春高Vの共栄学園「完璧な勝利」を支えた“データバレー” 日本一へ駆け上がった強さの秘密とは
春高バレーで19大会ぶり3度目の優勝を飾った共栄学園の選手たち 【写真は共同】
エース・秋本の活躍以上に「完璧」だったもの
東京対決の決勝戦、共栄学園が下北沢成徳から2セットをリードして迎えた第3セット、24対22、優勝を決める1点が上がったのは前衛センターにいた秋本美空。この試合で実に35得点を叩き出した秋本が、最後も1枚ブロックの上から叩きつけ、25対22。春高バレーが3月から1月開催になって以後初めて、共栄学園が日本一に輝いた。
原動力になったのは身長184センチで最高到達点301センチ、高校では圧倒的な高さを誇る秋本の存在だ。日本代表登録選手にも選出され、アンダーカテゴリー日本代表でも活躍。主将を務めた今季は、中村文哉監督も「本当に頼もしいエース、キャプテンに成長してくれた」と称賛するように、大会の顔、世代を代表する選手として常に注目を集め続けながらも最後の春高で、その力やこれからにつながる可能性を証明する、素晴らしい活躍を見せた。
だが共栄学園の強さはそれだけではない。試合を終えた直後のミックスゾーンで、中村監督はこう言った。
「今大会、最初から最後までディフェンスが完璧でした。事前の対策、データが全部ハマった。めちゃくちゃレシーブがうまいチームに見えたでしょ? それぐらい、完璧でした」
まさにその通り。決勝戦でも共栄学園のディフェンスは完璧だった。東京大会では敗れた下北沢成徳に対して、このローテーションでは誰の攻撃本数が多いのか。しかもそのスパイクはどの場所から、どのコースへ打たれることが多いか。まさに対策通りの場所にレシーブへ入り、確実に上げ、つなげたボールは秋本が決める。
完璧な勝利の背景には、女子チームではまだ少ない、データバレーの成果があった。
「大間違いだった」からデータ着手へ
共栄学園の中村監督は「最初から最後までディフェンスが完璧でした」と振り返った 【写真は共同】
就任当時を振り返り、中村監督も「最初は(高校生に対しても)技術だけを落とし込めば勝てると思っていた」と言うが、即座に「大間違いだった」と笑う。
「前任の太田(豊彦)先生が偉大だったので、僕もその真似をして厳しく指導しなければならない、と思っていましたが、そもそもその発想も『技術だけで勝てる』と思っていたことも大間違い。実際に就任した年は東京都のベスト8にも入れず、(春高)東京大会を争うベスト4にも届きませんでした」
伝統を継承することは大事なこと。とはいえ、指導者として自身のカラーやスタイルをつくっていかなければ選手はついてこないし、結果も伴わない。初年度の失敗が中村監督を変えるきっかけとなり、「選手に対して怒らなくなった」のと同時に、久光で培ったデータを用いたバレーボールに着手したのもこの頃からだ。
ローテーションごとの攻撃分析や、サーブを狙う場所。「S1」や「ゾーン」といった専門用語を用いて、選手に1つ1つ説明する。高校生でも男子はアナリストを置くチームも増えてきた中、専門のスタッフはいないが試合時にはリザーブメンバーがデータを取り、試合中もベンチ入りする選手がアップゾーンで試合を見ながらリアルタイムで記入する。
今年の春高でもユニフォームにベンチコートを羽織った平須賀理世と長谷優杏が、それぞれスパイクの打数や決定本数、さらにはミスの本数、サーブミス、相手のミスによる得点と、自チームのサーブレシーブを返球位置によってAパス、Bパス、Cパスに区分し誰が何本受けてそれぞれA、B、Cの割合を記入し、タイムアウト時にわかりやすく見えるように掲げた。