藤田俊哉が感じる欧州の楽しさとジレンマ
VVVの1部昇格、将来の夢へ向かって
VVVで3シーズン目を迎えた藤田俊哉コーチに話を聞いた(写真は16年5月のもの)
VVVで3シーズン目を迎えた藤田俊哉コーチに話を聞いた(写真は16年5月のもの)【Getty Images】

 10月上旬のインターナショナルマッチウイークに訪れたつかの間のブレークに、4部リーグのEVVと練習試合を組んだVVVは、ルーキーの田嶋凜太郎(19)に初めての出場機会を与えた。


 攻撃的MFの左側を任された田嶋は、全く物怖じすることなく積極的な姿勢を示し、16分には自ら起点となった攻撃を左足ボレーシュートで決めて、チームに先制点をもたらした。この試合を見守ったVVVのテクニカル・アドバイザー、スタン・ファルクスは「VVVは凜太郎に満足している。彼はうまくて、とてもクレバーな選手だ」と評価した。田嶋はフル出場。チームは2−0で勝った。


 試合翌朝の6日、フェンロー市内のカフェでVVVの藤田俊哉コーチと落ち合った。オランダ人が好む香りの濃いコーヒーを飲みながら、田嶋の話題からインタビューが始まった。

凜太郎の成長を楽しみにしている

「正直言って、よくやっていると思う」と藤田はルーキーの田嶋凜太郎(左)を評価する
「正直言って、よくやっていると思う」と藤田はルーキーの田嶋凜太郎(左)を評価する【中田徹】

――藤田コーチは田嶋凜太郎選手をどう評価しますか?


 正直言って、よくやっていると思うよ。凜太郎がVVVとプロ契約したのは9月上旬。すでにオランダ2部リーグの試合でベンチ入りしているし、ここまでは順調に進んでいる。


 凜太郎は、チャレンジャーの気持ちを強く持ってオランダへ渡ってきた。誰もがそうであるように、海外移籍にはいろいろな助けが必要になる。今回に関してもそうだった。だけど、あくまでもそれはプロとしてのスタートラインに立ったということだけ。そのスタートラインに立ってから1カ月ちょっとかな。「そこからは自分。あとは結果を残すのが大事だよ」と本人に伝えた後に、ゴールという結果を残した。彼とVVVの契約は1年(1年の延長オプション付き)。その1年間という時間の制約がある中で、彼はジャッジされるわけだから、結果を残すのは大事なことだよね。


――藤田コーチの目から見て、田嶋選手の良いところは?


 凜太郎は英語をきれいに話す。そこが、VVVに来た過去の日本人選手との一番の違いかな。キャラクターはシャイな方かも。自分が中心になってしゃべるタイプではないけれど、相手の言ってきたことはキチンと分かるし、パッと答えるから、コミュニケーションでのストレスはない。チームメートも「リン」とか略さずに「リンタロー! リンタロー!」と声をかけている。


――田嶋選手は味方に落とすとかフリックするとか、ワンタッチプレーがうまい。


 そう。それは日本人の特徴でもある。俺が凜太郎によく言っているのが、「タイミングよく中間ポジションを取って、ターンして前を向け」ということ。そしたら結構、前を向けるようになってきている。次のステップは、ターンし、前を向きフリーでスペースがあったら、自分でボールを運び仕掛けること。凜太郎は良いターンをしても、すぐにパスをしてしまうことが多い。それだと相手の守備状況が変わらない。一歩でも二歩でもドリブルで突っかけたら、相手の守備状況が変わる。そこから次のパスを選択すればもっと相手の守備を崩せる。言い過ぎるのもよくないから、昨日は少しだけ彼にアドバイスしたよ(笑)。


 昨日の試合を見て、オランダ人は「昨日の相手なら、ボールを受けることができる」と言っていた。だけど、凜太郎の隣で右の攻撃的MFをしていた選手は、試合を通じて前にターンできなくて苦しんでいた。結局、できない選手は、相手のレベルが下がってもできない。だから練習でそのタイミング感覚をつかまなければならない。そう僕は考えている。


――田嶋選手の改善点は、ターンしてからの判断ということですね。


「彼の一番の改善点は集中力」だとコーチ陣から言われている。練習でも試合でも、最初のプレーをミスすることが多い。だから、コーチたちも凜太郎のその日のファーストプレーを余計に見ているわけ。僕も「そこは特に集中してやれ」と凜太郎には言っている。彼にとっては実質1年のトライアル。VVVとの1年の契約延長を勝ち取るか。VVVで活躍すれば、他の国のリーグへ行く可能性も開けてくる。僕も凜太郎の成長を楽しみにしている。

S級ライセンスがUEFAのライセンスに書き換えられない

――藤田コーチにとってはVVVに来て3シーズン目ですね。


 今度の1月で3年になる。オランダのサッカー、ヨーロッパのサッカー文化を身近に感じ、行動範囲も広がり仲間も増えた。やっぱりヨーロッパのサッカーは魅力的だよね。そういうことを感じつつ、自分がたいして前に進んでないことにジレンマも感じている。


――どういう点でジレンマを抱えているんですか?


 日本で取ったS級指導者ライセンスが、UEFA(欧州サッカー連盟)のプロコーチライセンスに書き換えできない現状が続いている。そのひとつ下のライセンスまでなら、UEFAではなく、自国の裁量で書き換えできることになっているけれど、どの国がそれを認めているのかは定かでない。


 AFC(アジアサッカー連盟)公認のライセンスと、UEFA管轄のライセンスは共にFIFA(国際サッカー連盟)の傘下にある組織のライセンスであるから、同等であるべきだと僕は考えている。特に日本のS級ライセンス講習はドイツなどからインストラクターが来ているし、レベルも高いと言える。オランダに来て数回、こちらのコーチライセンス試験にも携わったが、日本のそれが決して低いレベルだとは思えない。だから、今の自分はまだオランダのコーチング資格への移行申請中のままなんだ……。


 オランダって面白い国だよね。今の僕は厳密に言えば(オランダで求められる)資格はない。ライセンス書き換えを申請中の身だから、TC1(日本のA級)でもUEFA Proライセンスでもない。今は“ただの町のおじさん”なんだ。でもオランダのプロコーチ協会のメンバーだし、昨季から自分の登録コードを取ってもらって“アシスタントコーチ”としてオランダ2部リーグのベンチに入っている。


 本当は「今季からVVVのU19/リザーブチーム(※)の監督をやらないか?」というオファーをシーズン前に受けていた。僕も実際にオランダで試合の指揮を執ってみたかった。でも、ライセンスがないのがネックとなって、この話は流れてしまい、結局トップチームのアシスタントコーチを今季も続けることになった。


 このライセンスの問題はとても重要だから、日本の指導者仲間にも情報を共有したい。日本にもオフィシャルなコーチ協会が絶対に必要になる。今は解決策を見つけるために動いてくれている人がいるので、話せないことも多い。だから、この話の続きはまた今度にしよう。


(※)今季のVVVにリザーブチームは存在しないが、練習試合ではU19チームとトップチームの選手が混ざってリザーブチーム扱いで試合をしている。

中田徹
中田徹

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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