新連載!栗山巧 独占手記「生涯つらぬく志」 プロ23年目で初めて抱いた感情を告白
栗山巧 独占手記「生涯つらぬく志」の連載がスタート! 野球と真摯に向き合い続けてきた栗山巧が胸の内を明かす 【撮影:スリーライト】
約1カ月にわたり、全5回の独占手記「生涯つらぬく志」を連載。第1回は「2024シーズン回顧」。チームの歴史的低迷、自身のファームでの経験など赤裸々に語る。
西口ファーム監督からの思いがけない言葉
一番はチームの低迷です。僕たち選手の力不足ゆえに、ファンの皆さんは残念な思いを何度も、何度もされたと思います。本当に申し訳ありませんでした。
勝っても負けても、球場を訪れたことをいい思い出にしていただきたい。個人的にはずっとそう考えてプレーしてきましたが、昨年に限ってはそもそも一軍に帯同する機会が本当に少なくなってしまった。
プロとして、今の自分にできることはなんなのか。そんなことを考えさせられるシーズンでもありました。
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開幕こそ一軍で迎えられた僕でしたが、結果がまったく出ませんでした。4月下旬には、一度ファームに移って調整をすることになりました。
「交流戦までに戻ってもらえれば」
そんな言葉で送り出されました。
なんとなく一軍に残り続けるよりも、ミニキャンプをしてしまった方が、きちんとプレーが整うはず――。ファームでプレーすることについては、僕もそう捉えていました。シーズンを終えた今は、ちょっと違うと感じていますが……少なくとも当時はそう思っていた。
だから、イースタンの試合にも、すぐに出場することは考えていなかったし、今やるべきことの整理をすることが最優先で、もう一度静かに、自分と、そして野球と向き合う時間をつくりたい。そんなことを考えていたかもしれません。
でも、そうは問屋がおろさなかった。当時のファームの監督、西口文也さんは僕をチームに迎え入れるなり、こう言いました。
「試合には出てくれ。選手が足りないから」
一周したことのある人のみが到達する境地
昨シーズン、二度のファーム降格を経験した栗山が得たものとは 【写真は共同】
ただ、シーズンに入ってからのファームの雰囲気というのは、キャンプの時期とはまったく違いました。
誰もが鬼気迫る様子でバットを振り、ボールに飛びついていた。みな懸命でした。勝手に教育リーグのようなイメージを持っていましたが、そこは紛(まが)うことなき真剣勝負の場だった。いつか成果を出せるように、ではない。今すぐ成果を出すために、みんなが必死でした。
最初の遠征は楽天戦。宿舎として準備されていたのは、小さなビジネスホテルでした。部屋の大半を占めるベッドに座ってみると、とても硬かった。
これで明日の試合に向けて準備しろというのか……思わずスマホを手にしました。マネージャーに電話をして、ホテルを変えてもらおう、と。
でも、すんでのところで思いとどまりました。チームメートが真剣にプレーしている姿が思い浮かんだからです。
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真剣勝負を重ねる中で、ファームのみんなと話す機会を持てたこと。それは僕にとって、とても貴重な経験になりました。
みんな必死だから、かもしれませんが、20近くも年齢が離れた僕に対しても、遠慮なく意見を求めてくるんですよね。教えることは最大の学び、とよく言われますが、まさにそうでした。一番の学びは「プレーの課題は、おおまかに言えば万人に共通」ということです。
若い選手、これからの選手に対しては、最初は「自分は若いころはこんなことを考えていた」というような話をしていました。でも、よくよく考えてみると、今の自分がこだわったり、悩んだりしていることと、そんなに遠い話じゃないんですよね。「ビジターの球場の中には、ピッチャーの背景的に集中しにくいところがある」とか。「晴天だとより難しいからどうしよう」とか。
若いころの自分と今の自分とで、考えていることにそんなに大きな違いはないし、つまりは若い選手と自分が考えていることにも差はない。そして、突き詰めて考えていけばいくほど、逆に「打撃は結局のところ、タイミングと力感」というような普遍的なところに全部おさまっていく。そんなことに気づかされました。
ものすごく面白いことだと思うんですよね。僕は23年間、ずっと野球のこと、打撃のことを考え続けてきた。その結果、議論は一周回って元の場所に戻ってくるわけです。ちょうど360度。同じところに戻ってきた。
でも、これは「23年かけて無駄足をしてしまった」というようなことではないと確信しています。一周してみたことがある人じゃないと、いまいるこの場所が、かつて立っていた場所と同じであることには気づけないんじゃないのかな、と。