Jリーグが取り入れた軍事技術 革命の鍵、トラッキングシステムとは!?

清水英斗

興味深い“データ”

トラッキングシステム導入に尽力したJリーグメディアプロモーションの前田氏(右)とデータスタジアムの斉藤氏(左) 【スポーツナビ】

 はて。これをどう受け取ればいいのだろうか。筆者を悩ませる「データ」が目の前にある。

 今季の明治安田J1第6節までの54試合において、走行距離が多い方のチームが勝利したケースは20試合。少ない方のチームが勝利したケースも、同じく20試合。残り14試合は引き分けだ。

 一般的には運動量が多い=良いと考えられるが、ここまでのJリーグでは肝心の試合結果との相関が見られない。

 では、スプリント回数はどうか?(編注:Jリーグにおけるスプリントの定義は、時速24キロメートル以上の走り。50メートル走に換算すると7.5秒より速いペース。世界の多くの国では、この定義を使用する)

 実はこのスプリント回数も、多い方と少ない方、共に勝利は20試合ずつ。フィフティ・フィフティだ。やはり相関が見られない。もしかすると、サッカーにおいて“走りが勝敗を分ける”という考え方は、幻想なのだろうか?

 ところが、今シーズン(※4月5日時点)のブンデスリーガを参考にすると、こちらは違う傾向が表れている。走行距離が多い方のチームが42.8%の試合に勝ち、逆に少ない方は29.6%しか勝っていない。また、スプリント回数では、多い方が38.7%の試合に勝利、少ない方は33.7%となっている。ブンデスリーガでは、特に走行距離の多さが、試合の結果に影響を及ぼしているように見える。

 この違いを、どう解釈すればいいのだろうか?

 Jクラブは、運動量の多さを結果に結びつけるのが下手なのだろうか? だとするなら、戦術的なところに問題がある。

 あるいは、単純にJリーグでは、強化予算の多い強豪クラブが“省エネ式のサッカー”を志向する傾向があり、逆に下位クラブが戦力差を埋めるために運動量を増やす、という構図があるのかもしれない。

 データは興味深い視点を与えてくれるが、いずれにせよ、第6節の段階ではサンプルとなる試合数が少ない。結論は先へ送り、シーズン終了後にもう一度、この結果を見比べたい。

ミサイル自動追尾の原理で計測

メインスタンドに設置された2台の特殊カメラで、選手やボールを撮影し、データ集計を行っている 【写真提供:データスタジアム】

 2015年シーズンから導入された、「Jリーグトラッキングシステム」。前述した走行距離やスプリント回数に関わるデータは、そこで計測された数字を元にしたものだ。

 このシステムは、軍事技術のミサイル自動追尾システムを応用したもので、メインスタンドに設置された2台のカメラが、選手やボールをトラッキング(追尾)し、1秒ごとに25フレームの細かさで、ピッチ上のそれぞれの座標を取得する。そして、この座標を元に、走行距離やスプリント回数といったデータが計算される仕組みになっている。

 データは明治安田J1全試合、さらに毎節1試合については「LIVEトラッキング」(アニメーションおよびインターネットラジオ速報、各種データで試合の状況をリアルタイムに伝えるサービス)というコンテンツでJリーグの公式サイト(Jリーグ.jp)で誰でも閲覧可能だ。

 株式会社Jリーグメディアプロモーションの前田章門氏は、このシステムを導入した背景を次のように語る。

「このようなデータは欧州を中心に一般的になっていますが、いちばん有名になったのは、10年の南アフリカワールドカップぐらいですね。実際にシステムが使われ、選手の走行距離などがメディアに多く出ました。その頃から『Jリーグにも導入できないか?』という話があり、テストをして、今シーズンから明治安田J1全試合を対象に導入することになりました」

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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