「広島カープイズム」に迫る

広島東洋カープがFAで選手獲得をしない理由 鞘師スカウト「獲った選手が使われやすい、鍛えてもらえるというのがカープらしさ」

西尾典文

高1の時からモノが違った小園

広島は矢野(右)のような守備の名手をドラフトでしっかり評価する球団 【写真は共同】

——選手を見る時にどんなところを意識していますか?

 パッと見て分かる部分は、ある程度スカウトをしている人だとそんなに差はないと思います。だからパッと見ただけでは分からない部分を大事にしていますね。内面からプレーに出てくるものとかですね。ただ最終的に成功するか、しないかは人間のやることですので絶対はないと思いますし、何年やってもこれを見れば分かるみたいなのはありません。何とかして確率を上げるために色んなところを見るみたいな、そういったことの積み重ねしかないですね。その中ではっきり自分がいいと思うか、そうではないかというのはハッキリするように心がけています。

——これまで見てきた中で担当したエリアで一番凄かった選手は誰になりますか?

 ピッチャーだと金丸(夢斗/関西大→2024年中日1位)です。それまでは東(克樹/立命館大→2017年DeNA1位)だと思っていましたが、ちょっと金丸は別格ですね。最後は腰を痛めてコンディションが不安材料ですけど、それまでのピッチングを見る限りでは全てにおいて東を超えたかなという印象です。今プロの一軍で投げても抑えるだろうなというイメージでした。
 野手だと小園じゃないでしょうか。打つだけなら岡本(和真/智辯学園→2014年巨人1位)も良かったですけど、総合的に見たら小園になると思います。高校1年生で入ってきて見た時にちょっとモノが違うという感じでした。守備も足も良かったのですが特にバッティングですね。初球からどんなボールにも合わせるんですね。僕の感覚的には手が出ないようなボールも振りにいって芯でとらえる感じです。カウントとかも関係なかったですね。どんな状況でどんなボールが来ても対応できる。ちょっと天性のものかなと思います。

——狙っていて他球団に獲られて悔しかった選手で印象に残っている選手はいますか?

 東もそうですし、最近だと福田(幸之介/履正社→2023年中日4位)は下の方で獲りたかったピッチャーでしたし、去年だと今朝丸(裕喜/報徳学園→2024年阪神2位)もそうですね。結構高く評価していました。報徳学園の後輩だから推したんじゃないか、みたいなことも言われますけど、後輩だからこそ余計に厳しい目で見ていたので、その中でも高い評価をしていました。

高太一の素質は「相当良い」

高は大卒だが「素材」を評価されて2位指名を受けた 【写真は共同】

——担当した選手で、これから楽しみな選手についても教えてください。

 高(太一/大商大→2023年2位)なんかは面白いと思いますね。大学生でしたけど即戦力と期待して獲ったわけではなくて、2、3年くらいで出てきてほしいというピッチャーです。ただ持っている素材は相当良いものがあると思いますし、1年目は怪我もせずにある程度二軍でも投げられて、良いものも見せてくれたと思うので、これからが楽しみですね。

——2024年の担当した選手についてはいかがでしょうか?

 3位の岡本(駿/甲南大)が担当ですが、岡本も高と同じような位置づけですね。即戦力ではなく2、3年やって出てきてほしいというピッチャーです。力感なく投げていいボールが来るのが特長で、本当に良いものを持っています。下の方で指名してほしいと思っていたので3位はちょっと早いかなと思いましたが、改めて他球団の指名を見ても、大学生で将来先発ができそうなピッチャーとなると、そこまで順位が高すぎることもなかったかなと思いました。それくらい楽しみなピッチャーです。

——鞘師スカウトが感じるカープのスカウティングの特徴みたいなものはありますか?

 よく言われることですけど、伝統的にやっぱり足の速さは要求されますし、内野手、特に二遊間は守備に関して求める基準が高いと思いますね。昔なら野村さん、正田(耕三)さん、最近では菊池(涼介)、田中広輔がいて、矢野(雅哉)もそうですよね。あくまでも僕の肌感覚ですけど「打てるけど守りはちょっと……」みたいな二遊間の選手は厳しい評価になることが多いですね。あとは選手を推薦するかしないかの判断は担当に8~9割任せられているので、そこは他とは少し違うと思いますし、やりがいを感じる部分ですね。

——最後に鞘師さんが感じる“カープイズム”、カープらしさとは?

 やっぱりチームの象徴と言えるのが黒田(博樹)さん、新井(貴浩)さんじゃないですかね。とにかく練習とかが厳しいというイメージがありますけど、その中で球団からの優しさもあります。やっぱり選手を育てないといけないという意識は他球団よりも強いと思いますし、そんな中でチームの顔になって、存在として体現しているのが黒田さん、新井さんの2人なのかなと。出ていってしまう選手も多いですが、それはまた選手が循環する意味では悪いことばかりではないと思いますし、僕たちスカウトにとっては獲った選手が使われやすい、鍛えてもらえるというのもカープらしさだと思います。

鞘師智也(さやし・ともや)

1980年生まれ。大阪府茨木市出身。報徳学園では3年時に春夏連続で甲子園に出場し、東海大を経て2002年ドラフト4巡目で広島に入団。2010年限りで現役を引退し、2011年から近畿地区担当スカウトに就任。担当した選手では岡田明丈、小園海斗、石原貴規、黒原拓未、末包昇大などが主力へと成長。2024年のドラフトでは岡本駿(甲南大・3位)を担当した。

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著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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