意外なつながり?栗山巧が野茂氏と出会い、教えられ、学んだこと 23年間の励みは…
「自分の頭で野球を考えることを大切に」
「NOMO KURIYAMA ALL STAR GAME」などで見せる野茂氏の子どもたちへの接し方を見て気づきがあるという 【写真は共同】
その中で、とても自然な形で、冒頭で触れた「NOMO KURIYAMA ALL STAR GAME」を一緒に開催する流れになりました。もちろん、いろいろハードルはあって、たくさんの方のご尽力もいただいてのことではありました。でも、野茂さんと連名でやらせていただくというところについては、とても自然に決まった気がします。
野茂さんの子どもたちへの接し方も、とても勉強になります。
まず、特別扱いをしない。多少うまい子がいたりしてもそうですし、まだ不慣れな子がいてもそう。
特に、うまい子を見たら、いろいろと教えてあげたくなるのが人情というものかなと思います。でも野茂さんは、基本的には温かく見守っているだけです。
とにかく、場をつくってあげる。練習も、大会もそうですが、子どもたちが自分で頑張りたいと思えたり、反省して改善したいと考えたりするキッカケをつくる。野茂さんはそこに徹していらっしゃるように思います。
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自分で考えさせる。今の世の中では野球に限らず、とても大事なことだと感じます。僕もひとりの父親として、強く思う。
トレーニングの仕方もそうだし、スイングやスローイングなどの技術についてもそうですが、僕が育ったころには本を読むくらいしか情報を得る手段がありませんでした。
それに比べると今は、YouTubeなどでとてもいい情報を簡単に得ることができます。これは野球のレベルが上がっていくために、とてもいいことだと感じています。
一方で、インターネット自体が「正解探しの場」であることには、気をつけないといけないのかもしれません。誰もが効率よく、正解にたどり着きたがる。なので、YouTubeのコンテンツも「これが正解」と示すものが人気になる。
わかりやすく伝える。多くの人の関心を引いて、満足もさせる。そういった見せ方の技術をお持ちの方を、僕は尊敬します。
一方で、わかりやすいものに触れすぎると、子どもたちが自分の頭で野球を考える機会が減ってしまうのではないか、と思ったりもします。とくに、いくつかの情報を並べてみた上で「結局のところバッティングってこんな感じが大事だよね」と抽象化して捉えるような力を、どうやって養っていくかは課題になるかもしれません。
ほかでもない僕も「打撃は結局のところ、タイミングと力感」というように抽象化ができるようになるまで、プロになってから23年かかった。そのお話は、第1回でもさせていただきました。そして、時間がかかったからこそ、ものすごく価値のある気づきになった。そう思っています。
わかりやすい尺度が“心の支え”になる
野茂氏からの大切な教えを胸に、栗山巧は24年目のシーズンに向けて歩を進める 【撮影:スリーライト】
プロ生活19年。日米通算200勝も達成された。長年活躍できた秘訣はなんなのか。かつて僕にこんなことを言ってくれたのを覚えています。
「どんな項目でもいいから、去年の自分の数字を上回るんだ」
打率でも、安打数でも、なんでもいい。1厘でも、1本でも去年を上回る。それが自信になり、心の支えになる。自分もそうやってきたと、野茂さんはおっしゃっていました。
僕にはとても意外に思えました。
誰も歩んだことのない道を切り開くパイオニア。子どもたちに自分の頭で考えさせるやり方を取るのも、ほかでもないご自身が「答えのない問い」に向き合い続けてこられたからだと納得していました。
でも一方で、とてつもなく困難な道を歩まれていたからこそ、とてもわかりやすい尺度を心の支えにされてもいたわけです。
野茂さんの偉大なキャリアを、自分に重ね合わせることなどできるわけがない。そう思っていましたし、今も思っています。
でも、何もかもが重ならないわけではない。今年で24年目。僕は去年の自分を超えることを励みに、ここまでやってこられました。野茂さんの教えがあってこそ、です。
野球についての悩みの多くは、万人に共通する。もしかしたら、世の中のあらゆる仕事にも共通するのかもしれません。あらためて、そう思ったりもします。
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1月13日。おかげさまで今年も「NOMO KURIYAMA ALL STAR GAME」を開催することができました。
野茂さんが総監督を務める但馬少年野球連盟選抜チームと、栗山巧杯で優勝した神戸市の枝吉パワーズの対戦。試合は緊迫した投手戦となり、1-1のまま延長に入りました。
タイブレーク形式で行われた延長8回裏、枝吉パワーズは2死満塁から2番・田村くんが左前打。見事にサヨナラ勝ちしました。
今年で10回目の大会ですが、当初は但馬側がとにかく強くて、かないませんでした。神戸側には1月に試合を行う文化があまりなくて、ここを目指して戦う流れがなかった、というのもあったかもしれません。
でも、回を重ねるごとに、神戸側でも大会の認知が進んできました。「小学生最後の大会」と位置づけてもらえるようになって、少しずつ但馬側と互角に戦えるようになってきた。
今回の接戦は、大会が地域に根付いた何よりの証のように感じています。そして、これだけの真剣勝負だからこそ、選手のみんなが自主的に勝ちたいと願い、自分の頭で考えるきっかけになりうるのではないか、とも思います。
野茂さんが関わられているからこその、大会の「色」なのかなと。子どもたち、そして関わるみんなにとって素晴らしい機会を、野茂さんはつくり続けられている。ご一緒できていることを、あらためて誇りに思っています。
(構成:塩畑大輔、企画:スリーライト)