石川真佑が描くこれから「女子バレーをもっと盛り上げることを考えたら…」【インタビュー後編】

田中夕子

石川真佑がクラブシーズンや日本代表で描く「これから」を聞いた 【平野敬久】

 2025年2月28日、イタリア・ノヴァーラ。レギュラーラウンドのホームゲームはこの日が最後。試合へ向け、入念に準備を重ねた石川真佑はベンチスタート。すぐにコートへ投入されたが、なかなかスパイクが決まらず、会心の一打には程遠い。

 笑顔が爆発したのは、2セットを先取され、後がなくなった第4セット中盤。ラリーの最後にレフトの石川へ、やや高めの軌道で二段トスが上がる。ブロックは2枚ついていたが、落下点に入り、思い切り腕を振り抜き、叩き込む。

 ようやく放った渾身の一本。得点した後両手を握りしめ、笑顔を見せるよりも先に大きく叫び、感情を爆発させた。

「思うように打ちきれない自分に対しての苛立ちも含めて、あの1本に全部ぶつけました。やっと、ちょっとスッキリしました」

 あれから1カ月が過ぎ、石川はプレーオフの最中にいる。クラブシーズンや日本代表、石川が描く「これから」を聞いた。

1年目からのレベルアップ

ノヴァーラではプレーオフ進出も果たし、さまざまな経験を積んでいる 【平野敬久】

――パリ五輪ではイタリアが優勝。セリエAでも多くのイタリア代表選手がプレーするだけでなく、世界各国からまさにトップオブザトップの選手が集まっている今シーズン。石川選手は昨シーズンに続いてイタリアリーグを経験していますが、全体のレベル自体が上がっていると感じますか?

 それは間違いないです。実際に試合をしていても、スパイクやサーブ、全部本当にすごいな、と思う選手が多いし、自分自身も初めてのクラブでスタートしたので、純粋にいろんなチャレンジができていた。昨シーズンと比べても明らかに「楽しい」と思うことや、バレーボールって難しいけど楽しいなと感じることがたくさんありました。コネリアーノでプレーする(ブラジル代表のガブリエラ・ギマラエス)ガビ選手がまさにそうですけど、すごく楽しそうにプレーをするからこれだけすごいんだな、と。私自身は今、なかなか「バレーボールが楽しい」と感じられていないので、もっと楽しまないとダメだな、と思いますね。

――昨シーズン在籍したフィレンツェではプレーオフ出場がかなわなかった。今シーズンのノヴァーラではプレーオフに加え、欧州クラブでのCEVカップもある。スケジュール自体もハードです。改めて2シーズン目を石川選手はどのように過ごしていますか?


 昨シーズンと比べてまず違うのは、生活に関しては慣れたし余裕もあるので時間の使い方は少し、うまくなったのかな、と思います。たとえばオフも、昨シーズンは全部初めてで、なれないことばかりだったのでとにかく疲労困憊だからひたすら寝ていたんですけど(笑)、今シーズンはオフの日も少し早く起きて英語やイタリア語の勉強をしています。でも、オフの日の充実度に関していえば、今シーズンは生活には慣れたけれど試合数自体が多い。フィレンツェの時は基本的に試合は週1回でしたが、今は週2回で移動もあるので、単純に身体が疲れる。結局出かけない、ということに関しては今シーズンも同じだし、今年のほうがさらに出かける機会が少なくなったかもしれません(笑)。

――1年目と2年目、それぞれ違う難しさがありますね。

 そうですね(笑)。3年目はもっとうまくやっていければいいな、と思って今は過ごしています。

「日本ではしなかったこともいろいろ話していますね」

2028年のロサンゼルス五輪への思いも語った 【平野敬久】

――来シーズンに関して、正式発表が出るまでプレーする場所に関してはお話しできないと思いますが、今後、ご自身の中ではどんなプランを描いていますか?

 いろいろ考えます。自分個人のことだけを考えれば、日本よりも海外リーグのほうが高さや巧さ、パワーのある選手が多いのは確かなので、海外でやったほうがいいだろうな、と思います。でも自分はもちろん、日本代表自体のレベルを上げるとか、日本の女子バレーをもっと盛り上げることを考えたら、日本でプレーするのも1つの選択肢かな、とも思う。海外でプレーする選手がもっと増えたらそれはそれで面白くなるだろうし、日本のレベルが上がるとも思うけれど、自分の経験を日本で伝えたり、還元することで全体の意識が変わればいいな、と考えることもある。何が正解かはまだわからないので、1つずつ、今やることをやるだけだ、と思って頑張ります。

――関菜々巳選手、福留慧美選手も今シーズンはイタリアでプレーしました。日本代表ではチームメイトとして戦った選手と対戦することになって、改めて発見したことや変化はありましたか?

 セナ(関)さんとは東レでもチームメイトでしたが、その頃よりも深く話をするようになりました。もともと私自身がそんなに自分から話すタイプでもないので、たとえばここで自分に上げてほしいと思っても言わなかった。セナさんもセッターとしていろんなことを考えたり、気を遣って話さなかったこともあると思うんですけど、お互いイタリアでプレーするようになって、特に私は今シーズン、セッターとのコミュニケーションですごく悩むことが多いので、セナさんに相談することも増えました。話す回数自体も増えて、セナさんはどんなことを考えているんだろうと知りたくなったので、いろんな話をしながら自分の意見を言うだけじゃなく「セナさんはどう思いますか?」と聞くことも増えました。

――たとえばどんな話をしますか?

 日本のSVリーグの話もします。「女子よりも男子のほうがすごい盛り上がってるけど、女子を盛り上げるにはどうしたらいいと思いますか?」とか。私から見るとセナさんはコミュニケーションを取るのがすごく上手なので、どんなふうに接しているんだろう、と聞いたら、「私は周りから真面目だと思われているから、真面目にやらなきゃと思ってずっとやってきた」と言われて、そんなことを考えていたんだ、と驚いたり。日本ではしなかったこともいろいろ話していますね。

2028年のロサンゼルス五輪へ向けて

――二度の五輪を経験した石川選手にとって、2028年のロサンゼルス五輪はどんな位置づけでしょうか

 28歳で迎えるオリンピックなので、自分の中では1つ、大きな目標ではあります。東京も、パリでも結果を出すことができなかったし、自分自身も納得の行く終わり方ではなかった。やるからにはもっと上を目指したいし、何より、やりきって納得して終わりたいです。

――そのために、何が大切で何が必要だと考えていますか?

 プレーの面ではとにかくすべてレベルアップしなければいけない。攻撃面では最後の1点を決めきれる、取り切れる力、技をつけないといけないし、自分が思うだけでなく見ている人にもちゃんと伝えられるプレーをしなければダメだと思っています。日本代表やイタリアのリーグでいろんな経験をしてきているので、その経験をチームのために還元することも自分の役割だと思うので、プレーはもちろん、プレー以外の面でもチームが同じ方向へ進んでいけるように意識を向けていくのも、これからの自分に求められた役割だと思っています。今は壁に当たっているので、この調子だと大丈夫かな、と不安もありますが、新しいスタートは楽しみなので。変えなきゃいけない、と思う今だからこそ、これからにつなげていきたいです。
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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