春高Vの共栄学園「完璧な勝利」を支えた“データバレー” 日本一へ駆け上がった強さの秘密とは

田中夕子

「3年生に教えてもらいながら学びました」

優勝を決めて喜ぶ共栄学園。常に楽しむ姿が印象的だった 【写真は共同】

 サーブレシーブの本数を記録する担当だったという平須賀が言う。

「BパスとCパスの基準をどうするかというのも難しかったんですけど、今はアタックラインからオーバーでトスが上げられたらBパス、アンダーでしか上げられなかったらCパスと共通しています。試合中にも誰にボールが集まって、どれぐらい返っているかがすぐわかるし、決勝戦はミスが少なくてAパスが多いこともすぐ共有できた。中村先生から事前に相手チームの傾向については伝えられているので、そこにプラスして試合中のデータがわかれば、基準がわかりやすくてプレーしやすいと思うし、そうなっていたらいいな、と思いながら私たちも(データを)取っていました」

 とはいえ、中学から高校へ進学した時は戸惑った。しかも共栄学園中から進学する選手も多い中、平須賀は松江第一中から上京してきた選手だ。

「S1、S2ぐらいはわかったんですけど、ゾーンって何?って(笑)。最初は全然わからなくて、3年生に教えてもらいながら学びました」

 言葉だけを聞けば意味がわからない。だが用語を交え、なぜそのコースにサーブを打つのか。理由もわかるようになると、むしろ用語を使ってデータと共に説明されるほうがわかりやすくなった、と平須賀は言う。

「2年になる直前ぐらいからリリーフサーバーとして出させてもらえる機会が増えたんですけど、今年はチームとして常に相手のゾーン1を狙ってサーブを打つことをテーマにしてきました。理由も中村先生から『バックライトから上がってくるボールをトスにするのは難しいから、攻撃が組み立てにくい』と言われたので、なるほどと思ったし、ゾーン1に狙うだけでなく相手のエースがどこにいるかも把握して打てばより攻撃も絞れる。春高でも、練習の成果が発揮されているのを感じていました」

 選手たちが成果と効果を実感していたサーブに加え、ディフェンスも相手の傾向を示すことでブロックとレシーブの配置をわかりやすくする。もちろんデータだけで勝てるほど簡単な世界ではないが、監督から一方的に伝えるだけでなく、日々の練習から選手たちにも落とし込んできた成果が、最後の春高で最高の形になり、試合を重ねるごとに強くなった。

チーム全体に浸透したポジティブな行動

 そして何より、共栄学園の選手たちを見ていて最も強く印象に残ったのは、試合中も常に楽しむ姿だ。

 がんじがらめな決まり事の中でプレーするばかりでなく、タイムアウト時にも選手同士で言葉を交わし、その場面場面で最も効果的な策を選択する。劣勢時にも秋本を中心に、「笑顔!」と声を掛け合い、特に1年生のミドルブロッカー、山下裕子がスパイクが決まらなかったり失点した時はすぐに3年生たちが山下の両肩や頬に手を当て「大丈夫!」と励まし、鼓舞し続けていた。

 ポジティブな行動につながったのは、中村監督の選手たちに対する態度や言葉がけも共通している。

「“負け”とか“ミス”とか、選手が落ち込むようなネガティブな言葉は普段から使わない。基本的に僕は選手が自由にできる環境をつくれればいいと思っているので、髪型も恋愛も自由。SNSは危険も伴う可能性があるので禁止にしていますが、携帯電話を持つのも自由だし、休みの日に何をしたっていい。ディズニーランドで楽しく遊んでくればいいと思うし、その代わり、やるべき時にはやることをやる。僕はそれでいいと思っているので、怒ることがなくなりました」

 男子で三冠、三連覇を達成した駿台学園だけでなく、女子の共栄学園もデータを駆使し、選手たちがバレーボールを楽しんで勝つ。男女共に、明るい未来を感じさせる優勝校が出そろう大会となった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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