ブンデスが有望な若手を輩出する理由 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(7)

瀬田元吾

ドイツ代表のサネ(右)は10代で早々とブンデスデビューを果たし、マンチェスター・シティへと活躍の場を移した 【写真:ロイター/アフロ】

 ヨアヒム・レーブ監督率いるドイツ代表は、2017年3月の代表ウイークに親善試合でイングランド代表に1−0で勝利し、ワールドカップ(W杯)欧州予選でもアゼルバイジャン代表を4−1で下した。今回で14年に及ぶ代表歴に終止符を打つルーカス・ポドルスキを含む24選手が選出されたが、特筆すべきはリオデジャネイロ五輪に出場した「リオ世代」である93年以降に生まれた選手が9選手含まれていることではないだろうか。このうち5選手は16年のユーロ(欧州選手権)ベスト4メンバーであり、高いパフォーマンスを維持する代表チームにおいて、世代交代がしっかりとできていることを意味している。

 このタレントが湧き水のように次から次へと出てくるドイツの現状は、決して偶発的なものではなく、ドイツサッカー協会(DFB)とブンデスリーガ(DFL)が長年かけて作り上げてきた仕組みの成果に他ならない。その仕組みの中で、それぞれのクラブが注力すべきことを正しく理解し、根気強く継続的にイノベーションを行ってきたからこそなのである。

 そこで今回は、ドイツサッカー界がどれくらいタレント育成に投資してきたのかに焦点を当てながら、育成型クラブを目指すフォルトゥナ・デュッセルドルフ(以下、フォルトゥナ)の現状をご紹介したいと思う。

活躍の場を広げ続けるドイツ代表の新世代

 今回のドイツ代表に名を連ねたリオ世代の9選手のうち、アントニオ・リュディガー(ASローマ)、ユリアン・ドラクスラー(パリ・サンジェルマン)、エムレ・ジャン(リバプール)、レロイ・サネ(マンチェスター・シティ)は、10代でブンデスリーガデビューを果たしたのち、数年のキャリアを経て海外クラブへと活躍の場を移した選手たちだ。

 また国内組も、ユリアン・バイグル(ドルトムント)、ジョシュア・キミッヒ(バイエルン・ミュンヘン)、ユリアン・ブラント(レバークーゼン)の3選手は、すでにチャンピオンズリーグ出場クラブで経験を積んでいるほか、ニクラス・ジューレ(ホッフェンハイム所属、来季はバイエルンへの移籍が決定)、ティモ・ベルナー(ライプツィヒ/ブンデスリーガ第25節までを終えて2位)も、来季には同様の舞台に登場してくる可能性が高い。またリオ五輪でのドイツ代表は主力の10人近くを欠きながら準優勝という結果を残している。これはこの年代の選手層の厚さを証明していると言えよう。

ユースアカデミーへの投資と実績

フォルトゥナのアカデミーが使用するメーンスタジアム。ドイツは育成組織のハード面が充実している 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 00年の育成改革以降、ドイツサッカー界は若手育成を積極的に推進してきた。01年からはDFLにより厳しいリーガライセンス制度が制定され、ブンデス1部、2部に所属する36クラブは細かい条項に基づいたユースアカデミーの設立が義務付けられた。ライセンス制度に準じてクラブを運営をすることで、自動的に若いタレントが育つ環境が整備されてきたのだが、それには中長期的な目標を持った投資が不可欠だった。

 DFLが毎年発行しているブンデスリーガレポート(編注:DFLの経済に関する数値がまとめられた報告書)によると、ここ10年間だけでも約7億3500万ユーロ(約886億円)を投じているが、約4400万ユーロ(約53億円)だった06−07シーズンに比べると、昨シーズンは約1億1000万ユーロ(約133億円)となっており、10年前の2倍以上の金額を投資していることが分かる。

 要因として最も大きなことは、アカデミー出身の選手がトップチームで活躍し、高額の移籍金をもたらしてビッグクラブへ移籍していくモデルケースを確立してきたからに違いない。育成改革の成果がトップリーグでも顕著に出始めたのは10年前後と言われているが、若手選手の多くがドイツ国内でプレーしていた10−11シーズンのブンデスリーガ全体の移籍に関する収入は約1億9500万ユーロ(約236億円)あった。その後、徐々にドイツのタレントが海外に移籍し始め、さらに代表チームが14年W杯で優勝したことで、その能力が明確に実証された。結果、15−16シーズンには移籍に関する収入だけで、実に5年前の2.7倍に当たる約5億3000万ユーロ(約639億円)まで数字を伸ばしているのだ。

 この育成強化から生まれた新しい利益は、当然再びアカデミーへ投資されることになる。ドイツではリーガライセンス制度の厳しい審査に加え、第3者評価を加えるために07−08シーズンからはJリーグも導入したフットパス(編注:ベルギーのダブルパス社が独自に開発した育成組織評価システム)による審査も加わっている。

 なかでもトレーニング施設の充実を図るインフラの整備は中長期的な育成環境を整えるためにはどうしても不可欠なポイントとなるため、新しく得た利益の多くを使って投資されている。ソフト面での条件は既出の厳しい審査もあり、どのクラブも充実している。加えてハード面が充実することは、この先のドイツの若手育成の明るい未来を意味している。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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