「広島カープイズム」に迫る

広島東洋カープがFAで選手獲得をしない理由 鞘師スカウト「獲った選手が使われやすい、鍛えてもらえるというのがカープらしさ」

西尾典文
 FAに頼らずドラフトで獲得した選手を育てることがチーム作りの中心となっている広島東洋カープ。前回の松本有史スカウトに続いて、今回は近畿地区を担当し、今やチームの中心となっている小園海斗選手や長距離砲として期待が大きい末包昇大選手などをプロの世界に導いた鞘師智也スカウトのインタビュ—をお届けする。

小園海斗は鞘師スカウトの後輩だが、高1時から「モノが違う」と感じたという 【写真は共同】

密かに評価していた石原と末包

——鞘師スカウトご自身がアマチュア選手時代、プロを意識したのはいつからですか?

 報徳学園時代には甲子園に出て横浜の松坂大輔からたまたまヒットを打てたこともあって、見に来ている球団はあると聞きました。でも具体的な話はなかったですね。プロに手が届くかもと思いだしたのは東海大2年の秋です。神宮大会の決勝で慶応大に負けたのですが、相手にその年のドラフトで指名された佐藤友亮さん(2000年西武4位)がいて、同じ外野手でしたし「あと2年あればあのレベルには行けるかな」と思いました。現実的に狙えそうと思ったのは3年の秋くらいですね。カープの担当は苑田(聡彦/現・スカウト顧問、2025年2月に退任予定)さんで、3年の頃から結構熱心に来てくださっていました。4年の秋にひじを痛めてしまったので他球団は手を引いたと思うのですが、苑田さんは最後まで来てくれていましたから、指名があるならカープというのは感じていました。

——カープに対してはどんな印象を持っていましたか?

 練習が厳しいイメージはありました。今よりも当時の方がその印象は強かったですね。あとは、自分は阪神ファンだったのですが、野村(謙二郎)さん、緒方(孝市)さん、前田(智徳)さんとか、足が速くていい選手が多かったので、子どもの頃から野球ゲームをするときは、いつも広島を使っていました(笑)。

——スカウトになられた経緯は?

 毎年1年1年が勝負で、20代後半はいつクビだと言われても悔いがないようにと思って必死でやっていました。だから戦力外と言われた時はもう潔く辞めるつもりでした。球団の方から「辞めてどうするんだ?」と聞かれて、その時は全くノープランだったのですが、野球自体は好きでしたので「何かしら野球には携わりたいと思っています」ということだけは伝えました。球団からは、何かポストを考えるから少し待ってくれと言われて、それから2週間くらいして「スカウトとして関西に戻るのはどうだ?」という話をいただきました。ありがたいなと思って「すぐにやります!」と答えました。

——スカウトになったばかりの頃、どんなことに苦労しました?

 最初の2年間は元々関西を担当されていた宮本(洋二郎)さんの下についてやっていたので、色々教えていただきましたし、すごくありがたかったです。関西は元々地元ですからある程度どんな学校があるとかも分かりましたし。そういう意味では松本(有史)さんの方が大変だったと思いますよ。強いて言えばどういう流れでドラフト当日まで進めていくのかなどは分からなかったので、最初の頃は会議でどんな感じで発言したらいいかみたいなのは、ちょっと難しかったですね。自分が推したい選手をどんなタイミングでどう発言したら良いのか、そういうことは何年かやってから分かるようになりました。

引退直後から広島のスカウトを務め、関西地区を担当している 【西尾典文】

——スカウトになって最初に担当した選手は誰になりますか?

 社会人のニチダイから入ったピッチャーの西原(圭大/2013年4位)ですね。当時の野村監督からは「少し変則なタイプで、比較的早く使えるようなピッチャーはいないか?」というリクエストもあって推薦しました。1年目は開幕一軍に入って出だしは悪くなかったのですが、その後が続かなかったですね。

——スカウトをやっていて嬉しい時、やりがいを感じる時はどんな時ですか?

 自分が推していた選手が実際に指名された時はもちろん嬉しいです。ただ1位で指名されるような選手は誰が見てもいい選手じゃないですか? そういう選手よりも密かに自分が「この選手は絶対いい!」と思っていた選手が評価してもらえて指名され、入団してから結果も出た時がより嬉しいですね。

——そういう嬉しいケースにはまった選手としては誰になりますか?

 最近では石原(貴規/天理大→2019年5位)と末包(昇大/大阪ガス→2021年6位)ですね。石原の年の大学生のキャッチャーだと東海大の海野(隆司/ソフトバンク2位)が評判で、担当ではなかったのですが大学選手権などで見ていました。その海野と比べても石原は遜色ないというのが僕の評価で、他球団は全く来てなかったのが不思議なくらいでしたね。末包も調査に行っていたのは僕だけでした。社会人に入ってきた時は練習でもなかなか当たらなかったみたいですが、だんだん当たるようになってきて、飛ばす力は本当に凄かったです。
 2人とも下位で獲れて、比較的早く一軍に出てきてくれました。まだまだですけど、何年もかかって出てきたわけではなかったので、見立ては正しかったのかなと思いました。

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著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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