ヤンキースはどこへ行く? 名門チームが描く復権への青写真
完全再建モードに切り替えられない事情
オフの補強で目立つのはスターリング・カストロをトレードで獲得した程度 【Getty Images】
思えば1年前のオフ、現在25歳のディディ・グレゴリアス遊撃手、ネーサン・エオバルディ投手を獲得して未来への布石はスタートした。今オフにはカストロ以外に、まだ伸びしろのある26歳のアーロン・ヒックス外野手も獲得。それと同時に、21歳のセベリノ、23歳のグレグ・バード一塁手、アーロン・ジャッジ外野手といった生え抜きプロスペクトを大事にキープしている。
「一時的に負けが込んでも、数年がかりで身体能力に秀でた選手を育てていくチーム作りの成功例は多い。薬物検査の徹底化などでベテランの活躍が難しくなった現代には、そのやり方が適しているのだろう。少し遅かったが、ヤンキースもその方向に進んでいるのは理解できるところではある」
ニューヨークのある地元記者は、筆者にそう話してくれた。ここで示唆された通り、ヤンキースの場合、確かに取り掛かりが遅かった感はある。
13年オフ、田中の獲得はともかく、ジャコビー・エルズベリー、ブライアン・マッキャン、カルロス・ベルトランも含めた4人に4億5800万ドル(約550億円)を費やしたのは少々やりすぎだった。13年にはロビンソン・カノー、14年にはデービッド・ロバートソンをシーズン中に放出すれば、将来が楽しみなプロスペクトを獲得することもできたのだろう。ただ……完全な再建をファンも許容してくれる他チームと違い、ここにヤンキースの難しさがある。
将来を見据えつつも、表向きは常に必勝を誓わなければいけない。依然として給料総額ではメジャー2位の名門には、主力をすべて一気に売り払うような抜本的な政策は許されない。
“二兎”を追うプランは成功するか?
キャッシュマンGMの言葉通り、来季も少なくともプレーオフが争える戦力を保ちつつ、徐々に新時代への移行を目論むに違いない。
しかし、現実的に、16年のチームは世界一が狙えるロースターに見えない。スター不足も変わらず、フロントもそれには気づいているはずである。そんな今は、チーム、ファンにとっても我慢のしどころだ。
カストロ、グレゴリアスといったアスリート系選手を登用し、セベリノ、バード、ジャッジらを向こう2年間は大事に育てる。この間も上位進出できるに越したことはないが、目先の勝利を狙ってのベテランとの長期契約、若手を使ってのトレードは極力避ける。マーク・テシェイラ、ベルトラン、A・ロッド、CC・サバシアといった35歳以上の選手たちとの契約は、すべて2年以内に切れる。
そして、自前の若手が育ち、ついにペイロールにも空きができる17−18年のオフが勝負。全盛期を迎えるブライス・ハーパー(ナショナルズ)、マット・ハービー(メッツ)、大谷翔平(北海道日本ハム)のような若き大物をここで獲得できれば……。動きが鈍かった今オフの背後には、そんな未来予想図が描かれているのではないだろうか。
もちろんすべてが想定通りに進むはずがない。今後に紆余曲折を経る中で、基本的にせっかちなニューヨーカーはどう反応するのか。一足先に若手投手中心のロースターを構成したメッツ、プライスを獲得して勝負に出たレッドソックスといったライバルチームが勝ち続けた場合でも、じっくりと我慢できるか。
少なくとも向こう数年間のヤンキースにとって、“世界一以外はすべて失敗”というスローガンは当てはまらない。“現在”“未来”の二兎を追い続けるという難しいやり方で、球界の盟主への帰還を目論む。
復権プランがどう運び、どう変化していくかに注目だ。名門が数年がかりで描く青写真の行方から、今後しばらくは目が離せそうもない。