有明アリーナを沸かせる柳田将洋のバックアタック 未来に向けて「限られた時間でも結果を」

田中夕子

昨シーズン、東京グレートベアーズに移籍した柳田将洋。限られた出場機会でも強い印象を残している 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 11月4日。10,820名の観衆で埋め尽くされた有明アリーナ。

 前夜はVリーグ時代から含め歴代最多入場者数となる11,599名が集う中、サントリーサンバーズ大阪と東京グレートベアーズの試合は、フルセットの末にグレートベアーズが勝利した。

 だが一夜明けたこの日は、前年の王者でもあるサントリーがミスやリスクを恐れず攻めに転じたサーブで常に主導権を握りストレート勝ち。敗戦の糧を見事に活かした対応力の高さと、何が何でも勝利をつかみとる、という貪欲さを見せつけ、会場を沸かせた。

 ただ、会場を沸かせ、盛り上げる、という面で言えばもう1人、欠かすことのできない人物がいた。

 サントリーが19対13と6点をリードした第2セット中盤に、フェレイラ・アレックスに代わって投入されたグレートベアーズの柳田将洋だ。

多くの人たちが見たかった柳田のスパイク

 同じアウトサイドヒッターのルーキー、後藤陸翔が勝利の立役者となった3日の試合も出場したが、リリーフサーバーとしての投入でスパイク得点はない。

 初めての得点が、17点目を決めたバックアタックだった。

 トスを上げたのは、柳田よりも前に2枚替えでムザイ・マチェイ、今橋祐希に代わりオポジットの亀山拓巳と共に投入されたセッターの深津旭弘。「先週から調子が上がっていた」という柳田が放った1本を、深津は絶賛した。

「めちゃくちゃ跳んでいたし、状態もいい。相当いいスパイクでした」

 あの人は先入観があるから、と笑いながら、柳田自身も相手のサーブから1本でサイドアウトを取ったバックアタックが「狙って打った」1本だったことを明かす。

「本当は(サーブレシーブをするポジションが)僕が真ん中で、(リベロの)古賀(太一郎)さんが1のゾーン(ネットを正面に見てコート右奥)、亀山はオポだったのでサーブレシーブには入らないポジションだったんですけど、僕が打ちたいあまりに、古賀さんと亀山をスイッチさせて、古賀さんにパスを返してもらって、自分がパイプに入った。その前にスイッチしたのを(深津)アキさんも見て、感じてくれていたのでそのまま上げてくれて、ありがたいな、と思いながら打ちました」

 勝利に貢献した1本でも、逆転につながる1本でもない。でもなぜ、その1本がそれほど印象に残り、会場が沸いたのか。

 きっと、有明アリーナで放つ柳田のスパイクを、多くの人たちが見たかったからだ。

 もちろん、今、この試合だけではない。

 2020年の東京五輪に向けて建設された有明アリーナは、延期を経て21年に開催された五輪でバレーボール会場だった。

 だがその場所に、1万人をこえる観客はいなかった。そして、柳田将洋も。

 だからこそ、この場で打ちたいスパイクを打って決める柳田が見たかった。ミックスゾーンでそう伝えると「僕はどちらかというとそういうタイプじゃない」と笑った。

「1ミリもないと言えば嘘になりますけどね。でも僕の性格上、そういう思いを乗せてもいいことはない。初めての会場、バレーボールをするにはやりやすいな、と素直に思える場所でフラットにプレーした。僕自身、アピールする時間だと思いながらコートに立ちました」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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