藤田俊哉が目指す“指導者のパイオニア”=新旧代表がそろう引退試合で語る決意

中田徹

復活したジュビロスターズのあうんの呼吸

引退試合を終え藤田は、新旧日本代表はそろう豪華なメンバーから胴上げされた 【写真は共同】

 プロとして16年、ジュビロ磐田、ユトレヒト(オランダ)、名古屋グランパス、ロアッソ熊本、ジェフユナイテッド千葉でプレーした藤田俊哉の送別試合が、5月23日、国立競技場で行われた。

 前半、藤田がプレーした『ジャパンブルー』には秋田豊、北澤豪、前園真聖、小倉隆史といったかつての名プレーヤーに加え、吉田麻也、小野伸二、安田理大、大津祐樹、三浦知良といった有名現役プレーヤーが名を連ねた。
 後半から登場した吉田は自分の結婚式の終わりの方を抜け出して来たという。
「男には恩を返さないといけないときがあるんです! 僕がプロ1年目のとき、俊哉さんが『すぐ試合に出られるぞ』と言われて自信がつきました」(吉田)
 
 後半になると藤田はサックスブルーのユニホームに身を包み、『ジュビロスターズ』の一員としてプレーした。中盤でのワンタッチのパスワーク、藤田の縦への走り込みに合わせる名波浩のキラーパス。後半のジュビロスターズはあうんの呼吸という表現がピッタリのコンビネーションを随所にみせた。
「(全盛期のジュビロは)もっとスピードがあって、もっとパワーがあって、面白かったんだろうなと感じてもらえれば良い。僕ら、おっさんのサッカーを見て、『簡単にやってるんだな』というのを、(最近低迷気味の)ジュビロに限らず、若い選手に分かって欲しい」(田中誠)

「ジュビロを離れて8年になるから、懐かしい」

 ジュビロスターズの最年少は、カレン・ロバート(VVV)。
「ジュビロ側の20代は僕だけです。僕が入ったときは、黄金期の終わりの方でしたが、メンバーはそろっていたし、ほぼ代表選手。高原(直泰)さんとも2トップを組んで国立でもやったことがあったので、今日はそのときの“絵”が浮かんできた」

 藤田自身は前後半1点ずつを奪った。1点目は小野のクロスをヘッドで合わせ、それが右ポストに当たった後のこぼれ球を左足で蹴り込んだ。2点目は中山雅史のラストパスを中央で合わせた。藤田がゴールを決めるごとに、「オー、トシヤ! オー、レッツゴー、トシヤ!」のチャントが湧いた。
「ジュビロを離れて8年になるから、懐かしいよね。『あ、僕のが始まった』とか『誰それがあそこに来てるな』とか。(誰が来てるか)いつもだいたい、分かるんだ」(藤田)
 90分、主役・藤田がタイミング良く走ってシュートを放つと、それが中山に当たってしまった。それが何ともコミカルに思え、スタジアムに笑いが起こるとタイムアップの笛が鳴った。
「中山さんに当たってゴールになれば良かったけどね」(藤田)
「あれは俊哉くんのパスだと思ってる。僕はそれに反応しきれなかった」(中山)

第2のサッカー人生に向かって

 高原直泰が藤田の偉大さを簡潔に表現してくれた。
「積極的に前に飛び出してくるプレースタイルだった。ともかく自分としては俊哉さんに助けられていた。俊哉さんが動いてくれることで自分たちがやりやすくなった。頭のすごく良いプレーヤーだったと思う。それで技術もあるから誰もなかなか止められない。それは結果が証明していると思う。これから俊哉さんのような記録を作る選手は、なかなかもう出て来ないと思う。一緒に同じチームでプレーできたということは自分に取っても大きな財産」
 高原が言う“記録”の一部はJリーグ初の400試合出場、FW以外の選手として初のJ通算100ゴール達成だ。

 試合が終わるとジュビロ入団、Jリーグ初ゴールなど、藤田の現役時代の軌跡が国立競技上の電光掲示板で紹介された。
「電光掲示板で昔の映像見ているときは、ちょっとこみ上げるものがあった」(田中誠)

 しかし、続いて藤田が言った「僕はサッカーが大好きです。第2のサッカー人生を、大好きなサッカーを楽しむことを忘れず、大きな夢を見ていきたい。これからも大好きなサッカーを突き進んで、少しでも日本のサッカーのレベルアップに貢献したい」というスピーチに、「俊哉くんの話しでは泣かなかったですね。さっぱりした話し方をしていた。未練もあまりないようだし、きれいさっぱり次の目標に向かっていると伝わってきた」と田中の涙も乾いた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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