F1開幕戦でレッドブルを見返した角田裕毅 その凄さを徹底検証する
「あのクルマで予選5位」の衝撃
レーシングブルズの新車VCARB02は、開幕直前テストでは控えめな速さしか見せられなかった。角田の総合順位は20人中14位。中団グループを見渡すと、長年低迷状態だったウィリアムズにフェラーリから移籍したカルロス・サインツが総合トップだった。アルピーヌやハースも速さの片鱗を見せていた。戦いはいっそう熾烈になり、角田の入賞の可能性は去年以上に厳しくなると思われた。
ところが開幕戦の角田は、見違えるように絶好調だった。初日フリー走行をフェラーリのシャルル・ルクレール、マクラーレン2台に次ぐ4番手で終えると、翌日の予選でもQ1を7番手、Q2も8番手と勢いは衰えない。そしてQ3では直近のライバルのウィリアムズ、さらにフェラーリの2台さえしのぎ、5番手につけた。
3番手マックス・フェルスタッペンから10番手カルロス・サインツまでの7台が、コンマ6秒内にひしめく超接近戦。ほんのわずかなミスで、グリッド順位は一気に落ちてしまう。その典型が8番手に終わったルイス・ハミルトンで、もし3つの区間タイムを全て自己ベストでつないでいたら、順位は一気に3番手まで上がっていた。
一方で角田は、最後のアタックを全区間自己ベストで飾った。その結果、1回目のアタックで先行されていたアレックス・アルボンやルクレールをコンマ1秒以内の僅差で振り切り、ドライ路面では自己最高となる5番グリッドを獲得した(雨の予選では去年のブラジルで3番グリッドを獲得)。
ちなみに最後のアタックで全区間自己ベストを更新できたドライバーは、角田の他にはマクラーレンの二人だけ。言い換えれば角田は、ハミルトンやフェルスタッペンら世界チャンピオンもなしえなかった、マシン性能を100%出し切る走りをやってのけたと言える。
レースでもトップチームに一歩も引かなかった
角田はスタート直後にルクレールにかわされ6番手に後退したものの、その後は背後に迫るアルボン、ハミルトンを巧みに抑えながらノーミスで周回を重ねた。中盤以降はルクレールを追い詰め、2回目のセイフティカー明けに隙を突いて抜き返すことに成功。5番手に上がっていた。
レース後半の44周目、アルバートパークは再び激しい雨に見舞われた。ただしこの時点では、コース南のセクター3こそ路面はかなり濡れていたものの、北側を占めるセクター1、2はドライタイヤでもまだ十分に走行可能だった。そのためチームによって、レインタイヤへの切り替えの決断が分かれることになった。
ノリス、メルセデスの2台、アルボンらは、すぐにタイヤ交換に向かった。しかしノリスがピットインしたことで暫定首位に立ったフェルスタッペンは、迷っていた。「これ以上雨が降らなければ、ドライタイヤでも走り切れると思った」と、フェルスタッペンはレース後に語っている。「すぐに止むはずだったから、逆にレインに換えたら再びドライに履き直すことも考える必要があった」。
しかし雨はさらに激しくなり、名手フェルスタッペンでもマシンを制御できる限界を超えていた。46周目のピットインはノリスから2周遅れだったが、かろうじて2番手はキープできた。
この時点でドライタイヤで走り続けていたのは、フェラーリの2台と角田だけだった。ハミルトン、ルクレールは1-2を形成し、角田も4番手につけた。しかし彼ら3人はずぶ濡れのセクター3で、ノリスたちに6〜8秒もの遅れをとっていた。
ドライタイヤでの周回はもはや不可能と、3台は47周目にピットイン。フェルスタッペンのわずか1周後だったが、ハミルトン1位→9位、ルクレール2位→10位、角田4位→11位に後退と、決断を遅らせた代償はあまりにも大きかった。