新生ラグビー日本代表の戦術を分析 ディフェンスが崩れた理由とは

斉藤健仁

W杯4強のアルゼンチンに大敗し、厳しい船出

日本はアルゼンチンに7トライを許して大敗した 【築田純】

 昨秋、世界の檜舞台で見せた強さを、ホームに駆けつけた1万8235人のファンの前で、ほとんど見せることができなかった。
 11月5日(土)、東京・秩父宮ラグビー場で、9月にジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)が就任したラグビー日本代表(世界ランキング12位)が、昨年のワールドカップ(W杯)ベスト4のアルゼンチン(同9位)と対戦した。

 アルゼンチンは「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」でニュージーランド、オーストラリア、南アフリカと戦って1勝5敗、8月には南アフリカも下した強敵。日本代表は「ベンチマークとなる」(ジョセフHC)、「(今後の)基準となる」(共同主将のひとりHO堀江翔太)と意気込んだ。

 だが、2019年のW杯に向けて3年を切り、やっと新体制がスタートしたばかりの日本代表は世界の強豪の前に、ディフェンスが崩壊し7トライを許して20対54と大敗。ジェイミージャパンは厳しい船出となった。

これまでの日本代表との一貫性がなく、代表辞退者も

共同主将のひとりとして若いチームを引っ張ったCTB立川 【築田純】

 負けるべくして負けた。ジャガーズ(スーパーラグビー)の選手がほとんどで10カ月ほど同じチームで戦っているアルゼンチンに対し、指揮官が就任したばかりの日本代表の準備期間は10日間ほど。エディー・ジャパンや6月の日本代表との一貫性も感じることができず、コーチ陣も一新した。

 また元主将のFLリーチ マイケルやSO小野晃征、CTBマレ・サウら中軸をコンディション不良や「諸事情」で招集できず、23人中13人、先発15人中7人が初のテストマッチとなった。また昨年のW杯のアメリカ戦時の23人の総キャップ数は819だったの対して、今回は348。戦前から準備不足、経験不足は否めなかった。

エディー・ジャパン時代と違う攻撃戦術

FB松島はアタック、ディフェンスに大車輪の働きを見せた 【築田純】

 それでも良かった点はあった。「スピードの速い展開、ボールをよく動かす、キッキングゲームを織り交ぜた戦いができたと思います。非常にうまく機能していた」とジョセフHCも及第点を与えていたアタックである。

 ジェイミー・ジャパンでは、エディー・ジャパン時代の「アタック・シェイプ」ではなく、ニュージーランド流の「ポッド・アタック」を採用。10月のミニキャンプから、トニー・ブラウンコーチがFWを4つのポッド(ユニット)に「1−3−3−1」で配置する練習を繰り返してきた。

 ジョセフHCやブラウンコーチが指導してきたハイランダーズだけでなく、パナソニックやサンウルブズともほぼ同じで、3ないしは4つのユニットを配置し「ボールは人よりも速い」という概念の下、ボールを大きく動かしつつ、キックやパスでスペースを突く。根本的な考えはヤマハ発動機、NTTコムなどのチームと共通しており、多くの選手たちから「似ているのでやりやすい」という声があがっていたほど。

ジョセフHC「我々の戦い方を見せられた」

トライを奪うなど豪快な突破力を見せたマフィ 【築田純】

 前半20分までは、ストラクチャー(決められた攻撃の形)を守りつつ、SO田村優を筆頭にCTB立川理道、FB松島幸太朗のキックを使って敵陣で戦う意識が強く、SO田村のオープンサイド側へのハイパント、SH田中史朗のボックスキックでチャンスもつくっていた。相手にディフェンスでプレッシャーを与えられてもしっかりとボールをキープしつつ、大外に配置していたNo.8アマナキ・レレィ・マフィで大きくゲインしたこともあった。

 後半12分には、ボールを大きく動かしつつ、最後はマフィが近場を突いてトライも挙げた。ただジョセフHCは「もっと裏にキックしていれば、もう2〜3本取れた」と言うように、キックを有効に使って、スペースを突いてほしかったようだ。

 この戦術は、攻防一体であり、相手からボールを奪った直後に、すぐに攻めることができる利点もある。アンストラクチャー(崩れた局面)からのアタックもジョセフHCが力を入れている分野で、相手反則後、クイックから攻めた後半40分のWTBレメキ ロマノ ラヴァのトライに対して、大柄な元オールブラックスの指揮官は「我々の戦い方を見せられた」と一定の評価を与えた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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