Jに求めたい「フェライン」のマインド 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(6)

瀬田元吾

Jクラブの存在意義をあらためて考える

フォルトゥナではファン・サポーターと選手たちが親睦を深めるイベントを定期的に行っている。写真は、「フェライン」の新規会員と選手が参加したゴルフイベントの様子 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 いよいよ2017シーズンのJリーグが開幕を迎えた。1993年に10クラブでスタートした日本プロサッカーリーグも、現在では1部から3部で加盟数は54となり、クラブがホームタウンとしている本拠地も、38都道府県にまで増加している。これはこの四半世紀で、日本サッカーが飛躍的な進歩を遂げてきた結果と言えるだろう。

 そんな今年は、Jリーグが新たにパフォーム社の動画配信サービスDAZN(ダ・ゾーン)と10年という大型長期契約を結んだレボリューション元年でもある。この契約により、各クラブには多くの放映権料が分配されるようになり、これは各クラブの運営状態や経営方針に大きな影響を与えていくことになるだろう。クラブによって経営状況は異なるだろうし、一概にこうするべきと提言するのは容易ではないが、こんな機会だからこそ、5年後、10年後を見据えた健全で地域に密着したクラブ経営を目指してほしい。それを実現するためにも、Jクラブがそれぞれのホームタウンに暮らす人々にとってどのような存在であるべきか、今一度考えることが重要だろう。

 そこで今回は、かつてJリーグを発足するにあたり手本にしたドイツ・ブンデスリーガに所属するクラブの在り方を、あらためて掘り下げて紹介したいと思う。きっと、Jクラブがホームタウンの地域住民からの帰属意識を高める上で、非常に重要なヒントとなるのではないかと思っている。

ドイツのクラブはすべてが「フェライン」

 日本ではJ1からJ3までの54クラブのうち、J3所属のY.S.C.C横浜(特定非営利活動法人)を除く53クラブは、株式会社という運営形態をとっている。Jリーグ参入条件に株式会社でなくてはならないという明記はないが、暗黙のうちにどこのクラブもプロ化する段階で株式会社を設立するのが実情となっている。

 一方ドイツでは、ドイツ国内に存在する約2万5000のサッカークラブが「フースバルフェライン」である(唯一の例外となるレヴァークーゼンの説明は割愛する)。「フースバル」とはドイツ語で「サッカー」を意味するが、「フェライン」とはどういう意味なのだろうか。

 フェラインとは本来「一つになる」という意味を内包し、仲間や同志の集まりを指している。英語ではアソシエーション、日本語では協会、社団に相当し、日本では特定非営利活動法人(NPO)に近い存在であると言えば理解しやすいかもしれない。ちなみにその中でも、法人格のあるものを登記法人「eingetragener Verein(e.V.)」と言い、フースバルフェラインはすべてがこの「e.V.」ということになる。

 フェラインはある特定の目的を持った人間が最低7人集まれば簡単に設立することができる。申請が比較的簡潔であることに加え、公益性の認証を受けることができれば、税制上の優遇処置(法人税、営業税、売上税などの軽減処置)や、小規模であれば、フェラインの会員が所得税控除を受けられるという処置もある。また、設立の目的も自由であることから、ドイツには趣味趣向に合わせて、消防団、自然保護、青少年育成、子育て、病人、高齢者介護、合唱、オーケストラ、音楽隊、スポーツ、観光、民族、園芸など、多種多様なフェラインが存在している。ちなみにスポーツを目的とした「スポーツフェライン」は、ドイツ国内に約9万ほど存在するが、そのうちの約2万5000がフースバルフェラインで、全体の約4分の1を占めている。

 ちなみに今では、ブンデスリーガに所属する多くのクラブは、トップチームを運営する営利団体を保有している。ドイツサッカー協会(DFB)が98年より運営会社の設立を許可したことで、99年にはドルトムントがボルシア・ドルトムント有限株式合資会社を、また02年にはバイエルンがバイエルン・ミュンヘン株式会社を設立している。そして16−17シーズン現在では、31の運営会社が設立されている(1部14社、2部6社、3部6社、4部5社)。

 ちなみにDFBが運営会社設立を認めた大きな理由としては、各クラブがトップチームに関して営利団体として利益を追求することが、リーグ全体にとっても有益であると判断したことが挙げられる。また、トップチームのパフォーマンスがフェライン自体の存続に関わってくると、フェライン本来の公益性を損ねてしまう恐れがあるため、トップチームの運営を別にすることで、フェラインへの経済的なリスクを軽減できることも重要な要因とされている。なお、今回は非営利法人であるフェラインと運営会社の関係性についての説明は割愛するが、ブンデスリーガ1部18クラブ(15−16シーズン)のうち16クラブが黒字となっていることからも分かるように、この運営形態はリーグにも好影響を与えている。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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