JPBLの理想と現実と未来 川淵チェアマン独占インタビュー<前編>

大島和人

JBAがFIBAからの制裁処分を受けてからわずか半年たらずで新リーグ法人の設立を果たした川淵チェアマン 【スポーツナビ】

 バスケットボールを取材する者として「よくここまで漕ぎつけた」と思う。JBA(日本バスケットボール協会)がFIBA(国際バスケットボール連盟)から資格停止処分を受け、国際試合が禁じられたのはまだ半年前のことである。男子のトップリーグは10年に渡って分裂し、5年前に始まった統合交渉はこう着していた。日本のバスケ界がどうなるのか、先行きは濃い霧に包まれていた。

 しかし昨年12月にFIBAのバウマン事務総長が来日し“タスクフォース”の結成と、2015年6月という“ゴール”の設定を明言。今年1月28日に『ジャパン2024タスクフォース』が始まると、事態は一気に動き始めた。

 川淵三郎チェアマンは1月のタスクフォース後に「会議のときに、煮詰まったものをいかに出していくかが勝負。そこでいろいろな話をしていては、スピード感がまったく足りない。こういう議論は堂々巡りをさせないところで、きちんとどう切るかが勝負」と述べている。その言葉通りに3月4日の第2回会議では早くも新リーグへの入会基準が提示され、3月末までにそれぞれのリーグに退会届を出すという“過去を断ち切る区切り”も用意された。

 インタビュー前編では協会改革、企業チームと社員選手の扱い、Jリーグとバスケ界の連携、そして新リーグのトップに内定している大河正明氏への期待について、チェアマンに語ってもらった。社員選手の扱いについては、新たな説明もあった。新リーグ入会の申し込みは、4月末の締め切りに向けて順調に進んでいるという。もちろん新リーグの発足は日本バスケの終わりでなく始まりで、さらなる改革と進化は必要だ。とはいえ日本のバスケットボール界が、先行きの見えない絶望的な状況に後戻りすることはもうないだろう。

「協会のガバナンスは本当にダメ」

――タスクフォースは今何合目くらいの段階ですか?

 国際試合の禁止処分が解除されるという意味? それとも改革の話?

――まず、制裁処分の解除については?

 解除はもうほとんど、「99.9999%」OKだよ。鹿島(アントラーズ)のとき(とは逆)のように、「0.0001%」でダメになる可能性もあるけれど、よほどのことがない限り大丈夫だね。(編注:茨城県が屋根付きの専用スタジアム新設を確約し、鹿島はサプライズでJリーグ参入を果たした)

――もう少し広い意味で、日本バスケの改革については?

 リーグの統一は90%以上大丈夫だけれど、協会のガバナンスは本当にダメ。いろいろなルールを決め直す必要がある。各連盟や都道府県協会との関係なども含めて考えると、それでもよく来たというところで6割くらいかな。

――具体的な問題は地方協会の法人化、収支の透明化でしょうか?

 そこのところだね。収支の透明性は(現状だと)まるでゼロだから。定款には、各連盟は協会に(収支を)報告しなければならないということが記載されているんだけど、協会はそういう部分をまるで管理していない。これは各種連盟が悪いのでなくて、そういうことをチェックしていない協会が悪かったということになる。

――しっかり話し合って理解してもらえることがもちろんベストですが、今後そういった連盟と衝突が起こる可能性もあるのでしょうか?

 今のところは川淵が来て、バスケットボール界が良くなるというようなことの理解をしていただいている。懲罰などは、僕としてなるべく避けたい。バスケットボール協会の発展を考えて十分に話し合えば、そんなことにはならないと思っている。

「企業チームは全部参加するね」

4月3日の一般社団法人JPBL設立記念セレモニーの時点では企業チームによる加盟申請がなかったが、川淵チェアマンは「企業チームは全部参加する」と明言した 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――企業チームも含めて、新リーグへの参加の意思表示はいかがですか?

 企業チームは全部参加するね。それも99%。一番のネックは分社化と、社員選手の扱いだね。例えば東芝(ブレイブサンダース神奈川/NBL)は全員が社員選手なので、その身分をプロに変えてくれるかという心配もあった。

 今(新リーグの)最低年俸を300万円にしようと言っている。それが適当な数字かどうか分からないけれど、各チームの財政状況を見て、300万円くらいならば了解するかなと思って、最初は私案としてそう言っただけなんだ。

 東芝なんかは、社員選手がプロになるのはやはり問題ありということだった。現役を引退したときに社員で働きたいからと言うから、「じゃあ今300万円もらってないの?」と聞いたんだ。そうしたら「普通の社員として、300万円以上もらってます」って言う。じゃあプロという名前だけ変えて、300万円以上をもらっていれば何も問題ないでしょうって。現役を終えたときに東芝の正規社員として仕事ができるという身分保障をすれば、全然問題ないでしょうということを僕は言ったんだよね。考え方を工夫すれば、どうということはない。

 そういうわけで、一番の問題は分社化。バスケットボールを主たる業務として、どんな採算ベースになるか、どんな収支のバランスシートを書けるかという、そういうモノがない限りは、プロとしての価値が分からない。地域に根差して、地域の人たちに理解してもらうためにも、そういう経理の透明性が必要だね。それもほとんど見通しがついたようで、4月の末くらいに、各企業は申し込むと思う。

――プロ野球でも埼玉西武ライオンズの選手が引退後にプリンスホテルで働いている、オリックス・バファローズの選手がオリックスに就職した例があります。

 そうだよね。言ってみたらセカンドキャリアだから。そういう保障をしてくれた方が、僕らとしてはすごくありがたい。現役が終わったら仕事の見通しがつかないということでは、選手も不安だろうと思う。むしろ望ましい方向性と言えるかもしれないね。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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