大宮が手に入れた家長というエースカード チームに求められる手札のバリエーション

平野貴也

歩みを比較される本田圭佑の存在

チームとしての課題は家長の負担が大きすぎること。家長がもっと前でプレーできれば、攻撃はさらにすごみを増す 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 家長は、ガンバ大阪ジュニアユース時代にチームメートだった本田圭佑(ミラン)と、その歩みを比較されることが多い。家長はユースに昇格し、高校生でプロ契約。その後は順調に日本代表入りも果たした。一方で本田はユースに昇格できなかったが、星稜高校(石川)、名古屋グランパスを経てオランダを皮切りにロシア、イタリアと欧州でもまれ、日本代表の主軸となっている。遅咲きの本田が天才とうたわれた家長を追い抜いたというような対比をされがちだ。ただ、確かに家長は本田ほどのステップアップを果たせてはいないが、輝きを失った印象は、まるでない。むしろ、今もきっかけさえあればという雰囲気に包まれている。

 家長が、そのきっかけを大宮でつかめるかどうかは、チームの浮沈と切り離せない。まばゆい限りのエースを手に入れた大宮だが、守勢に回ると自陣ゴール前に釘付けにされ、なかなか攻撃に転じられない状況を改善できずにいる。高い位置でボールを奪って人数をかけた攻撃ができるときは、家長と同じ攻撃的MFの渡邉大剛とのコンビネーションがチームの武器。元々ドリブルを得意とする両者は感覚が合うようで、近い距離でプレーすると連係からチャンスが生まれる。J1第4節(3月23日)のベガルタ仙台戦、ズラタン、ラドンチッチの両外国人FWが相手をひきつけ、その背後に家長が飛び出して渡邉からのふわりと浮いたパスをピタリと止めてシュートを流し込んだ場面は象徴的だった。

チーム浮沈の鍵は“脱・家長頼み”

 ただし、先述のとおり、チームは押し込まれた状況から意図的にシュートチャンスを作れる状況ではないため、そうした場面は数少ない。現状は、家長自身がドリブルによって攻撃の時間ときっかけを作り、なおかつフィニッシュに絡まなければならないというスクランブルに陥っている。「しんどいとは思わない。やりがいを感じる。もっと自分の特長を出せると思うし、ラストパスやゴールを自分に課していかないといけない。僕らの課題は攻撃でチャンスやシュート数が少ないこと。みんなで取り組まないといけない」と話す家長がチームの中心として長い距離を走ったり、守備に奔走したりしながらも自分の特長を出せるようになるという成長も期待されるが、チームとしての改善も必要だ。

 個人の負担が大きい状況のままでは、相手から徹底的にマークされる可能性もある。大熊清監督は「攻撃が全部、家長が良いかどうかになってしまっている。J1第5節(3月29日)の柏レイソル戦の前半、家長が(マークされたままで)出てこないと何もできなかった。後半、相手が疲れてきて家長が出てきたら、起点が多くなった。そこをボランチが時間を作ったり、チームを操ったりしてくれると変わるかなと思っている」と問題点を認める。

 チームメートも攻撃での家長頼みを解消したいと考えている。中盤のアンカーを務めている片岡洋介は「本当なら、アキが下がって来てボールを受けるシーンはもっと少なくしたい。その(攻撃の起点を作る)役目をダブルボランチでできれば、アキをもっと前でプレーさせられて、FWも生きる」と心境を明かした。スペインのマジョルカ、韓国の蔚山現代と海外でプレーした経験を持つ家長は、加入時に「外国人選手は自分から積極的に仕掛ける印象が強いし、自分に足りないところでもある。チームから求められるプレーが優先だけど、自分で仕掛けたいという気持ちはある」と話していた。より前方で、家長自身が望む「仕掛けるプレー」が増えれば、真骨頂が見られるはずだ。

 大宮が手に入れた家長というエースカードがさらに輝く、あるいは輝き続けるためには、ほかの手札との組み合わせを増やしていく必要がある。ポーカーに例えるなら、今はまだ家長と渡邉でワンペアといったところだろう。ほかの手札との連係は、まだ役を作るにいたっていない状況だ。今後、ツーペアなりスリーカードなりとチームの「手役」を上げていかなくてはならない。

 大宮は、3月に韓国の蔚山現代からMF増田誓志を獲得した。ボランチはポジション争いが激化する見込みで、起用方法や役割分担に新たな組み合わせも生まれそうだ。エースの41番がさらに輝くかどうかは、オレンジのポーカーがどんな手役をそろえるかにかかっている。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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