リーグを戦った本田圭佑、サンドロ・カラブロ、ケン・レーマンス、サミル・エル・ガーウィリ、フランク・ファン・カウエン、アディル・アウアサルといった個性豊かな選手がチームに残り、さらにルベン・スハーケンが加わる万全の態勢で戦った。当時のチームに対するサポーターたちの期待は大きく、2部リーグでありながら毎試合、スタジアムは満員に膨れ上がり、アウェーゲームにも毎試合、多くのサポーターが駆け付けた。
翌09−10シーズン、1部リーグを戦ったVVVは、小クラブにもかかわらず相手に臆すことなく攻撃サッカーで戦い、オランダ中からシンパシーを集めた。しかしあの時、VVVを覆った“熱”は、1部リーグを戦っていくうちに冷めていった。やがてVVVは1部リーグ残留に四苦八苦しながら戦うようになり、ファンの間に「残留争い疲れ」が出始めてしまった。8000人収容のホームスタジアム、デ・クールは空席が目立つようになり、12−13シーズンは1試合平均6700人(前年度比マイナス1100人)まで観客が落ち込んだ。このシーズン、2部に降格したVVVは財政難に苦しみ、多くの無名選手でチームを作り直すことにしたが、観客動員は1試合平均4000人(前年度比マイナス2000人)と、デ・クールの観客席は寒々しさを増してしまった。
戻ってきたスタジアムの賑やかな雰囲気
中盤戦はまだ空席が目立ったデ・クールの観客席も、やっとかつての賑やかな雰囲気が戻ってきた(写真はRKC戦のもの) 【Getty Images】
昨季の好成績にもかかわらず、VVVの選手たちはほとんど移籍しなかった。28ゴールを決めて2部リーグの得点王に輝いたラルフ・スーンチェンスにすら、他チームから声がかからなかったのだ。マウリス・スタインが監督に就いてから3年目の今シーズン、チームの完成度は増していき、開幕から安定した戦いを続けたVVVは、4節を残して1部昇格を決めた。今季の序盤戦、中盤戦はまだ空席が目立ったデ・クールの観客席も、やっとかつての賑やかな雰囲気が戻ってきた。
RKC戦後、VVVの番記者たちもピッチの中へ入っていく。田嶋凜太郎が「出番はなかったですけれど、うれしいですね!」と言いながら、仲間とはしゃいでいる。藤田俊哉コーチが「俺、しばらく優勝というものから遠ざかっていたけれど、やっぱり指導者になっても、こういうのはうれしいものなんだね」としみじみと語ってくれた。
ハイ・ベルデン会長が私に抱きついてきた。「08年にケイスケ(本田)がVVVに入った時以来だから、付き合いも長くなったな……」。日本人選手がいる時もいない時も、VVVが良い時も苦しい時も、私は定期的に試合に通い続けてベルデン会長と頻繁にスタジアムで会っていた。だからこそ、私のことを記者としてではなく、VVVの良き理解者として見ているのだろう。いつの間にか私たちはカメラに囲まれていた。