JFL昇格をめぐるドラマと勝者の条件 FC今治が決勝ラウンドから学ぶべきもの

宇都宮徹壱

初出場の青森はなぜ優勝できたのか?

優勝した青森の葛野監督。地域決勝は「勢いや運が備わっていないと勝ち抜けない大会」と言い切る 【宇都宮徹壱】

 浦安のJFL昇格は、齋藤監督の説明を聞けば、ある程度は納得できるものであった。だが、そんな彼らとの直接対決を1−0で勝利し、優勝と昇格を果たしたラインメール青森の快挙は、正直なところ予想外であった。今季の青森は東北リーグを2位で終え、全社でベスト4になったことで地域決勝の出場権を獲得している(いわゆる「全社枠」)。ちなみに青森が全社2回戦で対戦したのが今治で、拮抗(きっこう)した試合を1−0で競り勝っている。もし、この試合で今治が勝利していたなら、青森がこの大会に出場することも、ましてやJFL昇格を果たすこともなかった。

 青森の躍進を予想しにくくした、もうひとつの理由として、彼らが「無印だった」ことを挙げておきたい。東北1部での優勝経験がなく、地域決勝出場も今回が初めて。確かに1次ラウンドでは、90分負けはなかった(1勝1PK勝ち1PK負け。地域決勝では同点の場合、延長戦なしのPK戦が行われ、勝者に勝ち点2が、敗者に1が与えられる)。しかし、やっているサッカーは攻守ともに荒削りで、チームの完成度という意味では浦安よりもかなり差があった。では、このチームの強みはいったい何だったのか? 葛野昌宏監督はこう語る。

「要するに今年は『負けていない』ということなんですよ。ある程度の状況で臨ませた試合では、天皇杯の水戸ホーリーホック戦(2−4)以外は負けていないです。全社の準決勝と3決はメンバーを変えて負けましたし、1次ラウンドでPK負けもありましたけれど、ちゃんと準備した試合では90分で1敗もしていない。もちろん、リーグ戦も無敗です。やはり全社の経験は大きかったですね。『負ければそれで今季は終わり』という試合を繰り返すことで、とにかく目の前の試合に勝つ。それを繰り返してきて、この場にたどり着いたというのが実感です」

 実は葛野監督自身も現役時代、北信越リーグ時代のアルビレックス新潟で地域決勝を経験している(97年)。そこで得た結論は「うまいチームが勝つわけじゃない。今までやってきたことをきちんと出せることも大切ですが、勢いや運が備わっていないと勝ち抜けない大会なんです」。今大会の青森を見ていると、まさに至言である。これで来季、JFLにおいてヴァンラーレ八戸との青森ダービーが実現するわけだが、青森市のサポート体制は大丈夫なのだろうか? この点については、葛野監督は実に楽観的であった。

「ウチはまず現場が上に行くことで(行政などの)周囲を巻き込んでいこうという考え方です。実は八戸の南部と青森の津軽は、(長野県の)松本と長野みたいなライバル関係があるんですね。今回、われわれが八戸と同じ土俵に上がることができたので、よりいっそう青森市も盛り上がると思いますし、われわれもさらに働き掛けをしていくつもりです」

経験値をアドバンテージにできなかった福井

大会を終えてサポーターにあいさつする福井の選手たち。佐野監督(中央)は「力不足」と総括した 【宇都宮徹壱】

 北信越リーグ王者のサウルコス福井が3位に終わったのは、個人的には非常に意外であり、かつ残念であった。1次ラウンドは3日目に今治にPK戦負け(2−2、PK6−7)を喫したものの、勝ち点7で堂々の1位突破。グループの中では、最も安定感のあるチームに思われた。ところが決勝ラウンドでは、浦安との初戦に0−2、青森との第2戦に0−1と連敗し、2日目にしてJFL昇格の夢を絶たれてしまう。GM兼任の佐野達監督は青森戦後、絞り出すような声で「力不足だね」と語った。

「もっと普通にできたらと思うけれど、それができないのも決勝ラウンドだと思うし。それがわれわれの力不足だと思います。やっぱりストライカーが絶対必要ですよね。ロングボールとかセットプレーで点を取れなかったら、やっぱり厳しい。それをやらせてくれないのが地域決勝ですよ。浦安さんみたいに、攻める人と守る人が確立しているチームは強い。ウチは今いる選手を鍛えて、団結力でここまでやってきたけれど、それで勝ち抜けるほどこの大会は甘くはないということですよね」

 北信越では無敵の存在となっている福井は、今回が4年連続の地域決勝出場であった。その道程は、文字通りのステップ・バイ・ステップ。12年は1次ラウンド最下位、13年は同2位、14年は初の決勝ラウンド進出を果たすも3戦全敗で4位に終わっている。満を持して臨んだ今大会は、決勝ラウンド3日目でFC刈谷に1−0で勝利して順位を1つ上げたものの、やはりJFL昇格は叶わなかった。青森のように最初のチャレンジで突破できるチームもあれば、福井のように4回のチャレンジでも突破できないチームもある。これこそが、地域決勝という大会の難しさと残酷さである。

 この決勝ラウンドで明暗を分けたチームは、これからJFL昇格を目指すチームに多くの教訓を残したように思える。浦安は、恒常的に連戦を経験させながら、なおかつチームのピーキングが成功したことで安定した戦いを続けることができた。青森は、目の前の戦いに勝利することを徹底させ、経験不足を勢いと運でカバーすることで周囲を驚かす結果を残した(1次ラウンドで5−1と大勝した刈谷に、決勝ラウンド初戦で対戦することができたのも、彼らが引き寄せた運である)。そして福井は、「地域決勝慣れ」していることが、必ずしもアドバンテージとならないことを今大会で露呈してしまった。

 この決勝ラウンドでは、岡田オーナー以外にも多くの今治のスタッフが視察に訪れていた。この大会からどんなことを学び、そして来季への糧としていくのか、引き続き注目していくことにしたい。いずれにせよ地域決勝は、ロジックだけで勝ち抜けるほど簡単な大会ではない。そのことを理解できたなら、今大会での失敗は決して無駄にはならないはずだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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