今野の起用法に「総力戦」を感じた理由 勝ち点以上の価値を持つUAE戦の勝利

宇都宮徹壱

G大阪のファンには堪えられない展開に

3バックと4バックの違いはあるが、インサイドハーフの今野と倉田が並ぶのは、まさに最近のガンバ大阪のシステムそのものだ 【写真は共同】

 序盤からペースをつかんだのは日本。戦前の予想に反し、アウェーの日本のほうがポゼッションで上回り、ホームのUAEはカウンター狙いという構図が明確となる。1トップの大迫が、立て続けに2本のシュートを外すが、ゲームの入りとしては悪くない。そして前半14分、ついにスコアが動く。香川からのパスを受けた酒井宏が、そのまま右サイドを走り抜ける久保にグラウンダー気味のスルーパス。ディフェンスラインの裏を抜け出した久保は、相手GKの動きを冷静に見極めて右足でニアサイドを打ち抜き、日本の先制点となった。久保は3試合目にして、これがうれしいA代表初ゴール。

 しかしUAEも負けてはいない。20分、イスマイル・アルハンマディからのスルーパスに対して森重の対応が遅れ、アリ・マブフートにGKとの1対1の局面を作られてしまう。33分、ダイアゴナルに侵入したアルハンマディがゴール前に意表を突く山なりのボールを送り、オマルが走り込む決定的な場面もあった。この2つのピンチを救ったのが、GK川島の勇気ある飛び出しと冷静な判断である。前半アディショナルタイムには、ペナルティーエリア手前でFKのチャンスを与えるが、オマルのキックはバーを越えて前半が終了。日本は1点リードでハーフタイムを迎えた。

 後半立ち上がりは、UAEが立て続けにチャンスを作り、日本の守備があたふたする場面が続く。この嫌な流れを断ち切ったのが、またしても久保であった。後半7分、自陣の右サイドから吉田がロングボールを送り、大迫のポストプレーから久保が右サイドからクロスを供給。原口のニアへの動きに相手DFが引っ張られ、ファーに入った今野がフリーで受けると相手GKの股間を抜いて追加点を挙げる。ここでようやく私は、今野がボランチではなくインサイドハーフとして起用されていることに確信が持てた。この日の日本のシステムは4−2−3−1ではなく、山口をアンカーに置いた4−1−4−1(または4−3−3)である。

 後半26分、ハリルホジッチ監督が最初の交代カードを切る。香川に代えて倉田秋。インサイドハーフの今野と倉田が並ぶのは(3バックと4バックの違いはあるが)、まさに最近のガンバ大阪のシステムそのものである。今野が2列目から貪欲にボールを奪い、そして倉田が絶妙なスルーパスを送る。G大阪のファンには堪えられない展開だったのではないか。そして守っては、腕章を巻いた吉田が優れた危機察知力を発揮し、危なげなく相手の攻撃を弾き返す。試合はそのまま2−0で終了。日本は敵地で貴重な勝ち点3を確保すると同時に、15年のアジアカップから続いていたUAEへのネガティブなイメージに終止符を打つこととなった。

W杯を目指す総力戦は、これからも続く

この日のMVPとして、今野(中央奥)の名前を挙げないわけにはいかないだろう 【写真:アフロ】

 それにしても、この日のMVPは誰に与えられるべきだろうか――。まず考えられるのは、1ゴール1アシストの久保だろう。前半の2つのピンチを未然に防いだ川島、守備の要として存在感を示したキャプテンの吉田も捨てがたい。が、やはり今野の名前を挙げないわけにはいくまい。(先のコラムでも指摘したとおり)彼にとってUAEは何かとゲンの良い土地だが、これほどの活躍を見せてくれるとは思わなかった。「とにかく走って、相手をつぶして、シンプルなプレーをしようとは考えていました」とは当人の弁。いかにもこの人らしい、何とも朴訥(ぼくとつ)としたコメントである。

 今野の活躍は、最近の所属クラブでの好調ぶりに加えて、G大阪と同じインサイドハーフで起用した、ハリルホジッチ監督の采配に負うところも大きかったと思う。試合後の会見では「今日の今野は素晴らしいプレーをしてくれた」とたたえた上で、指揮官は「ここ3試合、G大阪でどんなプレーをしているか追跡して、そこでアイデアが浮かんだ。ほぼ完ぺきなプレーをして、ボールを奪いながら点も決めてくれた」と語っている。2年ぶりに招集した今野を、代表で最適化させるにはどのような起用方法が適切なのか。その結論は、G大阪のやり方を部分的に移植させることであった。

 W杯予選とは、その国のサッカーの力を結集させて戦う、まさに「総力戦」である。協会しかり、育成しかり、選手しかり、指導者しかり、サポーターしかり、国内リーグまたしかり。そうした中、これまで欧州組を重用するあまり「Jリーグを軽視している」と批判されてきたハリルホジッチ監督が今回、Jクラブをリスペクトするような采配を見せたことの意味は小さくはないだろう。どこか遠い存在だったボスニア・ヘルツェゴビナ出身の指揮官が、ようやく身近な存在に感じられるようになったとしたら、このアル・アインでの勝利はさらに価値を増すことになるはずだ。

 最後に、最終予選6試合目を終えての順位表を確認しておこう。この日、サウジがタイに3−0で勝利。オーストラリアはイラクと1−1で引き分けた(いずれもアウェー)。この結果、1位のサウジと2位の日本は勝ち点13で並び、3位オーストラリアが3ポイント差、4位UAEが4ポイント差と続く。3敗目を喫したUAEは、プレーオフ進出が現実的な目標となり、今後は上位3チームの争いが熱を帯びることになりそうだ。日本の次の対戦相手は、最下位に沈むタイ。ホームでの戦いとはいえ、「次も勝たないと、UAEに勝利した価値がなくなる」というハリルホジッチ監督の言葉は、しかと胸に刻みたい。ひとつの山は越えた。だがW杯を目指す総力戦は、これからも続く。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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