今野の起用法に「総力戦」を感じた理由 勝ち点以上の価値を持つUAE戦の勝利
プレッシャーを抱えているのはホームのUAE
イスマイル・マタル(10)ら主力級のベテランもいるが、日本と比べるとまだまだ「青い」という印象を拭えないUAE。プレッシャーを抱えていたのは明かだった 【写真:アフロ】
ワールドカップ(W杯)アジア最終予選、ホームでの日本との大一番の前日会見。UAEのマフディ・アリ・ハッサン監督のコメントを聞いて、あらためて彼らの抱えている重圧に思い至った。
実はUAEは90年のイタリア大会に出場しており、彼らは実に27年ぶりのアジア予選突破を目指している。当時の最終予選は、シンガポールでの集中開催。北朝鮮、中国、サウジアラビア、カタール、韓国と対戦し、1勝4分け無敗の2位で韓国とともに本大会出場の切符をつかんでいる(ちなみに日本は1次予選で敗退)。UAEにとってW杯出場は、まさに「国民的悲願」と言っても差し支えないだろう。
期待が大きいだけに、プレッシャーも尋常ではない。9月に行われた最終予選の初戦は、アウェーでの日本戦に2−1で歴史的勝利を収めたものの、オーストラリアに0−1、サウジに0−3と敗れて4戦目で早くも2敗目を喫してしまう。そして「負ければ監督解任」とささやかれた、昨年11月15日のイラク戦(ホーム)では、久々に2−0で快勝。これで勝ち点を9に伸ばしたUAEは、首位サウジとは1ポイント差の4位で前半戦を終えた。
それでも、彼らが「首の皮一枚」の状況であることに変わりはない。今予選のメンバーは、2012年のロンドン五輪を経験した「黄金世代」が半数近くを占めているが、逆に経験のある主力級のベテランといえば、FWのイスマイル・マタルとDFのイスマイル・アハマド(いずれも33歳)、モハナド・サレム(32歳)くらい。W杯に連続5回出場しており、老獪(ろうかい)な選手がそろっている日本と比べると、UAEはまだまだ「青い」という印象を拭えない。
思えば最終予選の初戦、彼らはまさに「失うものは何もない」状態であり、潜在的なプレッシャーを抱えていたのはむしろ日本の方だった。ところが今回は、まったく立場が逆。予選突破の可能性は残しているものの、すでに2敗しているだけに、残り2試合のホームゲームは必勝体制で臨まなければならない。日本とUAE、どちらがより大きなプレッシャーを抱えているかは明らかである。実際、前日会見でのアリ監督には寸分の余裕も感じられず、その表情は固くこわばったままであった。
背番号17は今野に、キャプテンマークは吉田に
けがで離脱した長谷部に代わり、キャプテンマークは吉田に託された 【写真:アフロ】
もしも日本が、彼らの望みどおり敗れるとするなら「自滅するパターン」以外には考えにくい。たとえば、開始早々に失点して心理的に追い込まれるとか(15年アジアカップのケース。1−1からPK戦で敗戦)、レフェリングに疑心暗鬼になるとか(前回の対戦のケース)、あるいは過去の敗戦の記憶を引きずってしまうなど──。換言するなら、過去の轍を踏むことなく冷静に対処していれば、アウェーだからと必要以上に恐れることはない。今回の招集メンバーに関して、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「経験値」を重視したのも、ベテランの心理的なマネジメント能力を期待してのことだろう。
むしろ指揮官が気にかけているのは、長谷部誠の不在である。キャプテンとしても、そしてボランチの一角としても、長谷部が類いまれな存在であったことは誰もが認めるところだ。それゆえ歴代の監督から愛され、信頼もされてきたわけだが、この5、6年の間に日本はすっかり「長谷部依存体質」となってしまった感は否めない。そのツケが、アウェーのUAE戦という重要な局面で回ってきたのは、非常に悩ましいところだ。注目のスターティングイレブンは、以下のとおりとなった。
GK川島永嗣。DFは酒井宏樹、吉田麻也、森重真人、長友佑都。MFは山口蛍、今野泰幸、香川真司。FWは久保裕也、原口元気、大迫勇也。メンバー表のポジションをそのまま当てはめれば4−3−3だが、どのような並びになるかは試合が始まってみないと分からない。それにしても、所属チームで出場機会がない、あるいは少ない川島と長友が、共にスタメン出場というのは予想外だった。そして、長谷部のトレードマークである背番号17は今野に、キャプテンマークは吉田に、それぞれ託された。対するUAEは、先の対戦で日本から2ゴールを奪ったアハメド・ハリル、そしてアメル・アブドゥルラフマンが負傷のため欠場。注目のオマル・アブドゥルラフマンは、10番を尊敬するマタルに譲り、この日は21番を付けての出場となった。