イチローと大谷翔平をつなぐ東京ドームの1枚のドア ドジャースの選手たちも日本のボールに「?」

丹羽政善

戸郷翔征から放った大谷翔平の2ランホームランに東京ドームが湧いた 【写真は共同】

ドジャースの選手たちも日本のボールに首をかしげる

 真ん中やや低めのカーブ。右腰がやや開きながらもしっかり手は残っており、グッと引きつけた。快音を残した打球は、美しい弾道を描き右中間スタンドへ。飛距離391フィート。メジャーのどの球場でも柵越えする“ノーダウター(疑いなし)”だった。

 その大谷の本塁打が飛び出した三回、まず先頭のマイケル・コンフォートが右翼席へ1発。大谷の後、テオスカー・ヘルナンデスも続き、この回だけで3本塁打。これは、午後に行われた1試合目――阪神vs.カブスの傾向からは、想像し難い展開だった。
 というのも、この日、巨人と阪神の投手は、日本の飛ばないとされるボールを使用。データ・スタジアムの河野岳志さんのX(旧ツイッター)によると、阪神戦のNPB球の抗力係数(Drag Coefficient)は0.410。MLB球は0.370。荒っぽく言えば、ややこの数値が大きいほど、打球は飛ばない。そう、日本のボールはやはり飛ばない――そういう結果が出ていた。

 ドジャースのコーチ、選手らも口々にそれを試合後に指摘している。カブスの試合を見ていて、「なんか、おかしいなと話題になった」とは、投手コーチ補佐のコナー・マクギネス。本塁打を打ったコンフォートも、「メジャーリーグのボールよりは飛ばないボールを使っている、というのは試合前に共有されていた」と明かす。

「自分の当たりはほぼ完璧。飛んだとも思ったけど、400フィート飛ばなかったから(実際は393フィート)、『アレっ?』とは思った」

 2019年、メジャーリーグではシーズン最多となる6776本塁打が飛び出した。このときの抗力係数は約0.33。2022年、ボールが飛ばないと打者が騒ぎ出した。そのときの効力係数の平均値は0.35前後。たった0.02でも、打者は打った瞬間にその違いを感じる。

 河野さんは、サンプルが少ないので参考程度としているが、約0.04も違えば、メジャーの選手ならやはり、すぐさま首をかしげるレベルなのだ。

 ちなみに2010年、47本塁打を放ったクレイグ・ブラゼル(阪神)はその翌年、その数を16本に、さらにその次の年はケガもあったが、12本まで減らした。12年3月の日本開幕戦でマリナーズが来日した際、今回のように巨人、阪神と襷掛けで親善試合が行われたが、そのときにこう教えてくれた。

「メジャーの球で少し打撃練習をしたんだ。そしたら、はるかに伸びが違う。明らかに日本は、飛ばないボールを使っている」

 その変遷についてここで詳しく辿ることはしないが、紆余曲折があってまた、打者受難の時代に。データが、そして選手の証言が、それを教えてくれる。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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