ブンデスが世界最高の観客数を誇るわけ
瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(3)

 日本のサッカー関係者から最近よく耳にするのが「新しいスタジアムを作りたい」という声である。Jリーグ参入条件である5000人規模のスタジアムをホームとして活動しているJ3所属クラブや、JFL、地域リーグに所属するクラブにとっては、今後さらに上位リーグを目指すために、いやが応でもホームスタジアムをどうするかを考えなくてはいけない。


 現在のルールでは、J2リーグ参入には1万人収容の、そしてJ1リーグ参入には1万5000人収容のスタジアムを確保する必要があるわけだが、当然クラブでスタジアムを新設することは非現実的であり、それぞれが本拠地を置く地方自治体の協力がなくては実現が難しいのが現状である。では実際にどのくらいのスタジアムを作ればよいのだろうか。また、そのスタジアムでどのような取り組みをしていけば、観客動員数を増やしたり、そこでの収益をあげていけるのだろうか。そのヒントを、世界最高の平均観客数を誇るドイツ・ブンデスリーガから探ってみよう。

全スタジアムが90%超えの観客収容率

フォルトゥナのホームであるESPRITアリーナも、毎試合多くの観客がスタジアムを埋め尽くす
フォルトゥナのホームであるESPRITアリーナも、毎試合多くの観客がスタジアムを埋め尽くす【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 ドイツ・ブンデスリーガの試合は、どこのスタジアムも満員に近い観客が入っている。人気クラブであるバイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムント、FCシャルケ04に関しては毎試合完売という状況だが、ブンデスリーガの2015−16シーズン平均観客入場者数は、サッカーイベントとしては世界最高の約4万2500人を記録しており、観客収容率も約92%となっている。


 どこのスタジアムも90%以上の観客収容率を誇るブンデスリーガだが、実はその約60%はシーズンチケットで販売されている。またリーガの規定により、スタジアムのキャパシティに対して10%をアウェーチームに提供することになるが、このチケットもほとんどが完売となっている。つまり、シーズンが開幕する前の時点で、すでに約70%のチケットが販売できているということになるのだ。


 これだけでも驚きの数字だが、残りの30%のチケットの販売は、まずはクラブ会員に先行購入権があり、この段階を経て一般販売へと移行される。小さいクラブでも1部リーグに所属していれば、バイエルンやドルトムント、シャルケといったトップクラブがやって来る試合は間違いなく完売するし、それ以外にも近郊クラブとのダービーや、熾烈な上位争い、残留争いでも客足を伸ばすことができる。よって年間で90%を超える観客収容率にいきつくのだ。

観客が使いやすいスタジアムでの効果的なビジネス

フォルトゥナのホームスタジアムでは地下鉄の駅が直結しており、多くのサポーターが利用している
フォルトゥナのホームスタジアムでは地下鉄の駅が直結しており、多くのサポーターが利用している【写真:瀬田元吾】

 ブンデスリーガの観客数が増えた大きな要因の1つに、チケットの価格をできるだけ安く抑え、家族連れが来やすいスタジアムの整備を行ったことが挙げられる。実際に1990年代に比べて格段に女性と子供の姿が増えているが、そのために各クラブがスタジアムにファミリーシートを設けたり、託児所を設けたりという取り組みもしているのだ。


 また、チケットを持っていることで、試合当日は近郊の公共交通機関を無料で利用でき、試合前後の2時間くらいは臨時運行も行っている。そうすることで、近郊からの車での来場者数を抑えられ、飲酒運転を未然に防ぐ効果もある。つまり、安心してスタジアムでアルコールを飲みながら試合観戦を楽しんでもらえる配慮をしていると言うこともできるのだ。厳密に言うと、毎試合の入場者数に合わせて、クラブは公共交通機関に一定額を支払っている。例えば私の勤務するフォルトゥナ・デュッセルドルフは、1人につき1ユーロ(約120円)を支払っているが、このようにして、チケットを買ったファンが、できるだけそれ以外でお金を使うことなくスタジアムに来られるように「アシスト」しているのである。

大迫勇也選手が所属するFCケルンのカード型電子マネー。1968年にドイツ杯で優勝したメンバーがデザインされたバージョン
大迫勇也選手が所属するFCケルンのカード型電子マネー。1968年にドイツ杯で優勝したメンバーがデザインされたバージョン【写真:瀬田元吾】

 またブンデスリーガのスタジアムでは、ほとんどのクラブで電子マネーを導入している。クラブによってカード代は2〜10ユーロ(約240〜1200円)となり、売店は電子マネーでの支払いにより、少しでも混雑を緩和する効果がある。またこのカードは、帰りに返却窓口で換金してもらうことができるが、毎試合のように来るファンはそのまま自宅へ持ち帰る。


 バリエーションをつけて魅力的なデザインのカードを作ることで、記念にとっておく人も少なくない。シャルケなどは選手の写真を使ったりすることで、そのカード自体がたくさん売れたりもしている(私もラウル・ゴンサレスのカードを保管している)。またこのカードの有効期間を各シーズン末までにしているのも、ビジネス的な視点から見ると、なかなか利口なシステムである。


 また、エコの国であるドイツでは、瓶やペットボトルにプファンド(保証)するという考え方が一般的であり、例えばスーパーで水やジュースを購入すると、大概の場合は10〜25セント(約12〜30円)を追加で支払うことになる。これは空になったものを返却することで換金することができる仕組みで、これがサッカーのスタジアムでも採用されている。


 この仕組みをうまく利用しているドルトムントなどでは、飲み物を購入すると選手の写真とサインをプリントしたコップに入れてくれる。当然このコップのプファンドとして3ユーロ(約360円)を追加で支払うわけだが、選手1人1人のデザインのコップがあり、これを集めたくなってしまったりする。ドルトムントを訪れたことがある日本人は、香川真司選手のコップをお土産にした人も少なくないのではないだろうか。これも、ファン心理を利用した賢いビジネスと言えるのではないだろうか。


 また、ブンデスリーガのスタジアムでは、VIPルームやVIPラウンジの存在も忘れてはいけない。試合前後2時間に利用できるこのVIPエリアは、多くのスポンサーやクラブ関係者が利用しており、人気クラブになると、このエリアのチケットを持っていることがステータスとなる。当然1枚のチケットの価格も一般エリアより値が張ることになるが、駐車場などを完備し、できるだけ快適に来場し、楽しめるよう工夫していることもあり、1部クラブはどこもほぼ完売している。こういったVIPエリアでは、われわれクラブスタッフがスポンサー企業同士を紹介し、新しいビジネスのアシストをすることもある。サッカークラブのVIPエリアが、企業間をつなぐプラットフォームの役割を担っていることもあるのだ。

瀬田元吾
瀬田元吾

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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