VVVの1部昇格で実感した日本との縁 本田加入からの濃密な10年間

中田徹

「リンブルフの父」セフ・フェルホーセンさん

ベルデン会長は08年に本田が加入して以来、Jリーグから将来性のありそうな選手をVVVに連れてきている 【Getty Images】

 VVVと日本の縁が、私の頭の中に蘇る。ベルデン会長は日本びいきが高じて、Jリーグから将来性のありそうな選手をVVVに連れてこようとした。その際、アドバイザーの役割を果たしたのが、06年に名古屋グランパスで監督を務めたセフ・フェルホーセンさんだ。VVVに来た最初の日本人選手2人、本田と吉田麻也が名古屋所属だったのは偶然ではない。

 セフさんは「困った時のセフ」「リンブルフの父」としてオランダではとても有名な方だ。VVV、MVV、ローダJCというリンブルフ地方のチームを監督として率い、07−08シーズンの後半戦はチーム混乱の危機にあったPSVに請われて監督に就き、優勝という結果を残した。すでに現場から引退したが、リンブルフのクラブは困ったときには必ずセフさんに声をかけ、ゲント(ベルギー)、VVV、そして今は残留争いに苦しむローダJCのアドバイザーを務めている。また、オランダサッカー協会も、新たなサッカー政策の指針作りにセフさんの意見を参考にしている。

 セフさんはしっかり日本人選手の実力と性格を見極め、本田と吉田をベルデン会長に推し、選手の方もセフさんからしっかりアドバイスを受けてオランダに渡ってきたのである。その後の2人の活躍と成長を見ると、セフさんが真に優れた眼力の持ち主であることが分かる。

 セフさんはデ・クールの観客席の上段端に決まった椅子があり、奥さんを連れて来ることもある。そして今も、日本人の指導者、記者とのコンタクトを保ち続けている。

今は指導者として藤田コーチがVVVに

昇格を決めて喜ぶ藤田コーチ(左)とスタイン監督 【Getty Images】

 今回の1部昇格を決めたRKC戦には、イボンヌさんも来ていた。大病を患ったこともあってアウェーゲームに行くことは少なくなっていたと聞いていたが、さすがにこの昇格の場面は見逃せなかったらしい。彼女はフェンローでの本田、吉田、カレン・ロバート、大津祐樹の生活を世話し、そのうち、VVV以外の日本人選手との交流を広げていって、「世界で一番、日本代表の選手と知り合いのいるおばちゃん」(吉田麻也著『旅するサッカー』より引用)となった。

 イボンヌさんにお世話になったのはサッカー選手だけではない。選手の家族、友だち、オランダやドイツに住んでいたり、旅行でフェンローを訪れたりした多くの日本人がイボンヌさんから面倒を見てもらっている。彼女には数多くの“日本人の息子”がいて、私にとってもイボンヌさんは“オランダの母”である。

 スタジアムのロビーでイボンヌさんと会い、私も家路に着こうとして外へ出ると、VVVのチームバスがあった。この運転手さんとも日本人は顔見知りだ。日本との縁が深くなったVVVには、多くのユース、ジュニアユース世代のチームが遠征に来て練習試合を行う。中にはフェンローを遠征のベース基地にして、バスを借りてオランダ国内やドイツ、ベルギーで試合をしに回ることもある。その時、多くのチームが、この運転手さんがハンドルを握るバスに乗っているのだ。非常に物静かな人だが、温かみに溢れており、私と一緒に試合を見る時はVVVがゴールを決めると無言で握手をする。こういう所でもVVVと日本のつながりが生まれているのだから、この10年というのは本当に濃い。

 これまでは日本から選手がVVVにやって来たが、今は指導者として藤田コーチがVVVにいる。日本のS級ライセンスをUEFA(欧州サッカー連盟)プロライセンスに書き換えられず、チームを率いることができないどころか、本来はベンチにすら入れないはずなのに、藤田コーチの「ベンチに入りたい」という願いを聞いたスタイン監督が関係者に電話をかけたら、あっさり登録番号をもらえてベンチ入りがかなってしまった。スタイン監督と藤田コーチがお互いにリスペクトし合っているのは傍目から見ていても十分に伝わってくる。

 日本サッカー協会のS級ライセンス取得には海外研修が義務付けられているが、近年はヨーロッパのクラブもそう簡単には受け入れてくれない。そこで藤田コーチを頼って、多くの指導者がVVVにやって来るのだが、スタイン監督は彼らにいろいろな便宜を図ってくれている。また、コンディショニングトレーナーのノル・ヘンリックスさんに貴重な話を聞いたことのある日本人も多いはずだ。

 私の知らないところで、今も多くの日本人がVVVとの関係を保っているだろう。このつながりは日本サッカーにとって貴重な財産である。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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