漫画「灼熱カバディ」感謝祭をリアル競技者が開催、普及貢献に感謝

平野貴也

漫画作者の武蔵野さん「読み返せる作品になったと思う」

選手のメッセージが書き込まれた旗を受け取る武蔵野さん(中央)。左は編集担当の小林さん、右は舞台の演出を務めた西田シャトナーさん 【平野貴也】

 感謝祭では、普段はコートで熱いプレーを見せる選手たちが、すっかり漫画ファンの顔になっていた。灼熱カバディを題材としたクイズに挑戦したり、漫画読者である選手が作者である武蔵野さんや編集担当の小林翔さんに質問をしたり。主人公の宵越竜哉が、カバディで活躍した後の足跡が描かれる終盤のストーリーが、描き始めた頃から想定されていたことなど制作過程が明かされ、どよめく場面もあった。選手が長く作品を楽しみ、刺激を受けながら競技に打ち込んできたことが感じられる会でもあった。

感謝祭のクイズ大会で活躍した吉浦諒子選手。その場で描かれた色紙をプレゼントされ、感激していた 【平野貴也】

 武蔵野さんは「キャラクターの心情、感情に沿って描いている。例えば、読み返すときには、もう勝敗は分かっている。それでも、この負けるシーンはいい、この勝つシーンがいいと思えるものにしたかった。読み返せる作品になったと思う」と作品への思いを明かしたが、選手が作品に引き込まれたのは、敵も味方も含めて心情や背景の描写が多いからだろう。選手が動画メッセージで紹介した、好きなキャラクターも様々。壇上で手紙を読む際に「時には神畑(樹)のように減量に苦しみ、時には王城(正人)のようにケガに苦しみ、時には山田(駿)のように、自分が天才ではないことに気付き、苦しんだ」と登場人物を例えに出した倉嶋は「ずっと感謝を伝えたかった。解放感がある」と充実の表情だった。

 感謝祭の実行委員長を務めた元日本代表主将の下川正將は、国際大会に漫画を持ち込んでいたという。「多くの選手の感謝の思いを直接届けたい気持ちが強くて企画した。みんなが、キラキラした目で武蔵野先生たちと交流している姿を見れて、本当に良かった」と総括した。また、サッカー少年を多く生み出した「キャプテン翼」や、バスケットボールの普及に大きな影響を与えた「スラムダンク」が、物語が完結した後も多くの場で見かける作品となっていることを受けて「日本のカバディ界にとって、灼熱カバディは欠かせない存在。漫画は完結したけど、ほかの人気スポーツ漫画と同じように、僕たちは、この作品を盛り上げ続けていきたい」と今後も競技普及のパートナーとして捉える考えを示した。

「リアルカバディの恩返し」は、果たせるか

25年1月には、エンタメ性を追求してライトや音楽で演出した4人制カバディのイベントも新宿FACEで開催された 【平野貴也】

 灼熱カバディが競技者増などの影響を生んだ点について、作者の武蔵野さんは「僕の目的は、あくまでも面白い漫画を描くこと。(競技との接点は)作れるとしても入り口だけ。競技としての面白さ、奥深さを伝えるよりも、面白く描く方を優先する。でも、入り口が作れているのなら、あとは任せられる。(漫画の影響による競技者増は)単純にうれしいです」と話した。カバディは、90年代にテレビのバラエティ番組で「カバディ、カバディ……」とつぶやきながらプレーする様子がネタとして扱われ、一時的に知名度が上がり、競技に触れる人数も増えた。しかし、指導や強化の体制が追い付かず、大会数も少ないため、勢いは続かなかった。

 現在は、灼熱カバディの影響で競技を始めた選手の活動の場を設けるため、24年に初めて関東リーグを実施するなど、交流戦を含めた競技会の場を全国各地で増やしている。25年1月には、ショー要素を加えてエンタメ化した4人制の競技イベントも新宿・歌舞伎町で実施。漫画の人気によって生まれた効果を今後に生かそうと努力している。国内環境の活性化とともに注力するのが、2026年に愛知・名古屋で開催されるアジア大会に向けた選手強化だ。カバディにおける最高峰の大会が、日本で開催される。23年実施の前回大会は、グループリーグで4戦全敗と厳しい結果。灼熱カバディの好影響による前進を、大舞台で示したいと話す選手は多い。現実世界の活躍で、漫画への注目度を再燃させる恩返しを目指す。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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