日独で異なる“ゼロキャリア”の環境整備 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(4)

瀬田元吾

Jリーグのセカンドキャリアサポート

Jリーガーのセカンドキャリアが心配される近年の日本サッカー界。今回はドイツの“ゼロキャリア”での取り組みに注目した 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 24年目のシーズンが終了したJリーグ。今年も多くのスターが誕生した一方で、スパイクを脱ぐ決断をした選手たちも少なくない。第一線を退いた選手たちの多くはそれまでの経験を生かし、サッカーの指導者の道を歩んでいくが、中にはサッカー界からは全く離れ、別の事業で成功するようなケースも少ないながら存在する。

 Jリーグでは2002年にキャリアサポートセンターを設立し、引退選手のセカンドキャリアサポートと、現役選手に向けたキャリア教育を行っている。それは指導者ライセンス取得のサポートだけでなく、全く別の業種の職業体験や、そのための資格取得サポートであったりと多岐に渡る。こういった取り組みは現在の日本においては非常に有意義なシステムであり、実際に多くの選手たちが引退後に新しい人生をスタートできている。しかし私はあえて、この状況に疑問を投げ掛けたい。それはプロサッカー選手となり、若くして人よりも多くのサラリーを得られるようになった彼らを、さらに手厚くサポートをするということに対してである。

 厳しい言い方かもしれないが、プロサッカー選手の労働時間は、一般の会社勤めの方々と比べれば、圧倒的に短いものだ。もちろん身体を休めたり、身体のケアをすることもプロとしての仕事の1つであることは分かるが、それでも時間は十分に見いだすことができるはずである。逆に言うと、本来はそういった時間を選手たち自身が有効に生かすために行動していくことが望ましいのではないだろうか。

大学進学を選ぶ日本の金の卵たち

 そんな中、短いプロ選手生命を心配する高校生たちが、Jクラブからの誘いを受けても大学進学を選ぶケースが増えている。それは大学卒業資格を取得しておけば、プロ選手としての引退を迎えたのちも就職に有利であると考えるからであり、在学中に教職の免許などを取ることで、引退後の道もさらに開けてくるからである。

 また大学に所属しながら、強化指定選手としてJリーグでプレーすることも認められているため、そういう意味でも大学進学を選ぶ選手が増えているとも考えられる。場合によっては特待生として学費免除というケースも決して少なくなく、非常に魅力的な進路と言えるのかもしれない。しかし、日本のサッカーの未来を考えたとき、この年代に厳しい環境下でプレーをしないことは、世界との差が開く大きな要因の1つだと私は考えている。

 ドイツのブンデスリーガは17歳からトップチームで出場することができ、毎年多くのタレントがトップデビューを飾っている。そして彼らは、20歳を過ぎるころにはチームの主力として、世界最高峰のリーグで堂々とプレーする選手になっているのだ。日本の大学生プレーヤーが22歳で卒業し、ルーキーとしてJリーグデビューを果たすころ、ドイツの選手たちは次々に莫大な移籍金とともにビッグクラブへ移籍していっているのである。正直、この差は大きい。

ドイツの理想的なキャリア教育

ドイツ代表は若手選手の台頭が目につく。ブレーメンのセルジュ・ナブリー(写真)は16歳でアーセナルへ加入すると、21歳でA代表入りを果たした注目株の1人だ 【Getty Images】

 ドイツでは2000年代に入り大々的な育成改革を断行し、その結果、次々にタレントが生まれてくる仕組みを作り上げることに成功した。この改革の目標は、ドイツ代表チームの強化と若いドイツ人の発掘・育成であったが、DFB(ドイツサッカー協会)が示す資料の中には、「タレントを発掘し、エリートに育てていく」ことを目標にするという内容が明確に記されている。

 そしてその“エリート”とは、サッカーの能力だけが秀でている選手のことではなく、素晴らしい人間性も併せ持っていることが重要であることを強調している。そういった選手を育てていくうえで重要な要素は、「協会」「学校」「クラブ」の3つが連携して指導と教育に関わっていくことであり、DFBはその3機関の理想的な関係構築を規則化している。

 また1人でも多くのエリートを育てていくことが理想ではあるが、当然プロまで到達できる選手はほんの一握りであり、プロになれなかった選手たちの将来の可能性を広げるためにも、タレントたちへ充実した教育を提供していくことを重要視しているのだ。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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