メジャーチャンプを大々的に賞賛する欧米文化が日本で! 全米女子OP覇者・笹生優花が日本で実施した「トロフィーツアー」の意義

北村収

「トロフィーツアー」を行った笹生優花 【写真提供:全米ゴルフ協会(USGA)】

 今年の5月30日から6月2日まで、ペンシルバニア州ランカスターCCで開催された全米女子オープンで、笹生優花が優勝を果たした。この偉業の半年後となった12月、全米ゴルフ協会(以下「USGA」)は、日本で笹生のために「トロフィーツアー」という日本人には馴染みのないイベントを実施した。この催しは単なる祝福だけではなく、USGAがアジア市場を重要視し、ゴルフ文化を広げるための戦略でもあった。

トロフィーツアーとは?

 近年、アジア選手が全米女子オープンで優勝するケースが増加している。初めてのアジア人チャンピオンは、1998年のパク・セリ(韓国)。その後2005年からは韓国の選手を中心にアジア人優勝者が多く出ており、最近では2018年のアリヤ・ジュタヌガーン(タイ)、2019年のイ・ジョンウン6(韓国)、2020年のキム・アリム(韓国)、2021年の笹生優花(当時の国籍はフィリピン)と続いた。この流れを受けて、USGAは「トロフィーツアー」というイベントを企画した。

 日本ではあまり馴染みのないこの催しは、欧米では一般的だ。例えばライダーカップで優勝した欧州チームの選手が、トロフィーとともに母国で勝利を祝う事例などがある。またゴルフ以外でも、サッカー、アイスホッケー、ラグビー、バスケットボールなどでは、トロフィーが世界中を回るイベントを行っており、イングランドサッカーのプレミアリーグで4連覇を果たしたマンチェスター・シティが日本の東京で今年9月に「トロフィーツアー」を実施している。また、優勝チームの選手の故郷などでトロフィーを披露するイベントが数多く開催されている。

USGAがトロフィーツアーを企画した狙い

「トロフィーツアー」についてUSGA最高経営責任者(CEO)のマイク・ワンは、「チャンピオンが最も大切にしている場所でその功績を称えるという取り組みで、アジアで新たな観客層にリーチし、ゴルフの重要性を世界中に伝えることを目的としています」とコメント。さらにUSGA大会広報責任者のジュリア・パインは、「(チャンピオンの)地元の人々や国々がどれほど誇りに思っているかを選手たちに感じてもらう機会にもなります。また、これらの素晴らしいアスリートたちの背景にある物語を伝える場でもあります。様々な国からチャンピオンが誕生する中で、アジアでこのトロフィーツアーの伝統を開催することには特別な意義があると考えました」と加えている。

 初めて「トロフィーツアー」を開催したのは2019年イ・ジョンウン6が優勝したときだった。当時、イ・ジョンウン6の父親が身体的な理由でアメリカに来られなかったため、家族と一緒に母国で祝うことができた。

 2021年に優勝した笹生はコロナ禍の中当時の国籍だったフィリピンに戻り、「自分が育った場所で、アマチュアの頃からずっと一緒だった方たちと一緒にトロフィーを見られたのですごく良かった」と話す。

米国では当たり前の国を挙げての祝福の文化

 米国では、ゴルフのメジャーチャンピオンが広く国民的な注目を集める文化がある。例えば、全米女子オープンの覇者となった選手は、ニューヨークのテレビ局を巡り、複数のトークショーに出演するのが一般的だという。また、全米オープン以外のメジャーチャンピオンでも同様に国をあげての祝福を受けるのが通常だ。これは、優勝者をゴルフファンだけでなく、一般層にも知らしめる大切な機会となる。

 近年、日本人メジャーチャンピオンが続々と誕生している。男子では2021年にはマスターズで松山英樹が優勝を果たした。女子では2019年には渋野日向子が全英女子オープン、そして今年は全米オープンで笹生優花が優勝し、アムンディ・エビアン選手権では古江彩佳が勝利した。

 一方、日本ではゴルフのメジャーチャンピオンを祝福する文化がまだ十分に根付いていないように思える。例えば、オリンピックのメダリストがテレビ番組に多数出演するのに対し、ゴルフのメジャー優勝者が同様の扱いを受けることは少なかった。

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。法律関係の出版社を経て、1996年にゴルフ雑誌アルバ(ALBA)編集部に配属。2000年アルバ編集チーフに就任。2003年ゴルフダイジェスト・オンラインに入社し、同年メディア部門のゼネラルマネージャーに。在職中に日本ゴルフトーナメント振興協会のメディア委員を務める。2011年4月に独立し、同年6月に(株)ナインバリューズを起業。紙、Web、ソーシャルメディアなどのさまざまな媒体で、ゴルフ編集者兼ゴルフwebディレクターとしての仕事に従事している。

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