ブンデスが有望な若手を輩出する理由 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(7)

瀬田元吾

育成型クラブを目指すフォルトゥナ

ブンデス2部に所属するフォルトゥナだが、多くのアカデミーに関する研修を受けている。写真はドイツ遠征に来ていた八千代高を指導した際のもの 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 昨年9月、JFA・Jリーグ協働プログラムの一環として、Jリーグ11クラブのアカデミーダイレクターがフォルトゥナを訪問し、アカデミーに関する研修を行った。2部に所属するフォルトゥナが研修先として選ばれた要因は、育成型クラブとしての変革期にあるからだ。

 育成型のチームの特徴として挙げられるのは、これから成長が期待できる若い選手を多く抱えつつ、彼らに不足する経験を持っており、良い手本になるベテラン選手を中心に据えることである。フォルトゥナは今シーズントップチームに所属する27選手のうち、実に18人が93年以降に生まれた選手であり、自前のアカデミーからはU19チームより3選手、またU23チームより2選手をトップに昇格させている(うち1人は現在3部クラブへ期限付き移籍中)。

 また今季の夏と冬の移籍市場では他クラブから合計9選手を獲得しており、そのうちの8人は93年生まれのグループに属している。一方でGK、ディフェンスライン、ボランチ、オフェンシブMF、サイドアタッカー、FWにそれぞれ1人ずつ30歳を超えるベテランがおり、彼らが若い選手たちへ経験を伝える役割を担っているのだ。

 今季はできるだけ早く2部残留を確定させた上で、若い選手たちに出場機会を与えることを目標としている。そのためにバランスの良いチーム作りを行ってきており、実際25節を終わった時点で(全34節)勝ち点33の8位という成績は、当初の計画通りに進んでいると言える。また、所属する27選手すべてがベンチ入りを経験しており、この冬に加入した18歳の選手を除く全員が2部での出場を果たしている。若い選手にとっては、その経験が次へのモチベーションとなっているのだ。

可能性への先行投資

16歳でレバークーゼンから放出されたイヨハ(左)は、フォルトゥナで凌ぎを削りドイツU20代表に選出されるまで成長した 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 フォルトゥナはドイツにある16州の中で最も経済的な発展を遂げているノルトライン=ヴェストファーレン州の州都、デュッセルドルフをホームタウンとしている。この州は経済力の高い地域であることから人口も非常に多い。ドルトムントやシャルケ、ボルシア・メンヘングラッドバッハ、レバークーゼン、ケルンといったドイツを代表するクラブがひしめき合っていることでも知られている。それは育成年代においても同様だ。その中で若手に多くのチャンスを与えてくれるクラブの存在は、これから将来プロを目指すタレントたちにとっても魅力となる。

 育成年代でも引き抜きなどは頻繁に行われており、それに苦言を呈する人が少なくないことは事実である。しかしフォルトゥナアカデミーのアンドレアス・ポレンスキコーチは、ドイツの育成の在り方についてこのように話す。

「確かに良い選手を引き抜かれることは、クラブとして損失であり、納得できないこともある。しかしドイツサッカー全体の発展を考えると、クオリティーの高い選手は可能な限りハイレベルな選手たちと切磋琢磨(たくま)することでさらに成長できるため、必ずしもそういった移籍を否定はできない。われわれも街クラブから良い選手を引き抜くことがあるし、立場によっては同じことを言われているのかもしれない」

 当然、育成レベルでも激しい競争があり、トップクラブのアカデミーから弾き出される選手もいる。だが、そんな選手がフォルトゥナで新しいチャンスと信頼を得て、トップチームへの扉を開くことも少なくない。

 U19チームからトップチームへの昇格を勝ち取ったエマニュエル・イヨハ(19歳)は、16歳のときにレバークーゼンから弾き出されてフォルトゥナへやってきたが、現在はドイツU20代表に選ばれるまでに成長している。またアンダーソン・ルコクィ(19歳)は17歳の時、ケルンからフォルトゥナへチャンスを求めてやって来た。その後はプロ契約を勝ち取り、U20ドイツ代表のバックアップメンバー入りを果たしている。やはり育成年代の選手たちにとって出場機会は重要であり、可能性のあるタレントを信用して辛抱強く伸ばす指導者やクラブの対応もまた、非常に大切なことだと言えるだろう。

 ちなみにフォルトゥナでも今年の夏からユースアカデミー施設を新しく建築する計画を進めている。決して経済的に潤沢なクラブではないし、現在は1部リーグに所属しているクラブでもない。周りはビッグクラブが凌ぎを削っている激戦区にいるが、それでも自分たちのフィロソフィーを強く持ち、身の丈に合ったハード面、ソフト面の充実を図り、タレント育成に注力していくつもりだ。

 このようなクラブが今後どのような成長を遂げていくのかは、日本サッカー界にとってもこれからの参考になるのではないかと思う。是非とも多くの方々に興味を持ってフォローしていただきたい。私はいつかフォルトゥナから、バイエルンやドルトムント、さらにはレアル・マドリーやバルセロナ、チェルシーなどに移籍するような選手が出てくることを、密かに楽しみにしている。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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