【侍ジャパンU-18代表・小倉全由監督インタビュー③】長い指導経験で培った「選手の関係を築いた」教えと今後の指導者の在り方とは?

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※本記事は前・中・後編(3部構成)の後編。


「​​第13回 BFA U18アジア選手権」で侍ジャパンU-18代表を準優勝に導いた小倉全由監督。

中編では、アジアの野球普及に向けた提言や育成年代における侍ジャパンの意義についてなどを語っていただいた。

特集の最後は高校野球40年以上の指導歴を誇る名将に、指導者の選手との向き合い方などについての考えを伺った。

指導者が勉強し、教えるべき「正しいスイング」

前編の最初に触れた、小倉監督が代表選手の打撃を見て感じた違和感。それは、「バットが体から離れて出ていたこと」だと語っていた。

打撃陣はスーパーラウンド2試合で6安打と、韓国とチャイニーズ・タイペイの投手相手に苦しんだ。

しかし決勝戦前の練習で選手たちは課題と向き合い、短期間でできる修正を行った。再戦したチャイニーズ・タイペイ戦では10安打を放ち改善を見せていた。

今後国際大会でも攻撃力を発揮するために、指導者として教えるべきことを語った。

「フライボール革命などあったのかもしれないですが、バットが体から離れてしまうスイングで打つのは難しいです。肩口からボールへ最短距離でバットを出して、ホームランになってないかと言ったらなるじゃないですか。

今後のバットは木に近い形状になるので、木バットに近いスイングと言いますか、それに対応できるスイングを教えるべきだと思います」


ここで、日大三高での監督時代に中学野球の監督と話したエピソードを明かしてくれた。

「私は三高時代に中学の軟式野球チームの監督に、『硬式でもバットの使い方は同じですよ』とずっと言っていたんです。

ある時に『軟式野球から来た選手は使わないなどないですか?』と聞かれたので、『そんなことはありません。軟式で打てる選手は硬式でも打てます』と言いました。

その代わり、『緩いボールを体の外からバットを出してただ飛ばそうとしているだけの選手は違います』と。バットの軌道が肩口から最短で使える選手はどんな球でも打てますから」

今は子どもたちから現役のプロ野球選手までも、YouTubeを活用して技術の研究を行っている。

プロ野球OBをはじめ、アマチュアで実績を残した元選手などが打撃や投球フォームの解説を行い、それを各々が参考にして練習へと取り入れている。

小倉監督はその点についても踏まえ、今後の指導者に向けてこう提言した。

「正しいスイングを教えるためには、指導者も勉強しないといけないです。ただ『誰々がこう言ってる』とか、連続写真の一場面を見て『こうなってるだろう?』ではなく、自分で『確かにそうだな』と納得することが必要です。

今YouTubeでさまざまなスイングが出ていますよね。もちろん、それを見ることが悪いことではないです。ただ、あれはプロでやった人が自らの感覚で教えているものです。

体格も筋力もバットの構える位置も一人ひとり違います。その選手個々がどう体を使うと有効に一番力を伝えられるのか。人によって違いはあれども共通点・基本になる形というのがあるわけですから。

それを数打って自分なりの感覚を掴んでもらうことで身になっていくと思います」

新たな理論が出ても基本の形は変わらないと述べた 【©BFJ】

直前に述べていた”数をこなす”。ここも小倉監督が技術を身につけるために大切と考えている要素である。その根拠を、例えを交えて説いた。

「頭で考えるのも必要ですが、大事なのは体で覚えてもらうことだと自分では思います。特にスローイングは頭で考えるだけだと上手く投げられなくなりますから。流れがなくなってしまうんです。

それと、体で覚えるためには数をこなさないと無理だと思います。自分はどれだけボールを扱えたかが上手くなる道だと思っていて、冬でもボールを使った練習をしていました。

三高時代に選手たちに伝えていたのは、ものを食べるのに箸を使うじゃないですか。その時『口に最短距離でって考えてる人がいるか?』と。

遠回りして食べる人はいないですよね。それは小さい時からずっとやってるなら無意識にできるわけじゃないですか?

見なくても口に持って行ける。つまりはそうやって反復して扱うんだと。体で覚えるというのはそういうことだと思います」

育成年代への向き合いで大切な「指導者と選手たちの信頼関係」

また、指導においては技術の他にも人間教育の面にもフォーカスし、小倉監督に伺った。

今回改めて高校生を率い、選手たちの振る舞いについて語った。

「自分は『代表選手なんだからどこ歩いても恥ずかしくないように振る舞わないとダメだぞ』とは言っていて、そこからはみ出るようなことはなかったです」

日本人の礼儀・礼節の良さは、海外でも高く評価されている一つに挙げられる。野球においても世界と戦う中で、それに違うことはなかった。

「マナーの良さも日本は高いです。日本人はマナーもあり、スポーツマンシップもある。高野連が掲げている3つのF(Fairplay・Friendship・Fighting spirit)ってあるじゃないですか?これは今後も必ず続いていくべきものです」
コンプライアンスが重視されていることから、指導者と選手の接し方について議論され続けている近年。

小倉監督は今の育成年代への向き合い方について、このように考えている。

「今の子たちは『叱られることに慣れてない』と言われているように感じますが、もし本当にそうだとしても”いいことはいい”・”ダメなものはダメ”としっかり言う。

聞く耳を指導者が持たせなければならないです。指導者と選手たちの信頼関係があれば、『これはいけないこと』だと気づかせてあげられるし、逆にダメなことを教えなければ、道を外すようになってしまいますから。

”今の子たちはこうだ”などと決め込まないで、頑張ることをまだ知らないのであれば、『頑張るってこういうことだよ』と教えてあげて、達成感を味わわせてあげたらもっと伸びますよ。

今の子たちは自分たちの当時よりも素直だと思うし、それを教えてあげるのが今の大人たちなのですから」

”褒める”を二回りも三回り大きくするには?

小倉監督は40年以上にわたり高校球児と携わってきた。昭和・平成・令和と時代が流れる中、指導のやり方を柔軟にアップデートしてきた。

”褒めて伸ばす”が主流となりつつある今、その本質を考えた上での指導を行っていた。

「高校野球の根性論だとか、『昔はこうだった』では選手がついてこないです。”根性とは何か”・”頑張るとは何か”がどういうことなのかをもっともっと教えていく。

指導者が現役でやってた時代よりも教え込んであげて、子どもたちが理解した中で引っ張ってあげることが今は必要なのではと。ですので技術でも話した通り、指導者も勉強していかないといけないんです。

子どもたちの良さを大人が見つけて伸ばしてあげる。昔は否定から入っていたじゃないですか?

褒めて伸ばすというのは甘やかすではなく、『上手くなったな』の言葉が選手たちの心に大きく響いて、自ら頑張れるようにすることが大事ではないかと思います」

選手との信頼関係を築き続けてきた 【©BFJ】

日大三高での監督時代、選手を褒めたことによって相乗効果をもたらしたエピソードがあった。それは”褒める”効果が何倍にも見られるものだった。

「自分は『年配の人を見たら席を譲ってあげなさい』と言っていました。そしたら、譲ってもらった方が度々学校に電話して、お礼を言ってくれていたんです。

すると校長先生から『うちの選手がこうしてくれた』って自分に報告してくれるので、私もグラウンドで選手たちに『いいことしたな』って伝えると練習がいい雰囲気になるんです。

そこで”いいことした”で終わりではなくて、『みんながいいことしてくれたおかげで今日すごくいい練習ができた。ありがとう』と言うと、同じ褒めることが二回りも三回りも大きくなって、選手も『あぁよかった』となれるんですよ」

高校野球=厳しい、苦しいというネガティブな意味でのイメージも少なからずある中、野球をいかに”楽しい”と思えるか。小倉監督は本当の楽しさとは何かを述べてインタビューを締めた。

「自分は褒めるの言葉の中に、選手たちが”もっと良かった”と思わせる。そういう指導をしないといけないなと考えていました。

三高では寮で選手たちと寝食を共にしてたからかもしれないですが、選手たちに言っていたのは『当たり前のことを当たり前にして褒められたらこんな得なことないよな』と。

当たり前のことをやって、それで周りから応援されたらこんないい高校野球生活はない。だから、指導者が選手と向き合って楽しく野球をやろうよと。

野球って練習は苦しいけど、ただ苦しいだけじゃなくて『練習きつかったけど、今日いい練習できたな』っていい顔してグラウンドを上がれる。そうなれるよう指導者と選手の関係を築く。

ただ、楽しく野球やるだけで甲子園には行けないんだから、これから野球の”本当の楽しさ”を教えてあげることが必要なのだと思います」

褒めて伸ばすの本質を語った 【©BFJ】

侍ジャパンU-18代表での激闘の日々から感じたこと、そして今後の指導の在り方など多くを語っていただいた。

この金言の数々が、日本野球をさらにアップデートさせていく。


(取材 / 文:白石怜平)
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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