サポーターに聞く「J3ならではの魅力」 J2・J3漫遊記 J3リーグ特別編

宇都宮徹壱

「J未満のリーグ」から脱却するために

今回の座談会に参加してくれた、長野サポーターの古川さん(左)、相模原サポーターの東山さん(右)、ロック総統 【宇都宮徹壱】

「宇都宮さん、J3ならではの魅力って何ですかね?」

 去年、NHKのスポーツ番組に出演する際、担当ディレクターからぶしつけにこのような質問を受け、しばし言葉に詰まってしまった。番組では、その年から開幕するJ3を取り上げることになっていたのだが、まだ始まっていないリーグの魅力について語るのは、非常に難しい──というより無理である。ゆえにその時は「始まってみたら、見えてくると思いますよ」という言葉にとどめておくしかなかった。

 J3が設立されたことで、JFLからスライドしたクラブが軒並み入場者数を増やしたのは紛れも無い事実である。最も集客が伸びたのが、ツエーゲン金沢の66.6%増(2064→3440人)。次いで、SC相模原の62.8%増(1924→3133人)、AC長野パルセイロの53.6%増(2340→3595人)と続く。やはり「Jクラブとなった」ことの波及効果はそれなりにあったと見てよいだろう。とはいえ、昨シーズンのJ3の平均入場者数は2247人。J2平均(6533人)のおよそ3分の1でしかない。

 やはり「J3ならではの魅力」というものをリーグが打ち出していかない限り、「J未満のリーグ」というイメージから脱却するのは難しいのではないか。ならば「J3ならではの魅力」というものを、当事者であるサポーターから引き出すことはできないだろうか。そこで南長野の新スタジアムでの取材に訪れた際、こけら落としのゲームで対戦した長野と相模原、それぞれのサポーターに座談会の企画を打診したところ、いずれもご快諾をいただくことができた。

 今回ご登場いただくのは、長野からは『HINCHADA NAGANO(インチャーダ・ナガノ)』代表の古川康平さん、そして相模原からは『GATE(ゲート)12』代表の東山修司さん。このお二人に加えて、飛び入りゲストとしてロック総統をお迎えすることとなった。ホンダロックSCの熱狂的なサポーターであり、奇抜なコスチュームとユニークなパフォーマンスでJFLの他サポからもカルト的な人気を誇っているロック総統には、JFL目線からJ3について語っていただいた。

J3になっても実はあまり変わっていない?

相模原の観客数増加に貢献した高原。デビュー戦では昨シーズン初めて3000人を超えた 【宇都宮徹壱】

──今日はよろしくお願いします。昨シーズン、長野と相模原はJFLからJ3にカテゴリーが移行しましたが、JFLとの一番の違いというのはどのあたりに感じたでしょうか?

古川 実はそんなに変わってないんじゃないですかね。よく「メディアの露出が上がった」みたいな話が出るけれど、長野に関してはJFLの段階から地元ではよくニュースになっていたし。ただ、パルセイロの話題は増えたかな。僕の会社でも、それまでサッカーを観たことのない人たちが関心を示すようになったけれど、新スタジアムの影響も大きいと思います。

東山 ウチの場合は、高原(直泰)が入ったことで状況が一変しましたね。メディアの露出も明らかに増えたし、それこそ「高原以前/以後」という言葉があるくらいクラブの意識も変わりました。相模原は長野のように、ローカルのテレビ局もなければ新聞もない。だから自分たちで情報を発信していくしかないんです。ですので、去年くらいからSNSやユーチューブなんかを駆使して、試合の告知をするようになりましたね。ですからウチの場合は「J3になったから」というより「高原が来てから」変わったと言えると思います。

──総統はJFLファンの立場から、J3をどう見ていますか?

総統 去年のJFLとJ3を比べて一番感じたのは「お客さんの数が違うなあ」ってことですね。今日の試合だって、南長野がこんなことになっていて、まさに浦島太郎状態ですよ。「ああ、やっぱりこれがプロリーグなんだなあ」というのはすごく思いましたね。

──集客の話題が出ましたが、長野と相模原はいずれもJ3になって観客数が5割から6割ほど伸びました。長野は昇格争い、相模原は高原効果がそれぞれ影響していると思うのですが、いかがでしょうか?

古川 昇格争いの影響は確かにありましたが、それだけではないと思います。ゴールデンウイークに長野市営(陸上競技場)でやった時(第10節、対Jリーグ・アンダー22選抜戦)は、市のサッカー協会からも動員をかけてもらって8000人以上が入りました。そこからはリピーターが増えて尻上がりに観客も増えていきましたね。ご存知のように、昨年はスタジアムの改修で佐久(総合運動公園陸上競技場)での試合が多かったんですけど、佐久にもファンができたし、そこから交流が始まったのも良かったと思います。

──佐久は長野市から車で1時間はかかりますからね。それでも1試合平均3595人というのは、なかなかの数字だと思います。一方の相模原は、高原が初登場となった第5節(対ブラウブリッツ秋田戦)で初めて3000人の大台に乗りました。

東山 そうです。そのあと、引き分け2つを挟んで6試合未勝利という苦しい時期もあったのですが、お客さんの数も2000人台に踏みとどまって、わりと根付いてきている感じはありましたね。ホームにFC町田ゼルビアを迎えたときは5000人を越えましたし(5630人)、福島ユナイテッド戦では、名波(浩)さんや前園(真聖)さん、ミスチルの桜井(和寿)さんなんかを呼んで相模原ドリームマッチという前座試合をやったんですが、その時がホーム最高の観客数(7860人)を記録しました。ですから去年の観客数に関しては、高原だけではないプラスアルファもあったと思っています。

総統 そういう前座試合も含めて、初めてスタジアムに来たお客さんに何を持って帰ってもらうかというのは、もっと考えるべきですよね。たとえばJ3だったら、選手とサポーターとの距離がもっと近くていいと思う。ここのスタジアムだって、これだけピッチが近いのに「プロリーグだから」という理由で変な距離を作るのって、もったいないと思うんですよ。

東山 選手とのふれあいということでいうと、ウチでは試合後にメインスタンドの入り口付近を解放して選手とハイタッチができるんです。たぶんそれって、どこのJクラブもやっていないんじゃないですかね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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