さすがの大谷翔平でも緊張した第1打席…今永昇太との対決の裏側 開幕戦快勝も王者ドジャースが抱える不安要素

丹羽政善

2025年のMLBは「大谷対今永」の日本人対決で幕を開けた。歴史的瞬間となった1回の第1打席は… 【写真は共同】

 質問を始めても、いつもなら質問者と目を合わせる大谷翔平(ドジャース)が、ストーンフェイスで遠く見つめたまま。気になってその視線の先を辿ると、会見場の出入り口のところで、山本由伸(ドジャース)が、大谷の写真を撮りながら、ちゃめっ気たっぷりにピースをしていた。

 伏線――いや、伏線というほどではないが、前段がある。

 山本が会見に応じているとき、私服に着替えた大谷が、会見場に早々と姿を見せた。そのとき一番後ろで、「早く終われ。いつまで喋ってるんだ?」とばかりに、左腕を叩いたりしながら、山本を急かしていた。ただそれに動じない山本はむしろ、普段よりゆっくりと話し、通訳の方が焦り、途中、言葉に詰まった。

 大谷にプレッシャーを掛けられれば、萎縮するのは投手だけではない。

「打席では緊張しない方なんですけど…」

5回、大谷(写真左)は3打席目で今季チーム初、自身にとっても今季初安打を放った 【写真は共同】

 その大谷は、初回も待たされた。1回目の打席に入るとき、ヘルメットの庇(ひさし)に手をやって、相手監督に挨拶をするのが彼のルーティン。しかし、なかなかカブスのクレイグ・カウンセル監督と目が合わない。大谷は庇に手をやったまま、カウンセル監督が振り向くのをしばらく待った。

 ややあって、アイコンタクトが成立。そこでゆっくり大谷は打席に入り、マウンド上の今永昇太の初球――今年のメジャーの第1球を待つことになる。

 その初球。今永は前日の会見で、こんな話をしていた。

「初球、何を投げるかっていうのを教えるということは、じゃんけんでチョキを出すと言っているようなものなので、1球目は言えない」

 ただ、やはり真っ直ぐ。しかも昨年、彼の成功を導いた高め。独特の低いVAA(バーティカル・アプローチ・アングル)、高い回転効率、回転数を誇り、相手に“浮き上がっている”と錯覚させる球だ。

 しかも、東京ドーム。親善試合のときから真っ直ぐの縦の変化量が、気圧の関係なのか、数インチ(1インチは2.54センチ)高く出ると話題になっていた。そのことにはもちろん、両チームとも気づいている。

 ドジャースのコナー・マクギネス投手コーチ補佐は、「おそらく、これまでのイメージで振ると、バットは下をくぐるはず。投手には、高めを効果的に使おう、という話になるだろう」と明かした。

 そうした経緯を知っていれば、今永が、高め真っ直ぐで大谷の反応を確かめようとすることは想定できた。振ってきた場合、バットがボールの下をくぐるのか、あるいはファウルになるのか。いずれのケースでも、大谷の想定よりも、今永の真っ直ぐが、伸びている証拠。

 実際はしかし、そのいずれでもなかった。ストライクだったが、オープン戦のようにABS(自動判定システム)が使えたなら、判定が覆ったはず。大谷は、手を出さなかった。

 大谷は結局、ほぼ真ん中の真っ直ぐを打って二塁ゴロ。これは何を意味するのか? ゴロということは、それほど伸びがなかった? あのコースではそもそも変化量の違いを感じにくいが、おそらく、大谷のミスショット。試合後の会見で大谷は、「打席では緊張しない方なんですけど、久々に緊張した」と話した。「四球だけはいらないなという感じで、思い切りすぎているなという感覚があった」。

 大谷にしては、珍しく力が入りすぎた。

「日本独特の雰囲気というか、これだけお客さんが入ってくれているのもそうですし、打たなければいけないみたいな雰囲気があった」

 よって、3打席目の初ヒットに安堵した。しかも、チャンスが広がり、そこから逆転につながったのだ。

「なんとか、ヒットを打ててよかった」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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