混在する“お祭り感”と“真剣勝負” MLB球宴で感じる大きな矛盾

杉浦大介

大きな意味を持つWSホームアドバンテージ

今季限りでの引退を公言しているオルティスには大きな声援が送られた 【Getty Images】

「ホームフィールド・アドバンテージはとても重要だ。(去年のワールドシリーズで)アドバンテージを持っていることは大きかったし、今季ワールドシリーズに進むチームにとっても大きな意味を持つはずだ」

 去年のシリーズで地元で1、2戦に連勝し、メッツを4勝1敗で下したロイヤルズのネッド・ヨスト監督はそう語る。過去35度のシリーズではホームフィールド・アドバンテージを持つチームが27度もシリーズを制してきた。特にシリーズが3勝3敗となった場合、第7戦はホームチームが過去10戦中9勝。これほど大事なゲームの開催権を、エキジビションゲームの結果で決めてしまうのは無謀としか言いようがない。

 事の発端はミルウォーキーで開催された03年のオールスターだった。7−7のまま延長11回を終えたところで選手が足りなくなり、引き分けにしたことでMLBは批判を浴びた。

 これを受けて、当時のバド・セリグ・コミッショナーは選手に真剣勝負を促すためのシステム変更を断行。以降、多くのメディアがこの動きに異論を唱えてきたが、MLBは頑なに制度を貫いてきた。

勝利の追及とは合致しない球宴の醍醐味

 どうしても“本気で”と言うのなら、最初から最後までベストメンバーを貫く正真正銘の勝負を行って欲しい。全チームから必ず1選手を選ぶという制度も撤廃。マイク・トラウト(エンゼルス)のようなキープレーヤーはフル出場で勝ちにいく。そんなゲームなら選出されること自体が名誉だから、プレーできない選手も納得するだろうし、ファンの支持もある程度は得られるのではないか。

 ただ、現状、MLBは真剣勝負をうたってはいても、実際にはほぼ全員が交代でプレーする遊びのゲーム。その結果に優勝争いに極めて重要な意味を持つアドバンテージが委ねられているのだから、中途半端に思えて仕方ない。

「オールスターではみんなに出場機会があって欲しい。ビッグネームだからというではなく、ハードワークの結果として出場できるのだから」

 今季限りでの引退を表明した“ビッグパピ”ことデービッド・オルティス(レッドソックス)のそんな言葉はやはり正論なのだろう。人気選手たちがスタメンで舞台に火を灯し、後半はライジングスターが交代出場で引き継ぐ流れが悪いとはまったく思わない。その合間にさまざまなイベントや名シーンが挟まっていく。それこそが“時代を映す鏡”と呼ばれるオールスターの醍醐味である。

 今回が最後の球宴になるオルティスが、3回裏の交代時に盛大なスタンディングオベーションを浴びたシーンは今年のハイライトになった。ただ……“本気のゲーム”とうたうのであれば、40歳にして出塁率、長打率でメジャー1位のオルティスはもっと多くの打席に立つべきではなかったか。特に今季のレッドソックスはワールドシリーズ進出のチャンスがあるように思えるだけに――。

 こんなことにまで想いを巡らせなければいけないところに、“お祭り”と“真剣勝負”を混同させた現在のオールスターの矛盾がある。何かを懸けたいなら、シンプルに賞金でも出した方が理にかなう。ほぼ毎年のようにこんな議論が繰り返されているのだから、そろそろMLBが正論に傾くことを期待しているのは筆者だけではないはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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