過去5大会の選手権を沸かせたあの逸材は、今どこに? 海外直行組、大学進学組、そして変わり種も…
98回大会で24年ぶりに選手権を制した静岡学園の松村(右)と岩本。Jリーグで成長を続ける松村に対して、大会得点王の岩本は中京大を経てドイツへと渡った 【Photo by Zhizhao Wu/Getty Images】
得点王の静学・岩本はドイツ6部に
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静学を令和初の王者へと導いた立役者の1人、高速ドリブラーの松村優太は卒業後、鹿島アントラーズに入団。2021年シーズンにはJ1初ゴールも決めたが出番は限られ、昨季途中に東京ヴェルディに期限付き移籍している。ちなみに、この大会で尚志のエースとして期待されながら怪我で無念の登録外となった染野唯月も卒業後に鹿島入りし、その後東京Vに期限付き移籍(12月25日に完全移籍)。昨季後半戦は再びチームメイトとして戦った。
怪我の2年生エース・加納大(中央大⇒25年長野パルセイロ入団内定)の代役に抜擢され、5ゴールで大会得点王に輝いた静学の岩本悠輝は、中京大に進学したのち、23年に渡独。現在はドイツ6部のヴァルドブルンに在籍し、今季前半戦で4得点・5アシストの好成績を残している。
その他、準優勝の青森山田で10番を背負った武田英寿、初のベスト4入りを果たした帝京長岡の晴山岬と谷内田哲平、岩本とともに得点王となった四日市中央工の森夢真、市立船橋の攻撃の要・鈴木唯人が大会後にJクラブ入りしているが、当時と所属先が変わらないのはJ3のアスルクラロ沼津でプレーする森のみ。国外リーグで研鑽を積む者も少なくないが、なかでも出世頭と言えるのが、この選手権では初戦敗退に終わった鈴木だ。清水エスパルスからフランスのストラスブールを経て、23年に加入したデンマークのブレンビーで飛躍を遂げ、日本代表にまで上り詰めている。
変わり種は神戸広陵でキャプテンを務めた沖吉大夢だろう。卒業後の20年8月にアメリカのソルトレイク短期大へ留学し、現在はNCAAの強豪マーシャル大で中心選手として活躍。MLS入りを目指して奮闘中だ。
また、当時2年生ながらインパクトを放ったのが、昌平の小見洋太と前橋育英の中村草太。1年後にアルビレックス新潟に加入した小見に続き、昨季と今季の2年連続で関東大学リーグ1部の得点王とアシスト王をダブル受賞した明治大の中村も、25年シーズンからサンフレッチェ広島のルーキーとしてプロの世界に身を投じる。
異色のキャリアを歩む山梨学院の10番
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99回大会の決勝で値千金の同点弾を決めた山梨学院の野田は、進学した順天堂大のサッカー部を退部。現在は社会人クラブでサッカーを続けながら、様々な活動をしている 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】
異例の大会を制したのは、山梨学院。奇しくも初優勝を飾った88回大会と同じ、青森山田との対戦となった決勝をPK戦の末に制して11年ぶり2回目の日本一に輝いている。なおベスト4の顔ぶれは、山梨学院以外は前回大会とまったく同じだった。
ピックアップした10人のうち、当時2年生の木原励(浦和から過去2年連続で長野に期限付き移籍)を除く3年生9人で、卒業後すぐにプロの道へと進んだのは青森山田の堅守を支えたキャプテンの藤原優大と、同じくサイドバックのタビナス・ポール・ビスマルクのみ。浦和から国内での期限付き移籍を繰り返す藤原(大分トリニータへの期限付き移籍を来季まで延長)に対して、ダビナスはいわてグルージャ盛岡から23年にクロアチアへ渡り、現在は同国2部のHNKヴコヴァルで右サイドバックのレギュラーを張る。22年には母親の祖国フィリピンの代表としてデビューも飾った。
大半が大学進学組で、彼らにとって25年はいわば“社会人1年目”にあたる。この大会で3つのPK戦勝利をもたらした山梨学院の絶対的守護神、熊倉匠が鹿児島ユナイテッド、その熊倉とともに強固な守備を支えたセンターバックの一瀬大寿が来季のヴァンフォーレ甲府入りを勝ち取るなど、その多くがすでにプロ入りを決めている。
2年連続準優勝に終わった青森山田だが、大学進学組のタレントも優秀だ。ロングスローで話題を呼んだ内田陽介は、明治大での4年間を経て25年の東京V入団が内定している。さらに矢板中央との準決勝でハットトリックをマークするなど、5ゴールで大会得点王となった安斎颯馬に至っては、早稲田大在学中の23年に特別指定選手としてFC東京でデビュー。25年からの加入内定を1年前倒しにして昨季にプロ契約を結ぶと、ルーキーイヤーからいきなり右ウイングのスタメン争いに絡んだ。
一方で、山梨学院の10番・野田武瑠は異色のキャリアを歩む。順天堂大サッカー部を退部後、関東サッカーリーグ1部の東京ユナイテッドFCに加入。さらに元Jリーガーの那須大亮氏が監督を務めるインフルエンサーサッカーチーム「ウィナーズ」に参加する傍ら、モデルやユーチューバーとしても活躍中だ。
Jリーグでの実績が抜きん出るのは……
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第100回の記念大会を制した青森山田のボランチコンビ、松木(右)と宇野。欧州へと飛び出した松木に負けじと、宇野も昨季途中加入の清水で成長の跡を覗かせた 【写真は共同】
大会の顔は、なんと言っても青森山田の松木玖生だ。キャプテンとして臨んだ自身3度目の選手権で、準々決勝からの3戦連発を含む4ゴール・2アシスト。圧巻のパフォーマンスで2年分の鬱憤を晴らし、卒業後にFC東京入りを果たしている。
24年夏にプレミアリーグのサウサンプトンへ完全移籍し、現在はレンタル先であるトルコのギョズテベで徐々に状態を上げている松木だが、欧州でのキャリアでその上を行くのが、チェイス・アンリだ。尚志での最後の選手権が2回戦敗退に終わると、大会終了後はJクラブを挟まず、直接ドイツへ。今季シュツットガルトのBチームからトップチームに引き上げられたセンターバック兼右サイドバックは、すでにチャンピオンズリーグの大舞台も経験済みだ。
“タレント軍団”静岡学園でひと際まばゆい光を放ったドリブラーの古川陽介も、ジュビロ磐田からのレンタルで今や欧州組の1人に。ポーランド1部リーグのグールニク・ザブジェでは途中出場がメインだが、11月下旬には待望の移籍後初ゴールを挙げている。
高卒でJリーグ入りした選手では、この大会の得点王で、湘南ベルマーレ3年目の昨季にキャリアハイの10ゴールを挙げた鈴木章斗(阪南大高)の実績が抜きん出る。また、青森山田の中盤で松木とコンビを組んだ宇野禅斗も、恩師・黒田剛監督が率いるFC町田ゼルビアからの期限付き移籍で昨季途中に加入した清水でひと皮むけた印象だ。
大学進学組では、今季の明治大で1学年上のキャプテン中村らとともに関東大学リーグ1部の無敗優勝に貢献した藤森颯太(青森山田)と林晴己(高川学園)のコンビや、関東一で10番を背負い、現在は桐蔭横浜大でプレーする肥田野蓮治らも、将来のJリーガー候補だろう。
もっとも、彼らより一足先に26年のプロ入り内定を勝ち取りそうなのが、大津を初の選手権決勝に導き、筑波大では3年生ながら大学サッカー界ナンバー1GKと評される佐藤瑠星だ。今年の天皇杯2回戦で町田撃破の立役者となった守護神を、複数クラブとの争奪戦を制して浦和が獲得すると報じられている。