MLB最年長右腕バートロ・コローン “ビッグ・セクシー”と愛される理由

杉浦大介

MLB最年長の43歳ながら、メッツで先発ローテーションを守るコロン 【Getty Images】

“ビッグ・セクシー”。そんな野球選手らしからぬニックネームを聞けば、大柄な男前のプレーヤーを想像するかもしれない。

 しかし、この愛称の持ち主は、文字通りコロコロの体型、年輪を感じさせるいかつい顔の大ベテランピッチャー。43歳の球界最年長投手、バートロ・コローンのプレーをしばらく見ていると、実際にセクシーに思えてくるから不思議なものである。

「僕がフィールドで楽しんでいる姿を見て、ファンも同じように楽しんでくれるのは分かっている。打席でスイングしたら、ヘルメットが外れたりとか、喜んでもらえるのは良いものさ。だからいろいろ考えているんだ」

 サンディエゴで開催されたオールスター期間中、メッツから選出されたコローンは悪戯っぽい笑顔を浮かべてそう語っていた。

誰もが表情を緩ませる存在

 これまで8チームを渡り歩いてきたドミニカ共和国出身の老雄は、メジャーでの19年間で通算226勝(159敗)。今季も前半戦で7勝4敗、防御率3.28と活躍し、自己4度目となるオールスターに返り咲いた。防御率、投球回数ではナ・リーグのトップ25以内。日本ではイチローと同じ1973年生まれということで注目されているが、今季も好調な打撃を続けるイチロー同様、コローンの息の長さも驚嘆に値する。

「バートロが43歳にしてここにいることに驚いてはいないよ。練習熱心で、投げるのが大好き。笑顔を浮かべてスタジアムに現れ、常に準備ができている。最高の男だ。42歳のイチローもコローンと同じように体を気遣っている選手だね。2人ともベースボールをリスペクトし、愛していて、ハードワーカーでもある」

 アスレチックス時代にコローンのチームメートだったスティーブン・ボート捕手は、二人の球界最高齢選手をそう評してくれた。

 コローンの話をするとき、どんな選手でも表情を緩ませるのも特徴の1つだ。身長180センチ、体重129キロという太っちょの身体でフィールドを悠々と歩き、笑顔を浮かべて楽しそうにプレーする。本人の言葉通り、打席ではヘルメットを跳ね飛ばしながらスイングする姿は実にユーモラス。そうかと思えば、5月7日(現地時間)のパドレス戦でまさかのホームランを放ち、42歳11カ月という史上最年長でメジャー初本塁打を記録した選手になった。その瞬間、ソーシャルメディアがコローン一色になったのは記憶に新しい。

 現在のメジャーリーグにおいて、コローンは球界全体のマスコット的な存在。ホーム、アウェーと問わず、ファンから絶えず歓声を浴びる大変な人気者なのである。

過去には禁止薬物で出場停止も

 もっともコローンのこれまでのキャリアを振り返ると、晩年にここまで愛されるようになったことは少々意外に思えてくる。

 エンゼルス時代の2005年には自己最多の21勝(8敗)を挙げてサイ・ヤング賞を獲得したが、06〜11年の6年間はケガと不振で10勝未満。12年には10勝を挙げるも、シーズン中にテストステロンの陽性反応で50試合の出場停止処分を受けた。その翌年には禁止薬物の購入が発覚するなど、この時点でのイメージはとても良いとは言えなかった。

 その流れをたどれば、すでに“終わった投手”が薬の力に頼った典型的な例に思えてくる。にも関わらず、その後に評価を回復し、莫大な人気まで集めるようになった理由はどこにあるのか。

「今の僕はもう周囲に何を言われてもまったく気にならない。ただ毎日をさまざまな形で楽しんでいる。自分にとって最後の日がいつ訪れるかはわからないからね」

 現在は大都市のニューヨークでプレーするコローンだが、そんなコメント通り、周囲の騒ぎはどこ吹く風。ヤンキースのアレックス・ロドリゲスのように、過去の失敗に延々と言い訳することもない。これほど潔く、ユーモラスな選手に対し、いつまでも悪いイメージを持ち続けるのは誰にとっても難しいのかもしれない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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