25年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

J3降格の可能性もある危機的状況の“元J1”クラブとは? 3人のエキスパートによるJ2展望座談会【後編】

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J2復帰の富山は選手権のスター亀田にも注目

地域の盛り上がりを味方につけて、富山は11年ぶりに戻ってきたJ2の舞台で旋風を巻き起こせるか。昨季のプレーオフ決勝で劇的なゴールを奪った碓井も健在だ 【(c)J.LEAGUE】

──では最後に、みなさんがCクラスに選んだ4チーム、カターレ富山(昨季J3の3位)、FC今治(昨季J3の2位)、愛媛FC(昨季17位)、大分(昨季16位)を見ていきましょう。まずは富山から。

●Cクラス予想(並び順は北から)

佐藤拓也:甲府、富山、愛媛、今治、熊本、大分

土屋雅史:水戸、藤枝、富山、愛媛、今治、大分

池田タツ:水戸、富山、徳島、愛媛、今治、大分


土屋 J3の3位で昇格プレーオフを制して上がってきたチームなので、シンプルにCクラスかなと。ただ、昇格組にしてはほとんど選手を抜かれなかったので、継続性を持って戦えそうな感じはしますね。ここにもブレイクしたら面白いなっていう選手が結構いるんです。例えばF・マリノスのアカデミーで育った植田啓太(←SC相模原)とか、今年の選手権で優勝した流通経済大柏高のテクニシャン、亀田歩夢とか。それでも、戦力的にCクラスが妥当なのかなって思います。

佐藤 11年ぶりのJ2復帰ということで、地域の盛り上がりはすごく大きな力になるでしょうね。とはいえ、J3から上がってきたチームがJ2で旋風を巻き起こすには、スタイルが明確であることが1つの条件。富山のサッカーはオーソドックスというか、そこまで際立ったスタイルがあるわけでもないのかなと。去年の鹿児島ユナイテッドに近いイメージがありますね。

 J2に残留するには、やはりファン・サポーターの後押しを受けて、どこまでチャレンジャー精神、ハングリー精神を持って戦い続けられるか、だと思います。個人的に期待しているのが、昨シーズンは沼津でインパクトを残した濱託巳。すごく好きな選手なので、安光将作(→大宮)が抜けた左サイドバックの穴を埋める活躍を期待しています。

池田 選手権でも別格感があった亀田が、いきなりスタメンを獲るくらいの活躍してくれたら面白いですね。彼みたいな高校サッカー界のスターが、J2の下位クラブに行って実績を築き、そこからステップアップしていくストーリーって、最近少ないじゃないですか。J1クラブに行ったものの、全然試合に出られなくて消えていくパターンは多いけど。だから、期待しています。

──続いて愛媛をお願いします。

土屋 僕はワンチャン、Bクラスというか上位進出もあるんじゃないか見ています。昨シーズンはリーグワーストの69失点で、ここをどう修正するかが課題だったと思うんですが、小川大空、森下怜哉(ともに→サガン鳥栖)というレギュラーセンターバック2枚を見事に抜かれてしまった。ただ現状のスカッドを見ると、若くてしっかりしたキャリアを積んできた選手を補強できているし、レンタルでも村上悠緋(←徳島)、吉田温紀(←名古屋グランパス)、甲田英將(←水戸)など、年代別代表クラスを獲得していますからね。

佐藤 確かにセンターバックの2人を抜かれた守備に不安は残りますが、一方で昨シーズンの攻撃の大黒柱、石浦大雅が残ったのはすごく大きい。さらに期限付き移籍で中盤にいい若手が入っているので、さっきも言った「5人交代9人ベンチ」の今シーズンは、試合終盤に多彩なカードが切れそうです。愛媛の勢いのある2列目、前線は、対戦相手にとって結構厄介かもしれませんよ。

 だからこそ、守備面をどれだけ改善できるかでしょうね。去年は後半戦で急失速しましたが、それでも前半戦の貯金がものを言ってぎりぎり残留できた。今年もシーズン前半戦である程度、勝ち点を積み上げられないようだと、若い選手や期限付き移籍が多いだけに、ネガティブな方向に傾いてしまう危険性もありそうです。

池田 昨シーズンはつなぎのミスからの失点が多かった印象ですが、それは個人というよりもチームの熟成度を高めることで改善できるはずで、石丸(清隆)監督ならそれができるんじゃないかと思っています。昨シーズンにJ3から上がってきたばかりの頃の愛媛は、すごくロジカルで、状況によって戦い方も変えられるチームでしたからね。バタバタと負け始めた後半戦はなかなか歯止めが利かなかったけれど、石丸さんならキャンプを通して問題点を修正し、またしっかりとチームを整えてくるはずですよ。

残像を消して新しい大分を作らなくては……

J2初挑戦の今治は、昨季のJ3で得点王のタイトルを分け合ったマルクス・ヴィニシウス(写真)と藤岡の強力コンビを前線に擁する。いきなり上位躍進もあり得るだろう 【(c)J.LEAGUE】

──クラブ史上初めてJ2に参戦する今治はどうでしょう?

土屋 昇格したけど監督が代わったんですよね。新監督の倉石(圭二)さんの手腕がどんなものなのか、まだちょっと見えてきませんが、昨シーズン、ともに19得点を挙げたマルクス・ヴィニシウスと藤岡浩介(←岐阜)という2人のJ3得点王がそろった前線は、間違いなくストロングポイントでしょうね。

 このチームにも若くて活きのいい選手が多くて、なかでも僕が期待しているのが梅木怜と横山夢樹。去年、帝京高からそろって今治に加入して、瞬く間にレギュラーに定着した2人です。高卒1年目から活躍するのがなかなか難しい時代に、彼らのような存在はレアで興味深いなって。あと、これは清水の反町康治GMが話されていたんですが、かつて街とクラブが一体となって機運を高めていった松本山雅FCのような存在が次に生まれるとしたら、それは今治じゃないかって。サッカー専用スタジアム(アシックス里山スタジアム)などハード面も整備され、街自体のポテンシャルも高いですからね。そういう意味では、すごく可能性を秘めたチームだと思います。

佐藤 僕は倉石さん、期待していますよ。JFL時代のテゲバジャーロ宮崎を率いてJ3に昇格させ、その後コーチとして横浜FCと長崎で指導者キャリアを積んだ方で、宮崎時代にすごくいいサッカーをしていたのを覚えています。新加入のJ3得点王・藤岡は、宮崎時代の教え子でもあるので、その活かし方も十分に心得ているはずです。

 ただ、昨シーズンの試合を見るかぎり、やはり個の力で勝っていた印象が強くて、その戦い方がJ2で通用するかどうか。あるいは倉石さんが戦い方を変えてくるのか。そのあたりは未知数な部分が多いかもしれない。あとはオーナーの岡田武史さんがどの程度、現場に関わるのかも気になるところです。

池田 残留が最大の目標になると思いますが、J3得点王コンビの2トップがハマったら、ひょっとするとBクラス入りもあるかもしれません。同じ昇格組の富山とは違って、補強も順調でしたからね。既存の戦力をほぼ維持しつつ、昨シーズンのいわきの躍進を支えたセンターバックの大森理生など、要所を押さえた補強で確実に戦力値を底上げできている。躍進の可能性は十分にあると思いますよ。

──いよいよ最後の大分ですね。池田さんから、お願いします。

池田 「何が起きているんだろう、このクラブに」というのが率直な思いですね。先ほど佐藤さんも甲府のところでおっしゃってくれていましたけど、大分も年々強化費が下がっていく近年では珍しいチームになってしまった。強化費はJ2の中でも真ん中より下ですからね。だからこそ、このIN&OUTなんですが、それでもサポーターは「J1昇格だ!」って夢を見ている。そこの大きなギャップがありそうです。

佐藤 まさにその通りですね。昨シーズンは片野坂(知宏)さんが3年ぶりに戻ってきたにもかかわらず低迷したことで、サポーターの怒りが爆発したんですが、今シーズンもメンバーを見るかぎり厳しいと思います。ベテランの渡邉新太(→水戸)や長沢駿(→京都)なんかは、パフォーマンスが悪かったわけではなく、年俸の問題で出さざるを得なかったし、保田堅心(→KRCヘンク)と弓場将輝(→清水)のボランチコンビも、売り時を逃すわけにはいかなかったというのが実情です。

 この状況で浮上のきっかけをつかむとしたら、もう片野坂さんが理想じゃなくて現実的な戦い方に振り切るしかないんじゃないかと。今までのようなきれいなサッカーを目指していたら難しいと思いますね。

土屋 去年のスカッドで16位は、ちょっと考えられない。下平さん(隆宏/現長崎)のもとで昇格プレーオフに進出した2年前のメンバーがある程度残っていたにもかかわらず、ですからね。正直、片野坂さんは去年限りかもしれないなと思っていたくらいです。片野坂さんが何を変えられるか、どう変われるか。そこに尽きるのかなって。

 清武弘嗣(←C大阪)の15年ぶりの復帰は1つのトピックではありますが、やはり良かった頃の残像を消して、新しい大分を作るぐらいの気持ちでやらないと、下手をしたら降格してしまうんじゃないかと心配しています。15年間強化を担当した西山哲平GMが退任し、鹿島の吉岡宗重SDを新たなGMに迎えたこのタイミングは、変わるチャンスでもある。この2025年は、大分トリニータというクラブの今後を左右するターニングポイントになるような気がしています。

池田 かつてタイトルを獲得して、育成も上手くて数々のタレントを輩出してきたクラブが、ここまで低迷してしまうのは悲しいですよね。なんとか浮上のきっかけをつかんでほしいですね。

(企画・編集/YOJI-GEN)

佐藤拓也(さとう・たくや)

2003年、日本ジャーナリスト専門学校卒業とともに横浜FCのオフィシャルライターに就任。04年秋、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターへ転身。その後、サッカー専門誌を中心に寄稿。04年から水戸ホーリーホックを追い続け、12年に有料webサイト『デイリーホーリーホック』を立ち上げ、メインライターを務める。オフィシャル刊行物の制作にも携わる。

土屋雅史(つちや・まさし)

群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。当時の年間観戦試合数は現場、TV中継を含めて1000試合に迫ることもあったという。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。

池田タツ(いけだ・たつ)

株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会などをこなし、撮影も行う。湘南ベルマーレの水谷尚人前社長との共著に『たのしめてるか。湘南ベルマーレ フロントの戦い』シリーズがある。

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