「権利持ち」ゆえに足をすくわれた今治 想定外だった全社2回戦敗退で得た教訓
日本で最も過酷なトーナメント大会
全社の遠野会場に姿を現した岡田オーナー(中央)。表情には余裕が感じられる 【宇都宮徹壱】
全社という大会については、代表戦とバッティングした年を除いて定期的に取材に訪れている。今年に関しては、ずっと定点観測を続けているFC今治が出場権を獲得したので、彼らの戦いぶりを追いかける形で取材することを考えていた。ただし、初戦の17日はどうしても現地に行けなかったので、2回戦から現地に入るスケジュールを組んでいたら、今治の1回戦の相手に決まったのが北信越リーグの覇者であるサウルコス福井。「これは厳しいかな」と、いささかの不安を払しょくできずにいた。
案の定、今治は序盤の7分と9分に相次いで失点。しかしその後、前半38分に高田大樹、そして後半35分(=75分)に植村公亮のゴールが決まって同点とし、勝負の行方は延長戦に委ねられる(全社は40分ハーフで行われ、同点の場合は10分ハーフの延長戦、さらにPK戦が行われる)。結局、最後は延長後半のアディショナルタイムで長尾善公が決勝ゴールを挙げ、今治は2回戦進出を決めた。ツイッターでの速報を確認しつつ、「今治のいない全社取材」を何とか回避できたことに安堵(あんど)したのは言うまでもない。
かねてより指摘してきたことだが、全社とは5日間連続で行われる日本で最も過酷なトーナメント大会である。そして、その特異なレギュレーションゆえに、ひんぱんに番狂わせが起こる大会でもある。すでに17日の初戦では、ブリオベッカ浦安やVONDS市原FCといった、前評判の高かった関東勢4チーム(残りはFCコリアとヴェルフェたかはら那須)が総崩れとなり、2回戦進出を果たしているのは東京23FCと流通経済大学FCのみという状況である。そんな中、アイゴッソ高知(こちらも2回戦進出)とともに四国代表として出場している今治は、この全国レベルの大会でどこまで勝ち進むことができるだろうか。
あっけなく2回戦で敗れた今治
失点後、必死の反撃を見せる今治。しかしこの日はゴールは遠かった 【宇都宮徹壱】
もっとも、優勝した今治と2位の高知Uトラスターとは、実は勝ち点37で並んでおり(得失点差2で今治が上回る)、両者の立場が逆になる場合は十分にあり得た。もしそうなっていたら、今治は本気でこの全社に勝ちにいかなければならなかった。全社では、3位以上の成績チームに地域決勝の出場権が与えられる制度があり(一般的に「全社枠」と呼ばれる)、レギュラーシーズンで優勝できなかった上を目指すチームは、この「日本で最も過酷なトーナメント大会」を是が非でも勝ち抜く必要性がある。今治がこの日対戦する青森は、東北リーグ2位に終わっており、まさに「後がない」状況で今大会に臨んでいたのである。
いわゆる「権利持ち」の今治と「後がない」青森。その意識の差は、すぐに試合に現れた。今治は、相手の積極的なフォアチェックに戸惑い、守勢に回る時間帯が続く。もちろん持ち前のパスワークで、しっかりビルドアップするいつものスタイルは健在だった。しかし、やはり相手の素早く的確なプレッシングに苦しめられ、なかなか縦方向への決定的なパスが出てこない。前半は0−0で終了。客観的に見れば両者の力関係は互角だが、むしろ青森に勇気を与える試合内容だったと言えるだろう。
後半を迎えるにあたり、青森はワントップをアランからエフライン・リンタロウに交代。前線でのプレッシングを強め、ショートカウンターを徹底させる戦術をより明確にする。そのプランが奏功したのが、後半11分(51分)。青森はカウンターからFW西村光司がシュート。いったんはGK福山直弥が阻むも、最後はエフラインがしっかり詰めて、これが先制ゴールになる。初戦に続いて、またも失点スタートとなった今治。だが、この日の相手は守備も手堅く、素早いパス交換による崩しも、両サイドからのクロスやセットプレーも、いずれも決定的なチャンスに結びつかない。結局、0−1のままタイムアップのホイッスルが鳴り、今治は2回戦で今大会を終えることとなった。
今治の敗因は準備と覚悟の欠如
この敗戦で直接的に失ったものはない。だが、幾つかの不安材料は残った 【宇都宮徹壱】
「地域決勝が3日間で3試合。(全社は)トーナメントとはいえ、(連続で)3試合するいい機会と捉えていました。最低3試合を戦えれば、地域決勝での選手の疲労具合が見ることができるので、それを生かせればと思いました。昨日と今日とで選手を数名入れ替えたのも、明日のことを考えてのことでした。その意味でも残念です」
この大会を長く見ていると、今治の敗因は手に取るように分かる。それはすなわち、準備と覚悟の欠如である。今日の今治の戦い方には、相手のスカウティングが不足しているように感じられたし、青森のように「絶対に勝たねば」という覚悟のようなものも伝わってこなかった。正直なところ、今治と青森(さらに言えば四国リーグ1位と東北リーグ2位)の間に、さほどの実力差があったとは思わない。北信越1位の福井に逆転勝利したことについても、自信を持っていいだろう。ただ、こと全社という大会に関して言えば、やはり準備と覚悟が足りていなかったと言わざるを得ないだろう。
繰り返しになるが、この日の敗戦で今治が直接的に失ったものは何もない。ただし11月6日から始まる地域決勝を考えると、幾つかの不安材料を残したことは留意すべきである。木村監督が指摘する通り、3日間連続で戦うシミュレーションができなかったこと。他の地域リーグの強豪たちと手合わせすることができなかったこと。そして青森の戦い方が「今治対策」のヒントを提示したことも気になるところだ。全社という大会は、地域決勝を見据えたスカウティングと情報戦の場でもある。チームは岩手を去るが、今治のスタッフには引き続き、今大会からより多くの情報を収集・還元してほしいところだ。
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