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出場時間では測れない遠藤航の重要性 「勝利」だけを見つめる献身的なチーム愛

森昌利

「どんな形であれ使ってもらえれば」と遠藤

今季は出場時間が激減。しかし遠藤はスロット監督の起用法に「不満はない」と言い、「自分にできることをやっていくしかない」と前を向く 【Photo by Urbanandsport/NurPhoto via Getty Images】

 そうしたなかで遠藤は、12月18日の既述のサウサンプトン戦で、マンチェスター・シティのイングランド代表DFジョン・ストーンズ顔負けの偽CBを演じた。

 相手がボールを持てば、パートナーを組んだクアンサーの左脇に収まり、CBとして最終ラインを形成した。しかし味方がボールを持つと中盤に進出。そして結果的に決勝点となったハーヴェイ・エリオットの2点目の起点ともなり、文字通り攻守両面で活躍した。

 チームのCB不足を見事に解消して、攻守にわたって素晴らしいセンスを見せたサウサンプトン戦のパフォーマンスは、起用したスロット監督の想像も超えていたのか、オランダ人指揮官は試合後「褒めるとしたらワタ・エンドー」と語り、手放しで絶賛した。筆者はこの時のプレーについても尋ねた。

「やりやすかったですね。しかし(偽CBをやるには)もちろん僕だけじゃなくて、周りの選手も戦術を理解していないといけない。そのうえで相方(CBのパートナー)はジュエル(クワンサー)で、左サイドバックにはゴメスが入ってた。彼(ゴメス)はオーバーラップして上がっていくよりは、後ろでしっかりリスクマネジメントをして、うまくバランスを取るタイプ。そういう人の配置も含めて、自分がボランチに入ることで、チーム全体のビルドアップの形は良くなったと思っている。

 あの(偽CBを置く)形もチームが1つのオプションとして持てれば、相手としたらいろんな攻撃のパターンがあるチームになって、かなり守りづらくなると思う。そこはたぶん、監督自身も目指しているところだと思う。いろんな選手の立ち位置とか人の配置を、相手によって変えてやっていくところで、それが今、かなりうまくはまっている。みんな戦術理解度も高いと思うんで。そこは僕も含めて、1つのパーツとして、どんな形であれ使ってもらえればと思います」

 正直このコメントには驚いた。

 まず1つ目の驚きは、偽CBが遠藤のアイデアだったことだ。左サイドにアンディ・ロバートソンやコスタス・ツィミカスといった、攻撃参加が得意なサイドバックが入っていたら話は別だが、守るゴメスが入ったことで、最終ラインから攻撃にも参加する偽CB役を演じた。そしてスロット監督に称賛された。

 そしてもう1つの驚きは、「1つのパーツとして、どんな形であれ使ってもらえればと思います」と語ったことだ。

 今季の遠藤は出場時間が激減している。ところが本人はそんなことはお構いなしのようだ。だからスロット監督の起用法に「不満はないのか?」とストレートに聞いてみた。

「不満はないです。もちろん毎試合出たいというのは、僕だけじゃなくて、他の選手も思っていると思います。けれども今、チームの状態はいいし、出ているライアン(・フラーフェンベルフ)や(アレクシス・)マック・アリスターのパフォーマンスもいいと思っている。そこで、もちろん僕も負けずにアピールし続けていくのにプラスして、自分にできることをとにかくやっていくしかない。

 たぶん、自分みたいなタイプの選手は、監督からすればいてくれたらすごく楽だと思う。それに周りの選手たちも、自分のことをみんなが信頼してくれていると思う。だからそこ(起用法に)は、不満はない。そんなにフラストレーションが溜まっているわけでもないし、与えられたことをとにかくやればいいという感じです」

冬の移籍はないと見るのが妥当

4部アクリントンとのFA杯3回戦で、遠藤はCBとして先発出場。アレクサンダー=アーノルドが交代した後は主将の腕章も巻き、後半34分までプレーした 【Photo by Chris Brunskill/Fantasista/Getty Images】

 もちろんのこと、遠藤のような選手――どこでどんな使い方をしても結果を出す選手がいるのは監督にとってありがたい。実際、1月13日に開かれたノッティンガム・フォレスト戦の前日会見でもスロット監督は、「どんな状況でも100%の力を発揮してくれる遠藤は、チームにとって本当に重要な選手」と発言している。しかも全く不平不満を言わず、出場時間が減ってもマッチ・フィット――試合勘を失わない。まさにプロの鑑のような選手だ。

 筆者は遠藤の返答を聞いて、思わず「すごいね」と相槌を打っていた。

 すると遠藤は、「でもリバプールにいるということはあると思います」と一言。出場時間が減って、選手としては当然不満もあるはずなのに、それよりもチームを優先する。筆者のような凡人からすると自己犠牲がすぎるとも思うが、これも真のリーダーたる人間の資質なのだろう。代表チームの主将を務め、このFA杯3回戦ではトレント・アレクサンダー=アーノルドがピッチを去ると、リバプールという超一流チームでもキャプテンのアームバンドを巻いた。

 だからこそ、本人も言うように監督も、選手も“みんなが信頼する”のである。チームの成績を何より優先し、常に自分の全てをチームに捧げる遠藤だからこそ――。

 そんな現場の信頼に加えて、イングランド一熱いサポーターたちの絶大な愛もある。このFA杯3回戦で先発した遠藤が、交代時にタッチラインのほうへ歩き出すと、観客がさざ波を起こすかのように立ち上がり、万雷の拍手を送った。

 サポーターはどんな使われ方をされても、全力を尽くし続ける遠藤のプレーに感動し、何よりも心から愛する自分のフットボールクラブに全てを捧げる日本人選手の心を理解して、最大の敬意を示した。

 直近ではフラム移籍の報道もあったが、この様子ならそれもないと見るのが妥当だろう。

 こうなると遠藤には、今季のリバプールでぜひともイングランドを制覇してもらいたい。世界最高のリーグと言われるプレミアリーグで優勝して、遠藤の献身的なチーム愛が報われてほしいと切に願う。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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