今季から米PGAツアーに本格参戦 欧州ツアー優勝も経験した星野陸也の決意と原点

北村収

欧州初V直後に急病で約2カ月ツアーを離脱

 2024年4月、肺の痛みと呼吸がしにくくなる症状に突然襲われた。「気胸」という病気だった。「軽い方だったので最短の1週間で退院できたし、治りも早かった」が、約2カ月間ツアーからの離脱を強いられた。「1カ月くらいは全く運動も練習もできなかったので、体力は落ち、ゴルフの感覚も無くなった」という。

 この長い休みからの復帰第1戦で選んだのが全米オープン。星野はあえて高い壁を選んだ。「正直、全米オープンで上手くいくとは思っていませんでした。ただ、あえてコースが難しい試合に出ることで、試合感とかが早く戻るのでないか」という戦法だった。全米オープンでは予選落ちとなったが、翌週にオランダで実施された「KLMオープン」では10位に入る活躍。「ショットの感覚はまだ戻ってなかったが、ゴルフ感は全米オープンに出たことでかなり戻っていた」。一番厳しい環境に身を置くという戦略が功を奏した。

「結局、失敗しても成功しても、反省というか次につながると思っています。全くやっていないことに挑戦するのでは何も得ることはないと思いますが、今までの経験があっての大きなことへのチャレンジなので、もしダメだったとしてももう一つの次のパターンに行けるんです」。常に厳しい選択をすることで、得ることができることの大きさを強調する。

今オフは体力の回復を最優先にし、PGAツアー参戦への準備は万全

 2025年、星野はついにPGAツアーのメンバーとして新たな戦いに挑む。「子供の頃からの夢だったPGAツアーに出場できることは、本当に嬉しいです。でも、ここからが本番です。一試合一試合、目の前の目標をクリアしていきたいと思います」と語る。

 これまでのキャリアで積み上げてきた経験を活かし、アメリカでも順応力を発揮していくつもりだ。「ヨーロッパで得た経験は、アメリカでも絶対に生きると思います。コースの芝質や環境が大会ごとに大きく変わるので、どんな状況にも対応できる順応力を身につけることができました」と話す。

 2024年11月中旬の欧州ツアーの最終戦から試合には出ずに調整をしてきた。「気胸を患った後はPGAツアーの出場資格を得るために体力が完全に回復していないのに無理をして試合に出ていました。体力も気力を使い果たしてしまい、実は終盤は飛距離も10ヤードくらい落ちていました。このオフは体力の回復を最優先に行い、今は昨年2月の優勝時の筋力量まで戻りました」

ゴルフは仕事でも“楽しむ”が大切――多彩なショットこそ自分の持ち味

 星野はInstagramやX(旧Twitter)を駆使し、積極的に情報発信を行っている。投稿内容は試合の結果やゴルフに関する話題だけでなく、ツアー先の現地の風景や文化についてのレポートも多い。全て自分で投稿しているというから驚きだ。「僕は元々歴史が好きで、世界史も得意でした。欧州ツアーで各国を訪れるときは、純粋にその土地の文化や歴史を楽しんでいます。フォロワーの皆さんも、僕のファンとして一緒にその経験を楽しんでもらえたら嬉しいです」と、SNSを通じてファンとのつながりを大切にしている。
「ゴルフは仕事でもありますが、楽しみながらやりたいんです」と星野は語る。186センチという恵まれた体格から放たれる力強いショットが印象的だが、「いろいろな球筋を打つのが好きなんです」と話す。子供の頃から憧れている「タイガーの動画を見て、風に逆らったり、低い球や高い球を自在に操るのを見て、『ゴルフってこんなにいろんなショットが打てるんだ』と感動しました。それが僕のプレースタイルの原点です」。

 実際、星野のショットメイキングは多彩だ。「一時期、同じ球筋を打つほうがスコアは安定すると思っていた時もありました。でも、それではゴルフが楽しくなくなってしまったんです」と語る。「自分は、風に合わせて低い球を打ったり、右に曲げたり左に曲げたり、いろんなショットを打つことが楽しい。それが僕の持ち味だと思います」

星野陸也の目標と確固たる姿勢

笑顔でインタビューに応じてくれた星野陸也選手 【北村収】

 今年、そして将来の目標についても、今までと同様、一歩、一歩歩んでいく。「まずはPGAツアーで常に上位に入れるようになって、それからPGAツアーで1勝をしたい。ほとんどのコースが初めてなので、まずはしっかりとコースを見極めて、出場可能な試合には全部出ていくつもりです。今年もいい成績を残しながら、翌年に向けての準備を進めていきたい」と語る。

 星野の魅力は、穏やかな表情の中に秘められた強い意志だ。大学を中退し、プロの試合に飛び込むという大胆な決断をし、さらに復帰戦にあえて最難関の全米オープンを選ぶなど、その姿勢は常に挑戦を恐れない。星野の行動には、強い信念と揺るがない覚悟がある。

 さらに、星野が口にする言葉の端々には、感謝の気持ちがにじんでいる。「家族のサポートがあったからこそ、ここまで来られました。高校時代の恩師や、ツアーで出会った仲間たちからも多くを学びました」と、インタビューのところどころで周りへの感謝を語っていた。多くの人々からの支えを自らの力に変え、これまでのキャリアを築き上げてきたのだ。

「松山さんのように勝利を重ねて、いずれはメジャーでも勝ちたいです」と、星野は未来の目標を明かす。学生時代、日本ツアー、欧州ツアー、そして来年からのPGAツアーと、着実に階段を上がってきた星野陸也。これからも一段一段、確かな足取りで、世界の頂点を目指して歩んでいくだろう。

 星野が築き上げてきた確固たるその姿勢と努力は、いずれ大舞台での栄光を手にする感動的な瞬間を、日本のファンに届けてくれるはずだ。

取材協力:宍戸ヒルズカントリークラブ

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。法律関係の出版社を経て、1996年にゴルフ雑誌アルバ(ALBA)編集部に配属。2000年アルバ編集チーフに就任。2003年ゴルフダイジェスト・オンラインに入社し、同年メディア部門のゼネラルマネージャーに。在職中に日本ゴルフトーナメント振興協会のメディア委員を務める。2011年4月に独立し、同年6月に(株)ナインバリューズを起業。紙、Web、ソーシャルメディアなどのさまざまな媒体で、ゴルフ編集者兼ゴルフwebディレクターとしての仕事に従事している。

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