完全にバルサを上回ったレアル・マドリー フットボール界の勢力図に現れた変化

深刻なまでに色あせるバルセロナ

今回のエル・クラシコは、レアル・マドリーが特別な時を迎えていることを改めて証明する試合となった 【写真:ロイター/アフロ】

 レアル・マドリーにとって今回のエル・クラシコでの勝利(3−1)は、勝ち点3を遥かに超える価値のあるものだった。この勝利は近年バルセロナの後塵を拝してきた“ロス・ブランコス”(レアル・マドリーの愛称)が特別な時を迎えていることをあらためて証明するものだ。これまで個々のテクニックとチーム戦術では敵わないという意識が常にあったが、ようやく今回は宿敵バルセロナをはっきり上回ったという手応えを得ることができた。それだけでなく、今季の成功を期待させるだけのプレー内容の変化を見る者に印象づけることもできた。

 本コラムではこれまで何度も指摘してきたことだが、ルイス・エンリケ率いる現在のバルセロナはティト・ビラノバの指揮下にあった1年半前とは大きく異なる、ヘラルド・マルティーノ前監督時代の延長線上にあるチームだ。しかもアストゥリアス出身の新監督は前任者のアルゼンチン人よりはるかに充実した戦力補強を実現できたにもかかわらず、今のところその利益を生かすことができていない。

 すでにバルセロナは深刻なまでに色あせ、光をほとんど放てなくなってしまったにもかかわらず、今も鮮やかな色彩の光を放っていると信じたがる人々の目を欺いてきた。“未知の存在”だったマルティーノの後釜としてエンリケの新監督就任を望んできたこれらの人々は、過去数年と同じくサンティアゴ・ベルナベウでの大一番では全盛期のプレーが復活するに違いないと信じてやまなかった。なにせ今回のクラシコはリオネル・メッシにとってリーガ・エスパニョーラ史に残る歴代最多得点記録の更新が懸かった一戦であり、またルイス・スアレスにとっては待ちに待った公式戦デビューだったのだ。

 だがチャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグ突破が懸かったパリ・サンジェルマン戦と同じく、この日のバルセロナも時折見せるショートパスをつないでのゲームコントロールで過去の面影を見せはしたものの、もはや強かった頃のプレーを取り戻すことは不可能だった。

 チームは以前あったプレーの安定感がなくなり、選手たちは自分たちのプレーに対する揺るぎなき自信を失ってしまった。司令塔のシャビは90分間戦える状態にはなく、メッシも時折輝きを発するものの全盛期の彼とはほど遠く、アンドレス・イニエスタも本来のレベルにはない。スアレスをこれだけ困難な試合でデビューさせる賭けも、結果的には時期尚早の印象だけが残った。

正しい方向に進んでいるレアル・マドリー

試合前の選手入場時にビッグフラッグでデシマをアピールしたレアル・マドリーのサポーター 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 レアル・マドリーはバルセロナとは正反対の状態にある。昨季に実現した悲願のデシマ(CL10冠目)獲得は、2013年夏から指揮を執るカルロ・アンチェロッティの下でチームが正しい方向に進んでいることをあらためて強調するものだった。

 ジョゼ・モウリーニョがクラブを去って以降、スターぞろいのロッカールームは再び友好的で対立や口撃がほとんどない平静さを取り戻した。ピッチ上ではライバルのミスにつけ込むカウンタースタイルから脱却し、よりボールポゼッションを通した綿密なゲームコントロールを重視するようになった。フィジカルと機動力を武器とするMFがチームを去り、より柔軟性のあるトニ・クロースやハメス・ロドリゲスが先発に名を連ねるようになったのもそのためだ。

 そして基本的なことだが、より頻繁に、より多くのチームメートのフォローを受けるという不可欠な環境の変化により、クリスティアーノ・ロナウドはかつてないペースでゴールを積み重ねている。

 リーガ・エスパニョーラの9節終了時点で33ゴールを量産している現在のレアル・マドリーは、ネイマールに開始早々の先制弾を決められた後もまったく動じることがなかった。とりわけアンフィールドにてリバプールに快勝したCLの大一番の直後だったこともあり、彼らは失点後も自分たちの可能性を信じて戦い、すぐに同点に追いつくことができた。その後の猛攻はバルセロナにとって抑えきれないもので、アンチェロッティが逃げ切り態勢に入るまでにはゴールラッシュに至ってもおかしくない時間帯が何度もあった。

違いは試合結果のみならず

レアル・マドリーは3−1という結果だけでなく、プレー、システム、ポテンシャル、チーム力といったすべての要素でバルセロナを完全に上回っていた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 一方、バルセロナにとって今回のクラシコは、チーム再建の必要性を印象づける敗戦となった。まだ前半はボール支配を通したゲームコントロールによって強かった頃のプレーを彷彿とさせる時間帯もあったが、それ以上に繰り返し露呈された懸念材料の方が目立った。ダニエウ・アウベスはもはや右ウイングに伴ってゴールライン際まで攻め上がることがなくなり、以前は選択肢になかったアーリークロスをターゲットマン不在のゴール前に放り込んでばかりいる。

 スアレスは両ウイングの間に位置する9番としてプレーするのか、ネイマールとピッチを分かつ2トップの一角を務めるのか、今後その役割を明確にしていく必要があるだろう。またイニエスタとメッシは全盛期の彼らとはほど遠い状態にあり、それがチーム全体の機動力や攻守の切り替えスピードの低下をもたらしている。そうでなくともチームは、強かった頃のダイナミズムを失って久しいというのに。

 全盛期の主力メンバーがいまだ多数残っているとはいえ、バルセロナのサイクルは確実に終わりに近づいている。そのため今後は選手の入れ替えだけでなく、既存のメンバーに適したシステムや戦術的バリエーションを見いだしていく必要がある。そして、それはクラブのアイデンティティーであるプレースタイルを踏襲しながらも、チームがトップレベルでの競争力を保ち続けるために必要な新たなアイデアを盛り込んだものでなければならない。

 世界最高の資金力はそのままに、今日のレアル・マドリーはクラブの歴史と伝統に即したフットボール哲学、そしてその価値観を正確にプレーに反映できる人材を手にしたことで、とうとうバルセロナをプレー、システム、ポテンシャル、チーム力といった要素で上回るに至った。

 フットボール界の勢力図に重要な変化をもたらすきっかけとなったのは、今回のクラシコで手にした3−1の勝利だけでなく、宿敵を上回ったそれらすべての要素なのである。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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