バレー新リーグは成功するのか? SVリーグが持つ可能性と課題

大島和人

大阪ブルテオンが西田有志(写真中央)の活躍で新リーグ開幕戦を制した 【写真は共同】

 2024年10月11日(金)、バレーボールの大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)が開幕した。男子10チーム、女子14チームが参加する日本のトップリーグで、イメージとしては従来のVリーグから見て「一つ上」に作られたカテゴリーだ。SVの「V」はバレーボールだが、「S」はStrong(強く)、Spread(広く)、Society(社会とつなぐ)といった理念がこめられている。

「SVリーグはプロか、そうでないか」という質問には、まだイエスともノーとも答えられない。とはいえ2027年の完全なプロリーグ化ははっきりと提示されている。2030年には事業規模、レベルなどで「世界最高峰」への到達を目指す戦略も公表済みだ。その達成がすなわちリーグの成功を意味することになる。

 試合数は大幅に増え、外国籍選手の登録・起用も拡大された。チーム名も「サントリーサンバーズ大阪」のように地名が追加され、パナソニックパンサーズは「大阪ブルテオン」と改まって社名を消した。それは分かりやすい変化だ。

 一方でチームの顔ぶれに大きな変化はない。昨季のVリーグに参加していた男女22チームはすべてSVリーグに移行している。リーグはなお過渡期にあり、各クラブに課せられるハードルは低く抑えられたままで、プロとして「完成」はしていない。本質的な変化はファンに見えづらいかもしれない。

大阪ブルテオンが新リーグ緒戦を制す

 11日の2024-25シーズン開幕戦は昨季の男子ファイナル(決勝)と同じカードで、サントリーサンバーズ大阪と大阪ブルテオンの顔合わせだった。試合はブルテオンが3-0(25-17、25-18、25-21)のストレートで勝利している。ブルテオンは日本代表のオポジット西田有志がチーム最多の16得点を記録。ジェスキー・トーマス、ロペス・ミゲルの両外国籍アウトサイドヒッター(OH)も高確率でアタックを決めた。

 サントリーはイタリアから帰国した日本代表のOH高橋藍、218センチのドミトリー・ムセルスキーがいずれ40%台の決定率にとどまった。新加入のアレクサンデル・シリフカは膝の負傷から復帰するプロセスの途上で、彼の不在もおそらく完敗に影響した。

 開幕戦は平日夜に行われている。大阪のチーム同士ながらリーグ主催試合として東京体育館で開催され、フジテレビ系列の生中継もあった。Jリーグ、Bリーグのファーストシーズンと同じ「先出し単独開催の開幕戦」で、社会に向けたアピールの意味合いもあったはずだ。

 チケットは発売から90分ほどで完売し、スタンドは6513名の観客で埋まった。2022年5月に同体育館で開催されたBリーグのファイナルとほぼ同じ人数で、盛況だったことは間違いない。

開幕戦は「品格」が良すぎた?

演出はどちらかというと抑えめだった 【写真は共同】

 ただSVリーグの大河正明チェアマンは試合後にこう感想を述べている。

「私はBリーグの開幕も立ち会いました。そのときはアルバルク東京と琉球ゴールデンキングスの試合だったのですが、(SVリーグは)ちょっと品格が良すぎて、当時の『アルバルク東京対アルバルク東京』のような感じで見ていました」

 念のため説明すると大河チェアマンは、男子プロバスケBリーグ開幕時のチェアマンでもある。当時(2016年)のアルバルク東京は企業チームからプロに転じた直後で、ファンの応援文化は乏しかった。ホームに等しい代々木第一体育館の開催にも関わらず、琉球ブースターに声量で圧倒されていた。

 それに比べれば男子バレーは既に応援文化が根付いている。東京体育館のスタンドを見るとサントリーの赤、大阪ブルテオンの青が2割ずつくらいの比率で埋めていた。控え選手が客席の応援を煽るノリはバレーボール特有で、見ていて楽しかった。

 とはいえ野球やサッカー、バスケットボール、そして同じバレーボールの日本代表戦に比べれば客席が静かなようにも思えた。

 昨今のプロスポーツはプロ野球もJリーグもBリーグも「映像」「音響」「照明」を駆使し、プレー以外でもファンの五感に訴えかけようとする。例えばBリーグは16年9月の開幕戦に巨額の投資をしていた。会場には外部から大型ビジョンやスピーカーを持ち込み、特殊なLEDコートも採用。知名度のあるアーティストもゲストに呼んでいた。いわゆる「興行原価」を大赤字となるレベルまで上げ、社会にインパクトを与えるための投資をした。それに比べるとSVリーグは穏やかなアプローチで、まだ「勝負をかけた」感じはなかった。

バレー人気の「広がり」は既に十分

フィリピンで開催された国際試合は日本にとって「ホーム」状態だった 【Photo by Mark Fredesjed Cristino/Getty Images】

 もっとも日本バレーは決してバスケの「風下」に置くべき存在ではない。低迷期があったとはいえ、日本は男女とも過去に金メダルを獲得したバレー大国だ。

 開幕戦に登場した西田有志と高橋藍は、おそらくどのバスケ選手よりも国内の認知度が高く、CMにも出演している人気者。パリ五輪のテレビ中継は男子バレーが視聴率上位を占め、全体1位は男子準々決勝のイタリア戦だった。日本バスケは各地域に深く根付いているが、広がりはバレーボールのほうがおそらく広い。

 レベルについても男子バレーは男子バスケの格上だ。パリ五輪はベスト8にとどまったが、大会直前の世界ランキングは2位。西田や高橋、そしてイタリアでプレーする石川祐希のような世界レベルの人材が既にいる。東南アジアを中心にした外国での日本バレー人気も、ユニークな強みだ。

 昨年の入場者数もVリーグの男子は2180名と悪くはない数字だ。B1の入場者数は直近のシーズンこそ4617名まで伸びているが、初年度は2800名弱。アリーナ規模の制約さえ解消されれば、ブルテオンやサントリーのような人気チームは平均4〜5千人をすぐにクリアするだろう。そこは日本バレーとSVリーグの分かりやすいポテンシャルで、Bリーグの発足時に比べると不確定要素やリスクはむしろ小さい。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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