男子レスリング、「惨敗」の現実 ロンドン五輪から4年で出場枠半減

布施鋼治

世界最終予選で1枠も獲得できず……

全6階級で出場を決めた女子に対し、グレコローマン2階級、フリー2階級の出場枠獲得にとどまった男子レスリング。リオに向けて非常に厳しい船出となった(写真は3月のアジア予選のもの) 【写真は共同】

 かつて日本のお家芸と呼ばれていたレスリングに厳しい現実が待ち受けていた。

 5月6〜8日(現地時間)、トルコ・イスタンブールでリオデジャネイロ五輪の世界最終予選が行われ、日本は男子フリースタイル、グレコローマンともに各4階級で上位2名に与えられる代表枠を目指したが、逸してしまった。
 4月下旬、モンゴルで行なわれた世界予選第1戦でも、日本は1枠も獲得できていない。その際、栄和人強化本部長は「気持ちを入れ直していかないと、トルコの方が厳しいかもしれない」と語っていたが、その予想は現実のものになってしまった。

 しかも、最終予選で望みを託した8階級のうち5階級は初戦敗退だった。期待されていたフリー97キロ級の山口剛(ブシロード)は5月1日の練習中に、右でん部のハムストリングを部分断裂してしまい、全治4〜6カ月と診断された。都内の病院に緊急入院してできる限りの処置を施したうえで最終決戦の舞台となるトルコへ出発。現地でも回復に努めたが、奇跡は起こらず自ら出場辞退を申し出た。最後はフリーの和田貴広強化委員長の前で動きの最終チェックを行い、話し合ったうえで決断を下したが、その直後、山口はひざまずいたまま泣き崩れたという。

 3月のアジア予選、4月の世界予選第1戦に続いて3カ月連続で五輪予選に出場という強行スケジュールが仇(あだ)となってしまったのか。それとも、絶対に出場枠を取らなければならないという焦りが疲労を蓄積させてしまったのか。

リオはわずか4枠

 今回が五輪を目指すラストチャンスとなる舞台だっただけに、イスタンブールの会場の雰囲気は初日からピリピリムード。どこの国も1試合1試合、勝負に出ていた。出場枠を獲得した選手やコーチはうれし涙を流したが、対照的に日本代表は泣くほど勝ち上がることはできなかった。

「情けない」

「すいませんでした」

 今大会で敗戦後、選手たちは開口一番そう言いながら頭を下げるケースが多かった。
 結局、全6階級で出場を決めた女子を尻目に、男子はアジア予選で獲得したフリー57キロ級、74キロ級と、グレコローマン59キロ級、66キロ級に命運を託すことになった。ロンドン五輪ではフリーで5名、グレコローマンで4名の代表を送り出しているのだからリオに向けて厳しい船出を迎えたといっても過言ではない。

 グレコローマンの西口茂樹強化委員長は、アジア予選で取った2枠から増やせなかったことは仕方ないと肩を落とした。
「勝ちにいったけど、力足らずでした。予選は予想通り厳しい闘い(の連続)だった。最初から分かっていて少しでも頑張ろうとやってきましたが、これが現実ですね。授業を欠席できない学生選手のため、人数の多い日本体育大で全日本合宿を行なったり、メンタルトレーニングの先生に来てもらったりやれることはやったつもりだけど足りなかった」

1/2ページ

著者プロフィール

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント