高校サッカー選手権準決勝、東福岡vs.前橋育英を展望 共通項の多い名門校対決

安藤隆人

『赤い要塞』vs前橋育英が誇る個性的な2トップ

前橋育英のオノノジュ慶吏は得点ランキング2位タイ(1月9日時点)の4ゴールをマークしてチームを牽引 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 次のポイントとして、前橋育英は東福岡の堅守をどう切り崩して行くのかに焦点を当てたい。

 東福岡は191cmのGK後藤洸太、185cmの大坪聖央と180cmの山禄涼平のCBコンビという、高さもフィジカルも強固なものを持つ守備のトライアングルの存在が、『赤い要塞』と呼ばれる堅守を生み出していることは間違いない。

 この3人はただ対人やエアバトルが強いだけではなく、お互いのポジショニングを見て、守りやすい距離感を保てているのが大きい。後藤は非常に守備範囲の広いGKで、DFラインの裏へのボールに対してもペナルティーエリアの外に出ての処理に加え、ペナルティーエリア内での飛び出しからのキャッチング技術も相当高い。彼がいるからこそ、2CBもライン設定を明確にでき、相手の侵入や突破を防ぐことに集中できている。

 さらにインサイドハーフもボランチラインまで落ちて、3ボランチにして【4-3】の守備ブロックを構築することもできる。

 前橋育英はこの組織的な守備に対して、いかにオノノジュ慶吏と佐藤耕太の2トップで起点を作ることができるか。石井陽と竹ノ谷優駕のダブルボランチがブロックの間に刺す縦パスや、CBとサイドバックの間のスペースに効果的なスルーパスを通し、ブロックに亀裂を入れることができるかがポイントになる。

 今年の前橋育英の最大の武器は、毎年のようにダブルボランチがチームの心臓になっているだけではなく、2トップが非常に個性的かつサッカーIQが高いことにある。

 今大会4ゴールを叩き出しているオノノジュはスピードとフィジカルの強さに加え、ゴール前での駆け引きがうまく、シュート技術もある。躍動を見せる彼に注目が集まってしまいがちだが、佐藤も全国トップレベルの実力を持っている。

周りを生かせて自分でも行ける前橋育英・佐藤耕太がキーマン

前橋育英の佐藤耕太は、前線で攻撃の起点とバリエーションを生み出せる貴重な存在 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 今大会は1回戦の米子北戦の1ゴールのみだが、182cmのサイズを生かしたポストプレーと、ボールを受ける前に首を動かして周囲の状況を瞬時に把握をしてからボールを受けることで、ゴール前でのプレーの選択肢が非常に多い。ダイレクトパス、ターンしてからのパス、ドリブル、シュート。これらの中から的確なものを選択し、正確にプレーする。人とボールが動いていく前橋育英のサッカーの中でも、前線で攻撃の起点とバリエーションを生み出せる貴重な存在である。

 実績的にもプレミアEASTにおいて10ゴールで得点ランキングトップタイ(他2人)に立ったオノノジュに対し、佐藤も9ゴールをマークして同4位タイ(他1人)。ユース年代最高峰のリーグの中で、2人でチームの全ゴールの半分以上に当たる19ゴールを叩き出している。

 この2人がそれぞれの能力を発揮するからこそ、相手からすれば守備の的を絞りづらくなる。佐藤のポストプレーに警戒しすぎると、その脇から湧き出てくるオノノジュの餌食になるし、オノノジュを警戒しすぎると今度は佐藤にターンからゴールに迫られたり、別の味方につながれてそこからチャンスを生み出されたりする。

 東福岡はこの2トップの個性をこれまで通りの守備できっちりと消すことができるか。この攻防はまさに『矛と盾』の対決の象徴的なポイントとなるだろう。

2/2ページ

著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント