5日間連続のトーナメントで得られたもの 第51回全国社会人選手権大会を総括する

宇都宮徹壱

「日本一過酷な大会」を制したのは和歌山

全社で見事優勝した和歌山。今年の地元での国体では初戦敗退だっただけに喜びもひとしお 【宇都宮徹壱】

「日本一過酷な大会」──これが全社(全国社会人サッカー選手権大会)という大会を言い表す、最も適切な表現であろう。全国に5000以上あるとされる、全国社会人サッカー連盟所属チームの頂点を決するこのトーナメント大会は、各地域の予選を勝ち抜いた32チームが5日間ぶっ通しで試合を行う、まさにサバイバルマッチである。

 今年は10月17日から21日まで岩手県で開催され、関西リーグ所属のアルテリーヴォ和歌山が初優勝を果たした。今大会を総括するにあたり、まずは21日に盛岡南公園球技場で行われた、阪南大クラブとの決勝戦の模様からお伝えすることにしよう。

 ともに関西リーグに所属する両チームの対戦は、お互い手の内を知り尽くしているだけに、がっぷり組み合う拮抗(きっこう)した展開が続いた。先制したのは和歌山。前半20分、高瀬龍舞が中央から左サイドへドリブルを仕掛け、折り返したところを白方淳也が右足ボレーでゴールに突き刺す。対する阪南大クは、前半こそ和歌山の手堅い守備にシュート1本に抑えられていたものの、後半に入ると少しずつ盛り返し、後半26分(=66分)には途中出場の和田凌が目の覚めるようなミドルシュートをたたき込んで試合を振り出しに戻した。全社のレギュレーションである前後半80分を終えて1−1。さらに10分ハーフの延長戦でも決着が付かず、優勝の行方はPK戦に委ねられることとなった。

「簡単な試合とは思っていませんでしたね。相手のほうが若いし、走れるのは分かっていました。今年、3度目の対戦だったので対策は立てやすかったんですけど、あのミドルシュート(での失点)は仕方ない。その前にウチが追加点を奪っておくべきでした。もっとも、地域決勝(全国地域リーグ決勝大会)に向けてPK戦は経験しておきたかったというのはあったので、その意味では(PK戦にもつれたのは)良かったですね」

 そう語るのは、和歌山の坂元要介監督。後述するように、この大会は単に社会人チームのナンバーワンを決めるのみならず、11月6日から始まる地域決勝に向けたさまざまな駆け引きの場でもある。結果として阪南大クは、4人目のキッカーが相手GKに止められたのに対し、和歌山は5人全員が成功。PK戦5−3で勝利した和歌山は、関西リーグ優勝に続いて全国大会でも初の栄冠を手にすることとなった。

あらためて悔やまれるFC今治の2回戦敗退

2回戦でFC今治を破り、ベスト4進出を果たした青森。青森県勢として初めて地域決勝に挑む 【宇都宮徹壱】

 この決勝に先立つ3位決定戦では、バンディオンセ加古川(関西)とラインメール青森(東北)が対戦しており、前半39分の鈴木玲央のゴールを守り切った加古川が3位の座を射止めた。JFLへの昇格が懸かる地域決勝には、各地域リーグで優勝した9チームのほかに、全社での上位3チームにも出場権が与えられる。ただし今大会においては、和歌山がすでに出場権を得ているため(いわゆる「権利持ち」)、ベスト4が出そろった大会3日目の時点で、阪南大ク、加古川、そして青森の地域決勝出場権(いわゆる「全社枠」)獲得が決まっていた。

 このうち4位となった青森については、先にレポートしたとおり2回戦でFC今治を破ったのち、準々決勝では三菱水島FC(中国)に延長戦の末に2−1で勝利。その後は準決勝で和歌山に1−2、そして3位決定戦でも加古川に敗れ、3位入賞はならなかった(余談ながら、最終日の表彰式における3位と4位とのコントラストは残酷なくらい明快だ)。それでも今季の東北リーグを2位で終えた青森にとり、今大会で5試合を経験できたことは、全社枠を獲得できたことと同じくらい重要な意味を持っていた。チームを指揮する葛野昌宏監督は語る。

「まあ3試合で良かったんですけどね(笑)。地域決勝も3試合(連続)だし。ウチの場合、3試合目の質や運動量といったものは(地域決勝に向けて)上げていかないといけない。それでも次に向けて、いい経験にはなったとは思います」

 一方、優勝した和歌山の坂元監督も、すでに「権利持ち」だったとはいえ、来るべき地域決勝に向けて多くのものを得ることができたと語っている。

「今大会はけがや仕事で、主力の8人が参加できなかったんです。それでも今いる選手たちは、これをチャンスと捉えて一生懸命やってくれたおかげで、今回の結果を出すことができました。(地域決勝では)今回のメンバーがベースになると思います。その上で、リーグ戦を戦ったメンバーが加わり、さらにチーム内にいい競争が生まれる。今回はギリギリのメンバーで戦いましたが、実は選手層が厚いことが分かったので、地域決勝ではどの選手をどう使っていくか、という話になっていくと思います」

 こうして考えると、つくづく今治が2回戦で大会を去ったことが悔やまれてならない。確かに四国リーグで優勝した「権利持ち」ゆえに、結果そのものは痛くも痒くもないのかもしれない。が、来月から始まる地域決勝での戦いを考えた時、彼らは非常に大きな機会損失していたのもまた事実である。

際立っていた関西勢の躍進

4年ぶりに地域決勝進出を果たした加古川。今大会は関西勢の躍進が際立っていた 【宇都宮徹壱】

 最後に今大会を総括するにあたり、トピックスを3つ挙げておく。

(1)「権利持ち」が大会序盤で総崩れ

 すでに各地域リーグで優勝している「権利持ち」。今大会は、全社予選で敗れている東北王者のFCガンジュ岩手を除く8チームが出場したが、その大半が大会序盤で敗れるという波乱が起こった。ブリオベッカ浦安(関東)、サウルコス福井(北信越)、松江シティFC(中国)、新日鐵住金大分(九州)が1回戦敗退。札幌蹴球団(北海道)、FC今治(四国)が2回戦敗退。福井と今治が初戦で潰しあったとはいえ、これほど「権利持ち」が総崩れになった大会というのは珍事と言ってよいのではないか。

(2)大会3日目で全社枠が決定

 上記の結果により、大会3日目が終了した時点で「権利持ち」が和歌山のみとなったため、ベスト4に進出した残り3チームに全社枠が与えられることとなった。地域リーグウォッチャーとしては、最終日の3位決定戦まで全社枠をめぐる戦いがもつれてほしいとも思ったが、その後の4試合はいずれも白熱した試合内容となったので満足している。

(3)関西勢の躍進と関東勢の不振

 1位から3位までを関西リーグ所属チームが占めた今大会。ファンの間では「KSL(関西サッカーリーグ)カップを見ているようだ」とのぼやきも聞かれた。実はベスト8の時点では、この3チームの他にアミティエSC京都も勝ち上がっており、関西代表5チームのうち実に4チームが準々決勝進出を果たしていたことになる。関西からは、昨シーズンに奈良クラブとFC大阪がJFL昇格を果たしており、今季はリーグの地盤沈下を懸念する声もあったが、むしろ力関係が拮抗した切磋琢磨(せっさたくま)できるリーグにシフトしているような印象を受ける。逆に前評判の高かった関東リーグ勢は、優勝したブリオベッカ浦安をはじめ軒並み1〜2回戦で敗退。唯一勝ち残った東京23FCも準々決勝で終戦となった。

 かくして、地域決勝に出場する12チームが出そろった。あらためてチーム名と所属リーグを列挙しておく。

札幌蹴球団(北海道)、FCガンジュ岩手(東北)、ブリオベッカ浦安(関東)、サウルコス福井(北信越)、FC刈谷(東海)、アルテリーヴォ和歌山(関西)、松江シティFC(中国)、FC今治(四国)、新日鐵住金大分(九州)、阪南大クラブ (全社枠/関西)、バンディオンセ加古川 (全社枠/関西)、ラインメール青森 (全社枠/東北)

 この12チームは、今月24日に行われる抽選会で3グループに振り分けられ、1次ラウンド(11月6日〜8日)と決勝ラウンド(11月21日〜23日)の結果、JFL昇格チームが決する。J1のポストシーズンやJ2のプレーオフ、さらにはJ2とJ3の入れ替え戦など、各カテゴリーでのイベントが盛りだくさんな晩秋の日本サッカー界。しかし、5部から4部を目指す戦いもまた、上のカテゴリーに負けないくらい、熱い。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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