新生ラグビー日本代表の戦術を分析 ディフェンスが崩れた理由とは

斉藤健仁

強豪相手のスクラムでは収穫も

準備期間が少ない中、フィールドプレーだけではなく、スクラムでも奮闘したHO堀江 【築田純】

 相手がスクラム強国の一つ、アルゼンチンということもあり、この試合、一番の焦点になったのがスクラムだった。ジョセフHCは、トップリーグで首位に立つヤマハ発動機のスクラムを鍛えており、1999年のW杯をともに戦った長谷川慎コーチを招聘。8人一体で低く組むスクラムを採用した。まだスクラムを組む前の準備段階であるセットアップ中心の練習しかしていないにも関わらず、FWの選手たちからは「(エディー・ジャパン時代のスクラムコーチだったマルク・)ダルマゾより細かい」、「スクラムが楽しい!」という声が聞こえていた。

 試合途中で体格の大きな相手の圧力の前に反則してしまったシーンもあったが、対等に組んだり、反則を誘ったりするシーンもあったことは収穫。ジョセフHCは「我々は1回しかスクラム練習していないのに関わらず、こういったパフォーマンスができたのは長谷川コーチがいい仕事してくれたから」と盟友を称え、長谷川コーチも「途中から(トップリーグの)チームでやっている組み方に戻ってしまった。もう1週間あったら……」と悔しそうな表情を見せた。

FL三村「前を見えていない人もいた」

ジョセフHCは激しく前に出るディフェンスを導入した 【築田純】

 大きな課題は7トライ、特に後半5トライを喫してしまったディフェンスであることは明白だ。ディフェンスは個々のタックルと組織ディフェンスとに大別されるが、問題だったのは組織ディフェンスだろう。ジョセフHCは、ディフェンスに関しては元NECで、ハイランダーズのコーチの一人だったベン・ヘリング氏を招聘。ヘリングコーチは、世界の潮流でもある激しく前に出るディフェンスを導入。相手にプレーする時間と考える時間を与えず、挟むようにダブルタックルし「相手をパニックにさせるイメージ」(FL三村勇飛丸)だった。

 ただ選手の多くは自チームで、内から外に押し出すようにディフェンスする「ドリフトディフェンス」を導入しているため、頭で理解していても混乱していたようだ。また初キャップ組が13人でコミュニケーションや連係が取れていなかった影響も大きかった。

 組織ディフェンスでは誰がトイメンをマークするか「ノミネート(自分が対応する選手を周囲に伝える)」するが、それが行われていないことがあった。また、ラックが形成された時には周囲に4人の選手が立つが、順目の2人目の選手がポッカリといないところを突かれたり、個々の判断で激しく前に出たものの相手にかわされて外側でピンチを迎えるなど、最後まで安定させることはできなかった。

 初キャップながら落ち着いたプレーを見せていたFL三村は「ディフェンスは急ピッチでやったので完璧ではないのはわかっていた。コミュニケーションと状況判断の問題だったと思います。連係がうまくできておらず、徹底できていなかった。前を見られている人はわかっているが、見えていない人もいた」と冷静に分析してくれた。

 また共同主将のひとりCTB立川は「フィジカルに来ること、オフロードパス(タックルを受けながらのパス)もしてくるのはわかっていた。新しいディフェンスシステムで相手のミスも誘うことができたが、自分たちのシステムのところで、ミスがあった。修正すれば大丈夫かなと思います」と振り返った。ただ11月のテストマッチではアタックの精度を上げることに注力し、従来のままのディフェンスで戦っても良かったのではと思わざるを得ない。2019年を見据えて……ということもわかるが、あまりにも淡泊に失点を重ねて、ホームでの戦いなのに接戦に持ち込めなかったは残念でならない。

CTB立川「チームを信じてやっていきたい」

「ONE TEAM」として欧州遠征に臨む 【築田純】

 54失点での敗戦は新生日本代表にとっては、厳しいレッスンとなった。アルゼンチンからイタリア経由で来日した相手のコンディションはW杯時から見れば7〜8割ほどだろう。このレベルのチームに勝てるようにならなければ、目標とするベスト8に進出することは到底できない。

 いずれにせよW杯まであと3年と考えれば、振り返っている余裕はない。力強いコンタクトで会場を沸かせたCTB立川は「相手は強かったですけど、僕たちは下を向くことなく、これから上に上がっていくしかない。チームを信じてやっていきたい」と前を向いた。

 すでに日本代表は欧州遠征の最初の目的地であるトビリシに向けて出発した。11月12日にジョージア、19日にウェールズ、26日はフィジーと格上と対戦が続く。ジェイミー・ジャパンのスローガンは「ONE TEAM」。チーム一丸となって、どこまでチーム力を高めることができるか。この1年間を怠惰に費やしたラグビー日本代表にとって、一試合も無駄にすることはできない。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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