ヤンキースはどこへ行く? 名門チームが描く復権への青写真

杉浦大介

2015年のヤンキースは田中将大が先発するもワイルドカードゲームで敗退した 【Getty Images】

“世界一以外はすべて失敗”――。
 そんなキャッチコピーがヤンキースのポリシーとして語られていたのが、もう遠い昔のことのように思える。

 2015は、12年以来のポストシーズンに進んだものの、ワイルドカードゲームでアストロズに完敗を喫した。つまり、ここ3年でプレーオフでの勝利はゼロ。今のヤンキースは“元王者”どころか、“優勝争いの常連”とすら呼べないチームになってしまった感がある。

「シーズンが進むにつれて調子を落としてしまった。けが人が出たのは確かだが、能力通りにプレーできなかった選手がいた」

 アストロズ戦後にブライアン・キャッシュマンGMが語っていた通り、ジリ貧をたどった昨季の印象もさえなかった。

 意外な復活を遂げたアレックス・ロドリゲスを除き、客を呼べるビッグスターもほとんどいない。そんな状態ゆえに、観客動員は下降傾向。タイミング悪いことに、同市内のメッツが昨季にワールドシリーズ進出を果たしてしまった。

 今年、『YES』局で中継されたヤンキース戦は1試合平均25万9223人の視聴者を集め、『SNY』で放送されたメッツ戦(同24万2434人)の視聴率を依然として上回っている。しかし、7月下旬に快進撃を始めて以降、メッツの平均視聴者数は30万4706人に跳ね上がったという。実力、注目度の両面で、ヤンキースの尻に火がつき始めていることは間違いない。

 そんな状況下で、今冬には大補強を展開するとの予測もあった。近年のヤンキースはかつてほど派手な札束攻勢を仕掛けなくなったが、今オフにはデービッド・プライス、ザック・グリンキーといったメジャーを代表するエースたちがマーケットに出ていた。

 彼らのいずれかを獲得し、田中将大、有望株のルイス・セベリノが2、3番手として続くようであれば、相手に警戒を促すローテーションになる。昨シーズン中も大エース不在は顕著だっただけに、“元・悪の帝国”が散財するには適切な時期に思えたのだが……。

2016年の優勝は目指していない?

 しかし、ここまでのところ、補強策はカブスからトレードでスターリン・カストロ内野手を獲得したのが目立つ程度。オールスタ−出場3度を果たした25歳の才能は誰もが認めるものがあるが、ここ3年で2度、出塁率3割以下と確実性に欠ける。このカストロだけではインパクトのあるテコ入れとは言えまい。

 そうこうするうちに、プライス(レッドソックスと7年2億1700万ドル契約=約261億円)、グリンキー(ダイヤモンドバックスと6年2億600万ドル契約=約253億円)の行き先はすでに決まった。今後にヤンキースもFA、トレードで別の先発を手に入れる可能性はあるが、その投手は業界を騒がすような大物ではないだろう。

 さらに驚くべきことに、貴重な中継ぎ左腕として働いたジャスティン・ウィルソンを、2人の若手との交換でタイガースに放出した。15年のヤンキースにとって、アンドルー・ミラー、デリン・ベタンセス、ウィルソンというブルペンの“ビッグ3”こそが最大の武器だった。来季年俸150万ドル(約1.8億円)という安価のウィルソンをトレードすることで、中継ぎ3本柱を自ら崩してしまったのである。

「ヤンキースは16年に優勝を目指していない。そう言い切ってしまうのはビジネス面で理にかなわないから、もちろん公言しないだろう。ただ、誰かが言わなければならないなら、私が言おう。よく目を開けば、彼らが将来の方を見据えていることがはっきりと見えるはずだ」

 タカ派のコラムニストとして定評ある『ニューヨーク・ポスト』紙のジョエル・シャーマン記者は、さっそくそんな論説を展開した。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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