JFL昇格をめぐるドラマと勝者の条件 FC今治が決勝ラウンドから学ぶべきもの
決勝ラウンドにたどり着けなかった今治
2日目にして昇格を決めた青森と、昇格の望みを絶たれた福井。地域決勝ならではのコントラストだ 【宇都宮徹壱】
FC今治の岡田武史オーナーの言葉である。今治がたどり着くことができなかった全国地域リーグ決勝大会(以下、地域決勝)の決勝ラウンドは、高知県の春野総合運動公園陸上競技場にて11月21日から23日まで開催され、岡田オーナーは最終日の23日に視察に訪れていた。この決勝ラウンドに出場していたのは、ブリオベッカ浦安(Aグループ1位)、ラインメール青森(Bグループ1位)、サウルコス福井(Cグループ1位)、そしてFC刈谷(Bグループ2位=ワイルドカード)の4チーム。ただし大会2日目で、浦安と青森が2勝して早々にJFL昇格を決めてしまったため、岡田オーナーが観戦した両者の対戦はややテンションに欠けたものとなってしまった。昇格のためには「絶対に負けられない」2日目の2試合を視察していれば、もっとシリアスな感想が漏れていたことだろう。
第39回を迎える地域決勝は、全国9つの地域リーグ優勝チーム、そして全国社会人サッカー選手権大会(以下、全社)の上位3チーム、合計12チームによって争われた。3つのグループに分かれた1次ラウンド、そして決勝ラウンドは、いずれも3日で3試合という過酷なスケジュールで行われ、今年は上位2チームのみがJFL昇格の権利を得ることができる。JFL昇格を最大のミッションに掲げていた今治はCグループ2位に終わり、残念ながら来季も四国リーグで戦うことが決まった。
決勝ラウンドでは、優勝した青森と準優勝の浦安が来季のJFL昇格を決め、3位の福井はあと一歩で涙をのむこととなった。クラブの成り立ちも戦力も経験値も異なる3チーム。それでも、来季再びこの大会を目指す今治にとっては、決勝ラウンドにコマを進めたそれぞれのチームから学ぶべきものがあるはずだ。本稿では、この決勝ラウンドの総括という形を借りながら、JFL昇格を目指していた今治に足りなかったものは何だったのか、併せて考察することにしたい。
浦安の安定感を支えていた1対1の強さ
2位に終わったものの、チーム力が最も安定していた浦安(青)。特に1対1の強さが際立っていた 【宇都宮徹壱】
浦安が所属していた関東リーグは、東京23FC、VONDS市原FC、FC KOREAといった強豪がしのぎを削る厳しい環境にある。そんなリーグで2連覇を果たし、2度目の地域決勝出場となった浦安は、本来であれば優勝候補の筆頭に挙げられてしかるべきであった。ところが地域決勝の前哨戦とも言える全社で、彼らは九州リーグ4位の九州三菱自動車サッカー部に初戦で0−1で良いところなく敗れてしまった。このため大会前の浦安の評価は、決して高いものとはならなかった。
ところが地域決勝が始まると、全社から一転しての快進撃。私は彼らが「死んだふり」をしていたのではないかと訝った。5日間連続で行われる全社は、3連戦を2度行う地域決勝に向けたデモンストレーションの場であると同時に、JFL昇格を目指す強豪たちの格好のスカウティングの場でもある。もしかしたら浦安は、ライバルたちのスカウティング網から逃れるために、あえて全社を捨てたのではないか? そんな私の疑問に対して、チームを指揮する齋藤芳行監督は「ウチは全社でも優勝を目指していましたよ」と真っ向から反論した。
「1回戦で負けたのは、チームをまとめるべき主力選手が直前にけがをしてしまい、バタバタしてしまったのが原因です。とても悔しかったですが、すぐにスカウティング作業に切り替えました。全社では、連戦のシミュレーションができなかったわけですが、われわれはこの3シーズン、関東リーグの翌日にJクラブの二軍と練習試合を必ずやっていたんです。それと今季は、何人かのエース級の選手がやはりけがのため、後期リーグから合流したんです。その彼らがフィットし始めて、チーム状態がピークに達したのが、この地域決勝でした。もちろん狙ったわけではないですが、結果として良かったと思います」